第120話 騒動の行方

時は戻り、西園寺率いる日本最強パーティーが駆け付け、闇の大精霊を葬った後。気絶した剛志のもとに、それぞれが集まった。


「実力差のある相手に対して、よく頑張りましたよね。原理はわかりませんが、まだ60階層程度の実力で10分以上も耐えきっていたのは驚異的です」


そう話すのは西園寺正義だ。それに対し、一連の全てを見ていた臼杵が答える。


「剛志のスキルに関わるから詳しくは話せないが、少し特殊な方法だったな。だとしても、こいつはよくやったよ。何度も気持ちが折れかけただろうし、正直無事かどうかも危うい。ただ、こいつのおかげで命拾いしたのは確かだ。この恩は一生忘れないぜ」


そう、しみじみとつぶやくように言葉を吐き出す臼杵だった。


そもそも後方の安全圏からゴーレムを操るというスタイルの剛志が、ここまで最前線で命を張るのは、今回が初めてといってもいい出来事だ。普通の人間では到底耐えきれないような重圧に晒されながら、自身の役割を全うした剛志は、あっぱれとしか言いようがない。今は気絶しているが、このまましっかりと休んでもらい、これからのことは本人が目覚めてからでいいだろう。


戦士たちの暗黙の了解で、剛志の眠りを妨げないようベッドへと移動させることになった。


幸いここにいるのは、ダンジョン組合の組合長や日本トップクラスの探索者たちだ。権限もスキルも十分すぎるほどある。すぐさま搬送先の病院が決まり、剛志はそこへ運ばれることとなった。


剛志の搬送を手配した組合長は、今度はある人物の安否を心配していた。それは、宮本万葉だ。


「今回、剛志君の活躍によって、それまで問題として認識されていなかった鮫島の暴挙が明るみになった。そして、それによって本人を追い詰めようとしたが、結果は逃げられてしまった。闇の大精霊自体はなんとか処理できたが、鮫島本人の行方が分からない。これは、完全に作戦失敗ということになる。臼杵君、すまない。あれだけ全力を尽くすと言っておきながら、このような結末になってしまって……」


そう言って頭を下げる組合長。それに対し、先ほどの戦闘の疲労が抜けきっていない臼杵は、疲れ切った表情で答えた。


「いや、組合長が全力を尽くしてくれたことは、俺にもわかってるさ。今回は、相手が一枚上手だったってだけだ。でも……万葉ちゃんは心配だな。最後、スキルの効果で固まってたんだろ? あれって、スキルホルダーに解除してもらうか、ホルダーが死なない限り戻らないんじゃないか?」


そう言って、さらに憂鬱そうな表情になる臼杵。確かに、スキルによる攻撃の類は、使用者が亡くなるか明確に解除しない限り、解放されることはない。今回も例外ではないだろう。


万葉を助けたいと願っていた臼杵にとって、この結末はあまりにやりきれない。剛志と共に気づかなかった方が、まだ幸せだったのではと、自分を責める臼杵であった。


その気持ちは、組合長も同じだった。


「ああ、そうだな。万葉君のことが心配だ。こんな結果になっては信頼してもらえないかもしれないが、私は、私にできる最大限をすると誓おう。組合の総力を挙げて、万葉君とその他の被害者の救済のために動き、鮫島をなんとしても捕らえてみせる」


そう言って、その場はいったん収まった。


それから一行は、剛志を救急隊に引き渡し、護衛として西園寺のパーティーメンバーである嵐山実と白峯真紀の二人が同行。他の面々は、万葉と町田桃花の待つダンジョン組合本部へと向かった。


道中、西園寺と宮園の両名は少し気まずそうな様子で、その他の面々は疲労と作戦失敗のショックでお通夜のような空気だった。


そして本部に到着すると、そこには未だに固まったままの宮本万葉と、その隣で心配そうにうろうろしている町田桃花がいた。


固まったままの万葉を見て、戻ってきた面々は絶望の表情を浮かべ、その様子を確認した桃花も、今回の作戦が失敗に終わったことを悟った。


場の空気は重く、言葉も少ないまま椅子に座り、全員が放心状態になった。


この中で比較的元気なのは、気の毒そうな表情を浮かべている西園寺と宮園、そして探偵の服部くらいだろう。臼杵は完全に落ち込み、内木・組合長・虎之助・桃花の四名は罪悪感に押し潰されそうなほど疲弊していた。


しかし、いつまでも落ち込んではいられない。そう思って次の作戦を頭の中で組み立てようとする内木だったが、考えるたびに「鮫島ならこれも読んでいるのでは」と弱気になってしまう。


とはいえ、ダンジョン組合側の人間には休む暇もなかった。すぐに新たな報がもたらされたのだ。


「なんだと!」


そう叫んだのは組合長だった。


先ほどかかってきた電話。その受話器越しに聞こえた開口一番のセリフに、組合長の顔色が変わった。


「鮫島が……D.O.Pから三雲を脱獄させたらしい。それに、職員の数名が死亡。その影響で他の収容者が脱獄を図ったりと、施設内は混乱状態らしい。……くそ野郎が! 虎、内木、今すぐ向かうぞ! 桃花はここで待機だ! 西園寺君も、できれば協力してくれ!」


そう言うと、西園寺も無言で頷き、即座に現場に向かう面々に加わった。


鮫島のまさかの行動に、驚きを隠せない臼杵だったが、あることが頭をよぎった。


「……三雲って、あの剛志の命を狙ってたA.B.Y.S.S.の男だよな? ってことは、また剛志が狙われるんじゃないか? あいつは今、何もできないんだ!」


そう叫びながら立ち上がった臼杵。それをなだめるように、西園寺のパーティーメンバーである宮園が落ち着いて話す。


「彼には今、実と真紀がついているでしょ? 私の仲間を信じて。必ず守り通すわ」


そう言われ、臼杵も少し落ち着きを取り戻す。これだけ取り乱すのは彼には珍しく、それだけ弱っていることが窺えた。


それから数時間後。


いまだ万葉のそばで、ただうなだれる面々を見かねて、宮園がお弁当と飲み物を用意していた時だった。万葉のほうから「ドサッ」と何かが倒れる音が響いた。


その方向を見ると、先ほどまで蝋人形のように固まっていたはずの宮本万葉が、電池が切れたように床に崩れ落ちていた。


「万葉ちゃん!」


そう叫びながら臼杵が駆け出し、少し遅れて桃花も駆け寄る。


すると、床に倒れていた万葉が、ゆっくりと起き上がり、寝ぼけたような口調で言葉を発した。


「……へ? どういう状況? 確か所長との契約のことを聞かれてて、それから……」


本人はまだ状況をよく理解していないようだったが、意識を確実に取り戻したのだった。


「万葉ちゃん! 大丈夫かい? 俺らのこと、わかる?」


臼杵の問いに対し、何を言ってるの? というような顔で万葉が答える。


「はぁ? わかるも何も、さっきまで話してたじゃない。てか、なんで私は座ってるの? あれ、そこにいるのは宮園さんじゃない。剛志はいないし……なんだか意味わかんないわね」


普通に話す万葉。その姿を見て、臼杵の全身から力が抜け、椅子にへなへなと座り込んだ。


「よくわかんねぇが、とりあえず……よかったよ。本当によかった……。このまま一生固まってたらって思ったら……」


そんな臼杵の様子に戸惑いを見せる万葉。そこで、桃花が改めて状況を説明するのだった。


こうして、当初に望んでいた形とは少し違いながらも、鮫島が首謀者であった一連の騒動はひとまずの決着を迎え、つかの間の平穏が訪れるのだった。


今回の件で、剛志は自身の力不足を痛感したはずだ。もし目覚めた後も心が折れていなければ、今後のパワーアップについて、何かしら考えるだろう。


だが、今はただ――ただ静かに眠らせてあげたい。あれだけの経験をしたのだから。



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