第167話 ゴーレムvsゴーレム
万葉と三雲の戦いが本格化しようとしている頃、圧倒的格上と対峙することになっていた剛志はというと、いまだ膠着状態だった。
権蔵は切り札の超巨大ゴーレム・タイタンの肩に乗りながら、新しいゴーレムを作っては投下することを繰り返していた。
タイタンの肩から落ちてくるゴーレムたちは、その落下ダメージで自身もかなりの損害を受けながらも周囲に大きなダメージを与え、その後はボロボロの状態で暴れだす。
もちろん最初から傷ついている状態なので、そのゴーレムを倒すことは簡単なのだが、厄介なのが自爆だ。
最初から自爆する前提で作られている権蔵のゴーレムたち。なので倒し切るよりも早く爆発してしまう。むしろ動く自動爆撃装置としての運用が主だ。
落下による攻撃と自爆による攻撃の二段構えにより、かなりのスピードで剛志のゴーレムは倒されているのだ。こういった範囲攻撃に耐えるのが苦手というのも、一体一体はそこまで強くない剛志のゴーレムたちの弱点であると言えよう。
いまだ立ち尽くすのみで動き出さない超巨大ゴーレム。そして着実に削られる戦力。大見えを切った手前、一気に権蔵を倒してしまいたいのだが、いまだ剛志は権蔵と勝負にすらなっていなかったのだ。
そんな剛志にしびれを切らした権蔵が、タイタンの肩から剛志目掛けて叫んできた。
「おい! いい加減攻めてこんのか!? あれだけの口をたたきながらこの体たらく、正直がっかりじゃぞ!」
「あなたもそんなに暇なら下りてきたらどうです? 相手してあげますよ?」
そう言って返す剛志。しかし、それを聞いた権蔵の心は冷めていく。正直剛志のことを全く期待していなかった権蔵だったが、ここまで口だけだとは思っていなかったのだ。あれだけの口をたたいたのだから、ガンガン攻めてくるかと思いきや、安い挑発さえする始末。
そこで権蔵はもう終わらせることにした。
「……はぁ~。全く楽しくなかったわい。あれだけの口をたたけた理由は無知ゆえか。これ以上はないというなら終わりじゃ!」
そう言ってタイタンに指示を下す権蔵。その指示を受けて、今まで止まったままだったタイタンがその巨体を動かしだした。
ゴゴゴゴゴゴゴと地響きを奏でながら腕を振り上げるタイタン。そのスピードは巨体ゆえにかなりゆっくりではあるが、それでも巨大な腕だ。いくら動きが鈍いとはいえ、人間のサイズ感で考えるととんでもないスピードになる。
そして、勢いそのまま、強く地面に叩きつけられたタイタンの腕。さらにその腕はとても頑丈で、ダンジョンの地面をかなりの範囲で破壊した今の攻撃でもびくともしないのだ。
土煙が立ち込めるなか、攻撃の直撃地点にいた剛志のゴーレムたちはどうなったのか。そう思い目を凝らす権蔵だったが、その瞳に映り込んできた光景は想像もしなかったものだった。なぜか先ほどまではいなかったゴーレムたちが、タイタンの振りかざした腕にくっついていたからだ。
「なんじゃ?」
そう言い戸惑う権蔵。その次の瞬間、権蔵の乗っていたタイタンが前のめりにつまずき出す。
ただ少しつまずいただけでかなりの音が鳴り響くタイタンだが、権蔵は自分の指示を受けていないにも関わらず動き出したタイタンに驚いていた。
そして今まさに前のめりで倒れ出したタイタン。一度傾いたその巨体はちょっとやそっとのことでは止まれない。
「持ちこたえろ!」
咄嗟に声を出しながらタイタンに指示を出す権蔵。声に出てしまっているということは、かなり焦っているということだろう。
それに対し、今まで静かにしていた剛志の声が権蔵の耳に届く。
「全く。安全圏でちまちまやっていればいいものを、そうやって余計なことをするから罠にはまるんですよ。私はあなたがそのゴーレムを動かすタイミングを見計らっていたんですよ」
今までの剛志の言動からは想像がつかないような煽り文句を放つ剛志。しかし、これには意味があった。剛志自身半信半疑ではあるのだが、イチロイドの分析ではこういう話し方の方が相手の思考力を奪えるとのアドバイスがあったのだ。
そんな事とはつゆ知らず、先ほどから剛志という若造に舐めた口をきかれ続けている権蔵の堪忍袋の緒は切れる寸前だった。
剛志が内心「これで合ってるのか」と心配になりながらも演技をしているなど全く知らない権蔵は、額に青筋を立てながらも、努めて冷静に話し出す。
「貴様! ……罠とはどういうことじゃ?」
そう聞かれた剛志は、またしても頑張って嫌味を混じりに説明をする。
「あなたの切り札であるその超巨大ゴーレムに、まずは膝をつかせるのが目的だったんですよ。ただ立っているそのゴーレムを倒すのは難しいので、自分で姿勢を崩してもらうのが目的でした。そこで待ちに徹していたところにしびれを切らしたあなたが考えなしに攻撃してくれたことで、準備していた罠を作動させることができたというわけです。ありがとうございます」
剛志をよく知る人間からすると違和感のある発言内容だが、ただでさえ我慢の苦手な権蔵は、それだけで完全にブチ切れてしまった。
ここまでは完全に剛志の作戦勝ちだ。そしてこの作戦の立案者はもちろんイチロイドである。
剛志と権蔵の戦いが始まったところから説明をすると、まずイチロイドは今までの情報から権蔵という男の性格を分析し、そこに付け入るスキがあると判断したため、剛志に強い口調で権蔵に戦いを挑むよう指示した。
剛志としても普段から命を狙われる側で、自分勝手な理由で襲ってくるA.B.Y.S.S.の面々には辟易していたところだったので、初めの宣戦布告的発言は本心ではある。
そして、その剛志の発言を受けて権蔵はまず「面白い」と感じた。生意気発言自体は権蔵にとってそこまで怒るほどのことではなかったのだ。しかし、これは戦闘という、彼にとって最も楽しい行為がその後ろに待っていたからである。
しかし、ふたを開けてみるとどうだろう。あれだけ大口をたたいた剛志が行ったのは、展開していたゴーレムたちをタイタンの足元に移動させ、タイタンの足を攻撃したり、足からタイタンを登ろうとするだけだ。そんなものは権蔵が何体かゴーレムを投下することで簡単に対処可能だ。
そして、段々と権蔵にとって「面白くない状態」が続いた。権蔵はもちろん、お互いの戦力を削り合うこういった戦い方は、無限の戦力を持つ剛志の方が有利だということは分かっていたし、そういう作戦なのだとも思っていたが——とにかく面白くないのだ。
そこでしびれを切らしてタイタンを動かしたのだが、それがイチロイドが考えた作戦だったのだ。
イチロイドの作戦は、まず剛志がいかにも勝負を仕掛けるような発言をして、権蔵に「様子見」をさせるところから始まる。
そして、向こうが様子見を行っている間に、着々とタイタンの足元に移動させたゴーレムを使ってある準備を行っていた。それが——落とし穴の作成だ。
権蔵が今立っているのは、約50mほどの全長を誇る超巨大ゴーレムの肩。そこからだと、自分の足元の状況などざっくりとでしか判別がつかない。ましてや、常に投下したゴーレムの落下の衝撃と自爆の爆風で土煙が立っており、視認は困難極まりなかった。
その状況を意図して作り出したのがイチロイドの作戦だったのだ。そしてその状況を利用し、戦闘用ではない工作用ゴーレムたちを使って、徐々にタイタンの足回りの地面の下に空洞を作り上げていた。
この空洞は、普通の人が乗ってもびくともしないほどの強度を持っている。しかし、こと巨大ゴーレムの重量となると耐えることができない、そういった構造である。そのような落とし穴をいくつも作り、準備を進めていたのだ。
そしてさっきまで直立不動だったタイタンが、権蔵の指示で腕を振り下ろしたことで作戦は次の段階に移行した。
まず、そもそも権蔵が攻撃した箇所だが、それは剛志が居たと考えられる場所だった。なぜそう判断したのかというと、単純に戦闘の際に顔を出していたために気づかれたというだけなのだが、これも実はフェイクだった。
臼杵との作戦会議にて、剛志の弱点は何かという話になり、満場一致で「剛志本体」だということになった。そこでどうやって本体を守るのかという話になり、その中の一つが「ダミーの剛志を敵に視認させて、本体は隠れる」というものだった。
今回は初めからその作戦を使用しており、さっきまで権蔵に対して生意気な口調をたたいていた剛志は、空のゴーレム鎧に映像を張り付けたものだったのだ。そしてその鎧も、権蔵が視認してすぐに頭を覆ってしまったため、映像すら不要になった。
そういった経緯があり、剛志の位置を誤認した権蔵が誘導されたとも知らずに、その場所を攻撃したという流れだ。
攻撃を受けた場所には、タイタンの腕がある。そして腕の振り下ろしが行われたということは、さっきまでと比べてタイタンの重心は前方に移動している。
そこですかさず展開していたゴーレム鎧軍団がやってきて、その腕をつかんだ。そしてゴーレム特有の、完全に統制の取れた行動によって、一斉にタイタンの腕を引っ張ったのだ。
そうすると、自身の重さもあり重心が前側に来ていたタイタンは、簡単に前のめりに倒れ出したというわけだ。
そこで再び、先ほどの権蔵とのやり取りに戻る。
今もなお、前方に倒れている途中のタイタンの肩で、完全にブチ切れた権蔵は、先ほどまでのストレスも相まって冷静な判断ができない。「持ちこたえろ」という指示をタイタンに出してしまったのだ。
その結果どうなるかというと、タイタンは今いる場所から一歩足を前に踏み出し、踏ん張ろうとする。だが、その足を踏み込んだ先には、イチロイドが周到に準備していた落とし穴が待っていた。
見事に足をとられ、支えを失ったタイタンの巨体は完全に地に崩れ落ちる。
ここまでの流れをすべて計算していたイチロイドによる完璧な指示のおかげで、全長50mあったタイタンをまずは「倒す」ことに成功した。これによって作戦は、さらに次の段階に進むことができるようになったのだ。
準備は整った。ようやく攻撃開始だ。
「さすがイチロイドだね。全部作戦通りだ」
「『ありがとうございます』」
権蔵には聞こえないように、イチロイドにお礼を言う剛志。しかし、まだ終わったわけではない。イチロイドが考えた作戦は、まだ始まったばかりだ。
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