第166話 万葉vs三雲
臼杵がジュリアとの戦闘を終え、何とか勝利をつかんだのに対し、いまだ万葉と三雲の戦闘は続いていた。
「ああ、もううざったい。いい加減にしなさいよ。いつまでも隠れてないで出てきなさい!」
いまだ姿を現さず、ただ足止めのみに注力している三雲に、万葉はしびれを切らしたように苛立ちを隠せなくなっていた。しかし、それでも三雲は同じことを繰り返す。
「俺がお前と正面から戦ったら勝てないことは前回で学んだ。同じことを繰り返すほど、俺も馬鹿じゃないのでね。このまま足止めをさせてもらうよ。ゴーレム使いさえどうにかできれば、この作戦は成功だからな」
どこからともなく聞こえるその声に、まだ近くでこちらを観察していることはわかるが、肝心の三雲の姿が見つからない。そのため、今度は言葉で揺さぶりをかけることにした。
「そんな悠長なこと言っていていいの? あなたのお仲間の女性、健司に負けてしまったみたいよ」
横目で臼杵たちの戦闘を確認し、揺さぶりをかける万葉。しかし、三雲はそれでも冷静だった。
「ああ、そのようだな。あれではもう期待できないだろう。しかし、それでも相手もかなり満身創痍のようだし、最低限の働きはしてくれたのではないか? だとすれば、俺も自分の仕事を全うするまでだ」
何を言っても暖簾に腕押し状態で、全く相手にされない。それを受けて、万葉はあきらめることにした。
「しょうがないわね。いくらやってもらちが明かないし、あなたは無視することにするわ。とりあえず剛志に加勢して、あのクソジジイをぶった斬るわ。止めたいんだったら止めてみなさい」
そう言って、今も万葉を狙って投げられてくる苦無を避けながらも反撃はあきらめ、権蔵が出した超巨大ゴーレムに向かって動き出す。そのスピードは、さすが最上級職。とてつもない速度で、一気にその場から姿を消した。
そしてそのまま一気に剛志と権蔵のところまで行こうと思った万葉だったが、何か違和感を感じて急停止する。
「ほう、さすがだな。ちゃんと気づくもんだな」
三雲のその発言をきっかけに、万葉が今まで見ていた景色が一変する。目の前には剛志が作ったモンスタードームの外壁があり、今まさにその壁に正面から突っ込もうとしていたのだった。
「え⁉ なにこれ?」
状況に気づいたわけではなく、野生の勘で止まっただけの万葉だったので、いきなり現れた壁に驚き戸惑った。しかし、そんな状況下でも、戦闘中の彼女の脳内はすぐさまこの状況を分析し始める。
(さっきまではこんなものは見えていなかった。それよりも、そもそも見ている景色自体が違った。……幻覚⁉)
そう思い、辺りを見わたす万葉。すると、さっきまで自分が見ていた景色と異なっていたのは、この壁だけだとわかった。つまり、正確には幻覚を見せられていたのではなく、この建物が「無いように思わされていた」と気づく。
「幻覚というわけではなさそうね。ただ、あるものが無いように思わされていた。もしくは、無いものが見えていたというところね。現に、さっきまで見えていた健司の戦いは健司の勝利で終わっているし、この建物の向かいでは今も剛志が戦っている音が聞こえるもの」
「ああ、そうだ。タネはシンプルさ。隠れ蓑術でその建物を隠していただけのこと。でも、だからこそこういうこともできるんだ」
そう言って、一気に苦無を投げつけてくる三雲。その苦無には、よく見える鉄の色のものと、黒く塗りつぶされて視認しづらいものがある。それらすべてを避けたり、はじいたりして防いでいたが、その中に先ほどの壁と同様に「隠れていた苦無」が混じっていた。それをもろに体で受けてしまう。
先ほどの口ぶりから、こういう攻撃だということは理解していたのだが、それでも避けることができなかったのだ。
「ほら、こうやってあんたに攻撃を当てることだってできる。まあ、致命傷には程遠いらしいが……」
肩と太ももに刺さった苦無を抜き、その痛みに顔をしかめた万葉だったが、その肉体はすでに人外の域までステータスが強化されている。浅く刺さっただけの苦無の傷などは、次の瞬間にはほとんどふさがっており、与えられたダメージはほんのわずかだった。
ただ、攻撃を「当てられる」ということは、それだけでかなり強力なカードとなる。たとえば、当てる場所を目などの致命的な箇所にする、毒を付与して毒ダメージを狙うなど、やりようはいくらでもある。
そこで万葉は、自分が三雲のことを少し見くびっていたと反省した。
「なるほど。いつまでも隠れているし、前回は私が勝利していたから、あなたのことをなめてたみたいね。私もそれなりに真剣に取り組まないと、逆に寝首を搔かれる事態になりかねないようね。ごめんなさいね。ちょっと本気出すことにするわ」
そう言い、それまでとは醸し出す雰囲気が異なり、一気に研ぎ澄まされた剣気を放つ万葉。それを受けて、三雲は思わずつぶやいた。
「いや、俺としては侮ってもらっていた方がやりやすいのだが……まあ、足止めが目的だ。こちらに意識を向けてくれたことをメリットとして考えよう」
こうして、二人の本当の戦いが始まろうとしていた。
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