となりの地獄で生きている
消えてなくなりたいと思うことが減った。
ちょうど消しゴムみたいに、転げて転げて、膝小僧を擦りむいて、頭をぶつけて、跳び箱をちゃんと飛べなくて、大事な提出物を忘れて、ちゃんとした人間になれない自分が大っ嫌いだった。
幼いころの自分は、果たして不幸だっただろうか、とふと考える。
あの時私は、ただ漠然と衝動と感情に身を任せて生きていて、自分の行動が誰に影響を及ぼすとか、そういうお題目を一切合切無視していた。私の世界には私しかいなかった。
他人が何を考えているかとか、どんな事情を背負っているとか、そんなの全くわからなかった。それを幼さゆえの未熟さと切り捨てるのは多分簡単だろうけど、あの時の私は本気で死にたかったし消えたかった。
子供の頃の私は、ありふれた不幸とありまあまる幸福と、ふたつ抱えて生き抜いた。
わからないことを責められても、見えないものは見えないし、観測できないものは、私には『な』いのだ。大きくなるにつれ、そういう見えないものの感じ方をなんとなく身につけて、でもたまに失敗して、コミュニケーションに難儀し続けている。私にとっての他者は難解な隣人であり続けている。
私がどれだけ消えたくても死にたくても居なくなりたくても、目は光に刺されるし、脳は外部との接続するし、腹が減るし、クソをする。私の苦しみは私にしか理解し得ない。不幸自慢がしたいんじゃない、ありふれた苦しみの中でふつと糸が切れないから今がある。
偶然生きている。死ななかったから生きている。たまたま生きている。
私の地獄で、私は生きている。
将来の漠然とした不安が消えない。先のことを考えると気が滅入る。一人で生きる限り、この不安と一生付き合い続けなくてはいけない。誰か、と街中で叫び出して大きな声で泣き喚きたくなる。
それでも、生きている。
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