第36話保険

「…理由をお聞かせ願いたいのですが」


俺は少しでも安全にスタンピードに迎え撃つ方法を考えていた。

そしてギルド長もその提案に乗ってくれた。

その矢先にこんな事を言われたのだ。


「先に言っておくがこれは君の提案を横取りしたい訳では無い。ある種の保険だよ」

「保険?」

「あぁ、所で君はあの跡地をどこまで理解出来ているかい?」


アイル交易道跡地をどこまでって…前にその交易道を開こうとしたら立地が最悪だから中止になってそのまま放置されてるっていう程度にしか聞いていない。


「実はあの跡地は一部貴族も投資をしていてね。投資を無駄にしたくない上、あの跡地はまだ使えると言い張って周辺の村の者達に維持費として税を搾取している状況なんだ」


おっと、なんか碌でもない内容になってきたぞ。

必要になりそうだから村の者達に維持費で税?そこまでして税の搾取に必死になるのか。


「仮に今回の提案をそのまま実行して提案者である君を引き合いに出したら恐らくその者達は跡地を滅茶苦茶にされたと君を国に訴え、賠償金を支払わせかねないんだ」


なんだそりゃ。

え、冒険者や国民を守る為に提案したのに一部貴族の訳分からん理由で訴えられて賠償金まで支払わなきゃならなくなるの?


「だからこそ、先程のを私が代わりに発案したとなるとその貴族達も私相手なら口を出す事は出来なくなる」

「え?ギルド長ってそんなに権力あるんですか?」

「ギルド長という役割は基本上級貴族のみがなれる役職でね。様々な条件をクリアしてようやくなれるんだ。だからそこらにいる貴族と比べると私の方が権力的に上なんだよ」


その話を聞いて、先程の提案の件も納得した。

まぁ確かに一般冒険者の提案とギルド長の提案なら同じ内容でも重要度で言えばギルド長の方が強くなる。

それゆえの提案を代行を名乗り出てくれたのか。


「提案者は私になるが真の提案者は君だ。だからこそ、この作戦が成功した暁には多くの報酬を出し、君という勇敢な冒険者がいる事を私は覚えている事を約束しよう」


ギルド長はそう言って俺に頭を下げた。


「アーリア!来てくれ」


ギルド長がアーリアさんを呼ぶとすぐに扉が開き、アーリアさんが入ってきた。


「お呼びですか」

「今回のスタンピードに関する必要なものは彼を中心に揃えてくれ」


ギルド長の声にアーリアさんは畏まりました。と一礼する。


「ではジェイル様、こちらへ」

「え?はい」


突然呼ばれ、アーリアさんに着いていく。

失礼します。と言ってアーリアさんは扉を閉めてしまった。


「ではジェイル様。必要な者、物資の指示をお願いします」

「えっ!?もう!?」


ちょっと待って。展開が早い。

というか俺スタンピードも迎撃も初めてだし、指示とか何をすればいいんですか…


「えっと…指示とか出すのはあまり得意では無いんですけど…」

「では、ジェイル様が立てた作戦をご説明下さい。そこから必要ものを割り出しましょう」

「…分かりました。それで提案なんですけど…───」


俺はギルド長と同じ内容の提案をアーリアさんに話す。

ちなみに作戦は次の通りだ。


まず、足場の悪い跡地を更に悪くしてそれを藁等で隠し、モンスター達を呼ぶ。

足場の悪くなった所ではモンスター達も足がもつれて動きにくくなる。

そうなってくると次々に押し寄せるモンスターは他のモンスターを踏んだり敵味方構わず突撃する可能性があるがあの長い跡地の道は全て悪くして藁で隠してるからまたもつれるの繰り返しだ。

ある程度モンスターが入ったら安全な崖上から冒険者達に魔法を使ってもらい、数を減らす。

その時に地面に当たったり壁に当たってもその場合は生き埋めを狙える。

そして数が減ったら待機させていた近接武器を持つ冒険者と交代して殲滅を図る。

これが一連の流れとなる。


「分かりました。となると魔法使いの冒険者達はまとめて崖上に待機させましょう」

「そうですね。あ、それと集めた中の三割の魔法使いの人達は足場を悪くしたいので水魔法を使える人にして下さい。それと────」


慣れない中でも必死に必要な物を考えてスタンピードに対抗出来る術を探す。


「───必要なのは以上です」

「分かりました。直ちに揃えます」


こうしてスタンピードに対する方法を固めていくのであった。

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