第38話 万事休す

「ユウ様、イロハ様、エノキ様!こちらへ」


「ひ、ひどい」


イロハ先生、思わず顔を背けた。


「ひ、ひどいにおいだ」


そこには、身体中が黒斑で覆われている、何者かがいた。


(うぐっ。ぐわぁっ)


ん?今、何か聞こえたか?


「ユウ様!これが、これがユウ様方がお話してくださった怪異・・・なのでしょうか!!??」


ぷしゅぅぅぅぅぅう!


黒い液体が飛んできた!


「ヨコグラ殿ぉぉぉぉぉ!あ、危ない!!!」


ぴちゃぁ。


エノキは、その黒い液体を外套の背中で受けたが・・・。


「エノキ様、大丈夫ですか?!」


「自分は、自分は、平気・・・っす!それより、ヨコグラ殿は、無事っすか?」


「はい!無事です」


「ぐっ!ぐぁあああ」


「エノキさん!」


エノキの背中がみるみるうちに、どす黒い斑点で覆われた。


「ぐっ、修行がまだまだたりないっす・・・」


「エノキ様っ!」


エノキは、その場で突っ伏した。


黒い斑点が全身へ瞬く間に広がっていく。


あぁ、

あぁ。


エノキさんが。


黒い何かに、飲み込まれていく。


ぷしゅぅぅぅぅぅう!


ぴちゃぁ。



黒い液体が再び、発射される。


「避けるのよ、ユウ!」


うお!


間一髪のところで避けた。


「なんだってんだ!」


「厄介なことになったわね。怪異か、私たちの手に負えるかしら。ヨコグラさん!」


「はい!イロハ様、なんでしょう」


「ヨコグラさんは、宿のお客さんたちの避難を。ここは、私たちがなんとかします!」


「でも・・・」


「ヨコグラさん!被害が広がらないためにも!あなたにはあなたのできることをしてください!」


支配人は、倒れて動かないエノキに目をやると、自分の責務を思い出したようで、


「はい!イロハ様、そして杜人ユウ様!!ここは、お願いいたします!!!」


そう言うと、光の粒子とともにその場から消えた。


「さあ、ユウ。この怪異、どう方をつける?」


「それがわかったら苦労しないって!」


「そうね。とにかく、ユウ!黒い液体には触れたらダメよ!!」


ぷしゅぅぅぅぅぅう!


「イロハ先生!あぶ」


「光よ!」


ぴち。


ぴち。


ぴち。


イロハ先生の手の平から、光の壁が。


液体が、光の壁に弾かれている。


「ユウ。この液体の弾幕を全部避け切るなんてスマートじゃないもの。私の精霊魔法で、光の結界を張ったわ。ここの中には、邪悪なものは近寄ることはできない。それより、ユウ。よく見て」


「な、なんだよこれ」


黒い液体だと思っていたそれは、まるで生きているかのように縦横無尽に動いている。


「この怪異は、液体の性質を持つのかしら。厄介ね。しかも、意志を持っているように思えるわ」


「意志だって!!」


ぷしゅぅぅぅぅぅう!


わ!!!後ろへ跳んで避けたが、バランスを崩した!


ドテンっ!


ぷしゅぅぅぅぅぅう!


さらに、追い討ち!


「ふざけろよ!」


「光よ!」


ぴち。


ぴち。


ぴち。


「け、結界。イロハ先生、ありがとう」


「だから言ったでしょう?この攻撃を全部避けるのは、スマートじゃないもの。いかにして動かずして、自分の身を守っていくのか。それが、私たち樹木の生きる知恵なのよ」


「能書きはいい!!」


ぷしゅぅぅぅぅぅう!



ぴち。


ぴち。


ぴち。


怪異は、またその液体の身体で襲いかかってきたが、結界に阻まれて滴り落ちる。


そのとき、


「あ!!!!!!!!!」


「ユウ、どうしたのよ」


「この怪異の習性がわかったんだ」


「習性?怪異にそんなのがあるの?」


「怪異をよく観察すると、その行動パターンがわかるんだ!ほら」


パンパン!


ぼくは、手を強く叩いた。


ぷしゅぅぅぅぅぅう!


ぴち。


ぴち。


ぴち。


襲いかかってきた怪異は、また結界に阻まれて滴り落ちる。


「ユウ。この怪異の習性って・・・」


「うん。この怪異は、人に襲いかかってくるんじゃない。音に反応して寄ってくるんだ」

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