第45話 やりたい事
俺は2人からの勧誘を断った。
レイさんは俺からの返答を聞くと両手で頬杖を付く。
「理由を…聞いてもいいかな?」
そりゃあそういう反応もされるだろう。
仮に俺も元からこの世界の住人なら自分より高ランクの人から勧誘されれば喜んで入るだろう。
だが今の俺は違う。
この世界において俺という存在は"異物"としか言いようがない。
以前、神と名乗る存在は俺に対して"何も望まない"と言われている。
つまり今の俺が日本で学んできた知識や技術をこの世界に取り入れて出来る限りの技術発展をしてもいいという事だ。
いいのだが…果たして俺にそれが許されるのだろうか?
俺から見たらこの世界は何世紀も文明は遅れている。
仮に俺が日本で学んだ知識や技術をこの世界で使い、それが原因でこの世界のバランスが崩れ、不可侵条約の意味が無くなったら?
考え過ぎ
そう思われてもいい。
こういう事については慎重になるべきだ。
この世界はこの世界特有の進化と成長をさせた方がいい。
まぁ変なエゴがあるが別の理由もある。
せっかくこの世界に来たんだからこの世界でしかやれない事をやってみたい。
例えば今回のように魔術を習う為にラテゼ魔工皇国に行くのもいいだろう。
この国以外にも様々な国があるんだ。
色んな物を見てみたい。
そう、1人でのんびりと旅をしたくなったのだ。
「実はアンリさんという方から魔術を習うよう勧められてて、近い内に行こうかなと思ってるのと色んな国を見て回りたいっていうのが断った理由です」
「…」
レイさんは俺をジッ…と見るがやがて諦めたように息を付いた。
「ま、そういう理由があるなら仕方無いな」
どうやら勧誘は諦めてくれたようだ。
すると、よし!と木製のジョッキを掲げる。
「ならジェイル君の新たな目標を祝うとするか」
「おー!そうしようそうしよう!」
レイさんに続き、アテナさんもジョッキを持ち上げ、俺もそれに続いた。
「では、ジェイル君の新たな目標に────乾杯!」
「「乾杯!」」
カコン!と軽い音が鳴り、3人とも一気に中身を飲み干した。
「フーッ!美味い!店員さーん!同じのおかわりー!2人はどうするの?」
「なら私もお願いするかな」
「じゃあ俺も」
3人で同じのを注文する。
すぐにお酒の入ったジョッキが3つテーブルに置かれた。
「それで、ジェイル君はいつラテゼ魔工皇国に行くつもりなんだい?」
「一応明後日ですね。明日はギルドの人達とか、お世話になった方達に挨拶をして回ろうかと思ってます」
「え?挨拶回りするの?律儀だねー」
「その言い方だとあまりやらないんですか?」
2人が言うには拠点を点々とする冒険者は借り続けた宿に感謝として一泊する時の2倍の金額を使っていた部屋のテーブルに置いておき、そのままいつも通り宿を出るんだとか。
実はこの金額も意味があり、かなり昔にとある宿を訪れた有名な冒険者が感謝の言葉とその金額を置いていき、宿を出ていったらしい。
そして何年か後に再びその宿に訪れた時に店主から丁寧なもてなしを受けたのがキッカケで今ではその金額だけが風習として残っている。
俺は剣道をやっていたから稽古が終わった時には師範に挨拶をして回るのが普通だった為、挨拶回りはやるつもりだ。
「実は俺のいた所では剣術の稽古の後、その師範に挨拶に行くのが普通だったのでそれだけはやろうかと思ってます」
「ま、別れの挨拶なら行くべきなんだろうね」
レイさんも納得して再びジョッキの酒を飲む。
それからも色々と3人で話し、宴会は続いていた。
◇◆◇◆◇◆
「えへへ~」
「全く…」
復帰祝いを終えた俺達だったが、完全にアテナさんは酔い潰れ、レイさんに肩を借りていた。
…なんだろうなぁ…酔い潰れて肩を借りてるのを見ると大学の頃にやった同期組での飲み会を思い出す…
「…大丈夫…なんですよね?」
「一応はね…これは明日の朝は説教から始まるかな」
一応レイさんにはお手柔らかに…とだけ言っておいた…
「それじゃ、また明日」
「はい、また明日」
俺はアテナさんに肩を貸しながら歩くレイさんの後ろ姿を見て、どうか吐きませんように…と心の中で合掌し、宿に帰った。
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