崖っぷちに立たされた元スター選手がプロ野球界で生き残りをかけて戦う。

@Yamachan120

第1話 最後の打席

〜2024年10月〜

「バッター、松木に変わりまして、東條。」


6回裏、2失点で降板した先発の松木のところで、代打がコールされた。


『ここで結果を残せなければ...』

相手は横浜DNAベイスターズの中崎。アンダースローの右腕だ。


今期2軍で調整を続けた俺は、シーズン終盤、1軍に呼ばれた。

2年連続最下位に沈むチーム、今日の試合に負けると3年連続最下位となってしまう。


2アウト・ランナー2塁、0-2で負けている状況。シーズン最終戦およびホームでの最後の試合でもあるため負けたくない。


そんな場面で俺がコールされた。俺は左打席に向かって行った。


監督には自由に打ってこいと言われた。とりあえずランナーを還すバッティングをしたい。


まず初球の内角低めに入ってくるスライダーを見逃す。これがボールとなる。

そして2球は内角に直球を決められた。そして3球目の外角への直球をファウルにする。

そしてカウント2-1になる。


「カーブが来そうだな。」


俺はそう思った。少なくとも直球は来ないと思い、変化球に狙いを絞る。

中崎が5球目を投じる。インローにストレートがきた。


差し込まれたが、なんとかファウルにできた。


「あっぶねー」


中崎はマウンド上でゆっくりと息を吐き、キャッチャーのサインに首を振る。そして、次の球を決めたのか、頷いた。俺はバッターボックスの中でバットを握り直し、深く息を吸った。


「来いよ…なんでも打ち返してやる」


カウント2-2、6球目。中崎が投じた球は、外角低めに大きく沈むカーブだった。

スイングするタイミングがわずかに遅れ、俺のバットは空を切る。


「ストライク、バッターアウト!」


球審のコールが鳴り響き、俺はその場に立ち尽くした。

中崎のカーブは見事だった。わかっていたのに、手が出なかった。


バットを地面に軽くトンと叩きつけると、俺は無言でベンチに戻る。

観客席からはため息と、時折「頑張れよ」という声援が聞こえた。


「悪くないスイングだったぞ、東條。」

監督が肩を叩き、短く言葉をかける。


だが、俺はその言葉を受け入れる気にはなれなかった。

目を伏せたまま、自分のグローブを握りしめる。


試合はそのまま0-2で敗れ、俺たちは3年連続最下位でシーズンを終えた。

試合後、監督から呼ばれた俺は、「次は期待しているぞ」と声をかけられたが、心の中には重くのしかかる何かがあった。


それでも、諦めるわけにはいかない。俺にはまだ、もう一度立ち上がる時間がある。

そう自分に言い聞かせながら、俺は夜空を見上げた。

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