第2話 まだ終わらない

シーズン最終戦が終わった。

ロッカールームでは、試合の疲れを癒す選手たちの声が聞こえる。だが、俺の頭の中には静寂だけが広がっていた。


「イースタン終わったら、どうなるやろなぁ」

俺は独り言のように呟きながら、自分の荷物をまとめ始める。


試合後のロッカーはいつもと同じ風景のはずなのに、妙に違って見えた。来年、ここに戻れる保証はない。それが現実だった。


イースタンリーグが終わり、球団事務所から電話がかかってきた。

「東條選手、明日の午前中に球団事務所に来ていただけますか?」

それだけを告げる冷たい声に、胸がざわついた。


指定された時間、球団事務所の一室に通された俺を待っていたのは、監督と球団の編成部長だった。

重苦しい空気の中、編成部長が口を開いた。


「東條くん、来シーズンの契約についてだが……」

その言葉がすべてを物語っていた。


「残念だが、チームの方針と若手育成の観点から、来シーズン、君との契約を見送らせていただくよ。」


静かな部屋の中で、俺はただ頷くしかなかった。想定していた答えだったが、実際に聞かされると、胸の奥に鋭い痛みが走る。


今まで応援してくれてた、家族、友人、ファンの皆様に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


球団事務所を出ると、肌を刺すような冷たい風が顔をなでた。

ポケットからスマホを取り出し、無意識にSNSを開くと、チーム公式アカウントに「戦力外通告」の一報がすでに掲載されていた。

「来る時代の流れを象徴する、若手選手の台頭」という見出しに俺の名前はなかった。


俺はスマホをポケットにしまい、深く息を吐いた。


その日から、俺の生活はがらりと変わった。球団の練習施設への出入りも制限され、トレーニングは地元のスポーツジムや自主トレに頼ることになった。

そして何より、周囲の目が変わったように感じる。かつてスター選手だった俺が「戦力外」となり、どこに行ってもその話題になるのだ。


ある日、古くからの友人が電話をかけてきた。

「お前ならまだやれる。諦めるなよ。」

そんな言葉にすがりたい気持ちはあるが、自信を持てなくなった自分がいた。


夜、一人で部屋の隅に座り込みながら考える。

俺はまだ野球を続けたいのか?それとも、これが「潮時」なのか?

答えは見つからなかった。


だが、あることはわかっていた。今ここで立ち止まれば、本当に終わりだ。だから、俺はもう一度電話が鳴るのを信じて待つことにした。

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