第50話 愛してるなんて言わせない
鮫島清美は、自分以外の家族が全員警察のご厄介になった。
そのため、1人きりで生きていく覚悟を決めていた彼女だったが、日本という国は意外と優しい。
様々なタイプの大人が清美のために動いてくれた。
残念ながら、川井高校からは除籍となり、唯一の友人である加納由香とは直接会うことは難しくなってしまった。
しかし、彼女達は文通で繋がっていた。
この令和に、手紙!
そんな時代に合わないコミュケーション方法を使用しているのには理由がある。
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「送れない‥‥‥」
談話室の端っこで由佳にLINEを送ったのだが、いくら再送してもエラーが出てしまう。もしかして壊れてしまったのか。由佳と近況報告ができなくなるのかと項垂れていたた。
「大丈夫? 体調悪い?」
そう声をかけてくれたのは、施設の女性職員だった。
30代半ばの落ち着いた雰囲気の彼女は、自分を助けてくれた元校長と同じような空気感をしていた。
清美を特別扱いしているわけではないけれど、仕事だから仕方なく声をかけている。そのテキトーさに安心感を抱く。
「実は‥‥‥」
事情を説明して、この施設は全体的に電波が悪いのだと教えてくれる。
ため息をつく清美。
そんな杏奈に、彼女はこんな提案をした。
「手紙は?」
「手紙?」
新年の挨拶もLINEで済ませる世代である清美は、存在は知っているが使用したことのないものの存在にキョトンとする。
清美にとっての文通とは、小説や映画の中にしか出てこないフィクションに近いことだから無理もない。
「そう。手紙。文章を手書きしていると、新しい自分を見つけたりできて楽しいよ」
「‥‥‥なるほど」
アナログすぎて、逆にオシャレかもしれない。早速書いてみよう。
最初の手紙の内容は、どうしようかな。
あの風変わりな元校長の話でもしようかな。
\
1冊の本を最初から最後まで読み切ったのは、杏奈にとって初めての経験だった。
「本って言ってもライトノベルだろ!」とマウントを取るようなことは、安藤だったら決してしないだろう。きっと、ダラダラと内容について議論をするに違いない。
「‥‥‥」
達成感と、この物語の登場人物達との別れによって、寂しさも感じている。
自室の学習机に本を置く。タイトルは『文学少女と死にたがりのピエロ』だ。
三つ編みの可愛らしい少女が紙切れを食べている、独特な表紙のライトノベルである。
あらすじを簡単に説明しよう。
食べちゃうくらいの本好きである天野遠子と、元天才作家の井上言葉(このは)。この2人を中心にした青春ミステリーである。
この作品の特徴の1つとして挙げられるのは、太宰治の『人間失格』が謎のキーになっていることだ。
日本文学で、トップクラスで有名な小説だが、読んだことがないという人もいるだろう。なにせ、とことん暗いから。
しかし、この『文学少女と死にたがりのピエロ』は、そんなとっつきづらい文豪の名作への興味を持たせてくれる。
太宰治とはどんな人間だったのか。
何故、あの子にあれだけの影響を与えたのか。
「明日、これ返したら『人間失格』も借りてみよう」
そう呟きながら、杏奈は読書をするきっかけになった人物に思いを馳せる。
(ねぇ、安藤さん。私、この本を読んで、たくさんのことを想ったよ。感想、聞いてほしいな)
しかし、その願いは叶わない。
\
「‥‥‥出ろ」
刑執行の当日。
安藤昌哉は看守からの許可を得てから、独房から出る。
これから、日本で最も重い罰である死刑が執行される。
人生に後悔が無いと言えば嘘になる。しかし、殺し合いではなく法律によって殺されるのは、不思議と悪い気はしなかった。
憧れていた「しっかりした人」が作った法律。
普通になりたかった安藤にとって、正義そのものである法律は美しく感じる。
粛々と小さな縄に首を入れる。
後は、執行官のタイミング次第だ。
ボタンが押された瞬間、足元を支えてくれている台が消えて、重力により首が絞まる。
そして、絶命する。
<怖いか?>
幻聴が聞こえる。師匠の声だ。
<いえ。また師匠に会えるので、それほどは>
<ーハッ。生徒を置き去りにする無責任な校長に、そんなロマンチックなこと言われてもときめかねーよ。私のことなんかで周りが見えなくなって、あの子達を置いてけぼりにした。結局、お前は生徒達を愛してなかったんだよ>
言いたい放題言ってくれるな。
でも、どうせこれは妄想なんだ。感情のまま本音を吐いても構わないだろう。
「そうですね。俺は結局、生徒達よりも大切な存在がいましたから」
格好つけて今まで言えずにいた、馬鹿馬鹿しい本心を。
「師匠。俺、ずっと貴女のことをあいし」
執行官による、ボタンが押された。
-完-
元殺し屋の校長は生徒を愛していない ガビ @adatitosimamura
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