序幕二:一騎当千の織田軍
丘から駆け下り、先陣を切ったのは我らが総大将、織田信長。
「来い、
「グルルル! ガァー!」
背に紅蓮の火炎そのものである猫のような猛獣の妖、火車を呼び出し、敵陣の草むらに火柱に変えて、今川の兵たちを撹乱させた。
しかし、兵の多さは伊達ではなく、応戦する者があちこちに現れ、信長に挑む者が襲って来る。
そんな信長を庇うかのように、双刀を振り回す藤吉郎が現れ、自身の肩に額に朱色の太陽の紋が彫られ、金色に輝く毛皮を持つ日本猿の妖、
「俺たちの出番だぜ、
「うっきぃー!」
日輪は直様に小さな身体から眩い太陽光を発し、信長の前方にいる兵士たちの目を眩ませ、その間に藤吉郎は二本の刀を両手に振るい、八つ裂きにした。
すると、今度は大柄な身体を持つ護衛の兵士が薙刀や槍を持って、やって来る。
信長と藤吉郎が身構えたその時、後ろから深緑髪と深緑の瞳を持ち、背丈は普通ながらもガタイが良い男、森可成、そして、橙色の髪と瞳を持つ痩せた筋骨隆々を持つ若武者、前田利家が現れた。
彼らはそれぞれ、前者の可成は鬼の如き赤き眼光を晒し、鬼のような甲殻を纏う熊の妖、鬼熊を、後者の利家は頭に赤い長髪を持つが、羽を持たない鳥のような小人の妖、槍毛長を纏わせた。
「行くぞ、
「行くぜぇ、
妖の力を纏いし二人、可成は豪とした強い突きを槍に宿し、利家は朱色の閃光が輝き、連続した突きを槍に宿した。
強撃と連撃を受けた護衛たちは倒れ、その光景を見た信長は息を呑むが、直ぐに顔を顰めた。
「相変わらず、強い槍捌きだな可成…だが利家、何故、貴様がここにいる!」
利家の胸倉を掴み、鋭く睨み付ける信長。
前田利家、槍の又左と畏れられる傾奇者だが、この戦の前に拾阿弥という信長が懇意した茶人を自身の妻、まつから貰った笄(髪掻き)を盗み取られ、あまつさえ横暴な態度を取られたことで憤り、斬殺してしまった。
笄斬りとして後世に残った事件は勝家や可成の取り成しにより信長から出仕停止の禁を言い渡され、暫くは浪人暮らしを送っていた。
「貴様、この大戦に我の無断で踏み込むなど言語道断! 死ぬ覚悟が出来ているのか!」
燃え激る怒りを見せる信長に対し、利家は真っ向から目を背かず、真剣な眼差しで訴えた!
「信長様の大一番、そして、我らが尾張の危機に命を賭して、挑まなきゃ、傾く以前に死にきれねえ! どうか、俺を信長様と共に戦わせて下さい!」
その熱意を知った信長は今川本陣に向き直し、囁く。
「我が沙汰が決まる前に死ぬなよ。」
「ハッ!」
「兄貴も人が悪いぜぇ、利ちゃんがこの戦いに参陣するの分かってた癖に。」
「黙れ、猿。利家が調子が乗るではないか。」
「へいへい。」
信長は三人の忠臣を連れて、本陣へと突っ切る。そこには刀を構え、烏帽子を被った鎧武者が立っていた。
その顔は白塗りの肌と太く丸く剃った眉を持ちながらも、綺麗で凛とした輪郭を持った美丈夫であった。
「我らが軍が疲弊し、兵が散開した隙を狙い、雨音で忍び寄る策は見事だ! この今川義元をここまで本気にしたのは初めてだ!」
「下らん、口上を垂れるな。虫唾が走る。」
信長は冷淡に言い捨て、今川義元と名乗ったその鎧武者を刀を重ね、鍔迫り合いをした後、刀を打ち合う。
信長の剣術の方が優勢に見えたが、鎧武者は防御に徹していた。
「中々やるな、織田の総大将よ。」
「黙れ! 貴様は黙って、首を差し出せ!」
そこにすかさず、藤吉郎が乱入し、双刀で鎧武者の刀を弾き飛ばし、その隙を可成と利家が鎧武者の脇腹を両方から槍で刺し抜いた。
三人の忠臣に支えられた機転を必死に掴み取る信長は鎧武者の首を掻っ斬った。
「む…無念…」
恰も宿敵を倒したかのように息を整えた信長。それを見た藤吉郎は達成感で笑い、可成と利家は釣られて、安堵する。
「兄貴、やったな! あの生意気な公家被れを倒したぞ!」
「これで尾張は安泰ですな!」
「我が命を賭した覚悟を…信長様、どうしたんですか?」
忠臣たちが喜ぶ中、信長だけは険しい表情を崩さなかった。
そして、鎧武者の顔を一瞥して、呟いた。
「こいつは今川義元ではない、影武者だ。」
「は…? はあぁぁぁぁ!?」
「まさか、影武者だったとは、急いで本物を探さなくては!」
「早く兵たちに見回らせるんだ!」
忠臣が慌てふためく中、信長は冷静に先の鎧武者の言葉を思い出していた。
(何故、影武者が我の策を解っていた? それにあの防御に徹した戦い方、時間稼ぎのつもりか?)
そこに陣幕から現れた伝令の兵が焦りに満ちた表情で現れた。
「おい!? 一体どうしたんだよ!?」
「申し上げます! 今川本陣と思われたこの地の後方から二万の伏兵が現れました!」
「本陣の後方に伏兵!? 数も尋常じゃないではないか!?」
「更に、その伏兵に紛れて、今川義元が確認されました!」
それを聞いた信長は背筋を凍らせ、青冷めた。
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