第11話

目が覚めた。自分の部屋の天井が見える。あ、しみが増えている。

 身体がだるい。それに昨日のお風呂の出来事で精神的疲労もある。あー気を失ったのは恥ずかしい。何かしらの方法で切り抜ければ良かったんだが。

 俺は寝返りを打った。あれーなんでだ。なんかおかしいぞ。なんで、シュトラが横で寝ているんだ。……て、え?シュトラ。

「お、おい。シュトラなんでいるんだ」

 俺はベットから飛び上がった。

「……おはようございます」

 シュトラは目を覚ました。そして、手で目を擦っている。

「お、おはよう。ていうか、なんで横で寝ているんだ」

「クロトさんが昨日のお風呂のお詫びに横で寝てあげなさいって」

「……あの人。シュトラ、クロトさんが言う事の8割は聞くな」

 クロトさんに対する怒りが込み上げてくる。本当にあの人は俺の反応を楽しんでいる。

「なぜですか?」

「え、それは」

 言いづらい。とても言いづらい。

「教えてください」

「いや、聞いていい。だけど、寝る時は自分のベットで寝なさい」

「了解です」

 シュトラは寝ぼけながら敬礼した。

 俺はふと視線を感じた。ドアの方を見る。ドアが少し開いている。隙間からクロトさんがニヤケながら俺たちを見ている。

 おい、こら。何見てるんだ。そして、何してくれてるんだ。

「シュトラ、ハグしてもいいよ」

 クロトさんは俺の声を真似て言った。この人の声帯模写は恐ろしい程に上手い。

「え、本当ですか。やったです。ハグ、ハグ」

「え、ちょっと待って。クロトさんが」

 シュトラは俺に抱きついて来た。あー覚えてろよ、クロトさん。絶対いつか仕返ししてやるからな。


 黒いソウル・エッグを持って、街の外へ出た。今日も昨日と同じで大量の黒いソウル・エッグが現れる。でも、ちょっと違和感がある。それはこの街に元々あったものではなく街の外から持ち込まれたものから現れている事。それも数が多い。今手に持っている黒いソウル・エッグもその一つだ。アムヘルツとかから作られたものだったら現れるのは仕方が無いのは分かるが。なんだか、わざと誰かが街に持ち込んでいる。そんな気がしてたまらない。

 地面に黒いソウル・エッグを置く。すると、ソウル・エッグから光が溢れ出してきた。

 俺は咄嗟に目を閉じた。……生まれるぞ。どんな生き物が生まれるんだ。

 光が消え、眩しくなくなった気がする。

 俺は目を開けた。目の前には皮膚も肉もない全身骨の巨大なドラゴンが居た。

 ドラゴンかよ。これは出来るだけ早く浄化しないと。

「シュトラ、痺れ弾頼む」

「承知しました」

 シュトラは骨のドラゴンにスナイパーライフルの銃口を向ける。

 ドラゴンは上空に飛び立とうと、翼を動かしている。もし、このまま飛ばれて街に向かわれたらかなりの被害が出るだろう。ここで、食い止めないと。

「撃ちます」

 シュトラはスナイパーライフルの引き金を引いた。

 弾丸がドラゴンの骨に命中した。ドラゴンの動きがどんどん止まっていく。

「ナイスだ。シュトラ」

「はい。ハグしてもいいですか」

「それは後で考える。今はドラゴンだ」

「……はい。分かりました」

 シュトラはしょんぼりしている。いや、今朝ハグしただろ。俺は死にかけたんだぞ。

 俺はドラゴンのもとへ行き、左手にはめている手袋を外す。そして、ドラゴンの骨を触る。

 様々なイメージが脳内に浮かぶ。

「よし、わかったぞ」

 俺は目を開けた。

「コアンダを呼びますか?」

「いや、それはいい。すぐに終わるから」

「どう言う意味ですか?」

「こう言う意味だよ。お前の名前はグラセズ。今日からよろしくな」

 ドラゴンは光を放ち出した。

 俺は手で目を隠して、光が落ち着くのを待つ。

 名前のない事と周りに何もなかった事が嫌だったイメージが浮かんだ。だから、これで上手くいくはず。と言うか、上手くいってくれ。

 光が落ち着いた気がする。俺はゆっくり目を開けて、ドラゴンがどうなっているか確認する。

「……よし、成功だ」

「綺麗ですね。このドラゴンさんは」

 全身骨だったドラゴンの姿は全身氷の肉体を持ったドラゴンに姿を変えた。シュトラが言うようにその肉体は美しい。大きさはそのままだ。

 俺は無線のスイッチをONにした。

「テルロです。ちょっといいですか」

「はい。なんでしょう?」

 無線から連絡員の声が聞こえる。

「浄化した生物のサイズが大きいので護送船をお願いします」

「了解しました」

「ミネルさんの飛行船にぶつからないようにお願いしますね」

「ハハハ、舐めないでくださいよ。社員の技術を」

 連絡員の自信のある声が聞こえる。

「そうですね。それじゃ、出来るだけ早くお願いします」

「はい。マッハの速さで向かわせます」

「了解です」

「では失礼します」

 無線が切れた。

「ちょっとしたら護送船が来るよ」

「そうですか。それでハグの方は?」

「……ハグ?」

 完全に忘れていた。どう切り抜けようか。

「はい。ハグですよ、ハグ」

「……うーん、えっと。あ、こう言うのはどうだ。今日の仕事終わってからするって言うのは。毎回してたらハグの有難さがなくなるとは思わないか」

「そんな事はありません。何回してもハグはすばらしい行為です」

「え、あーそうだね」

 想像していた答えと全く違う答えが帰って来た。どうしよう。どうしたらいいのだろう。

「さぁ、ハグをしましょう」

 シュトラはスナイパーライフルを地面に置き、両手を広げた。

 ……ハグしないといけないのか。俺はまた数分の間生死の境を彷徨わないといけないのか。神様、仏様、どなた様でもいいです。俺をお助けくださいませ。

「テルロさん。黒いソウル・エッグが街の北のおもちゃ屋で現れたようです。護送船がそちらに到着次第向かってください」

 無線から連絡員の指示が聞こえる。

「了解です」

 無線が切れる。

「また仕事だ。ハグはまた後でだ」

 神様、仏様、どなた様が知りませんがありがとうございます。いや、今の場合は黒いソウル・エッグ様が正しいのか。そんな事はどうでもいいか。はーよかった。これで生死を彷徨わないですむ。

「え?そんな……ショックです」

 シュトラは残念そうな顔をしている。なんだか、ちょっと申し訳ない気にもなるが、俺の命も大切なので我慢してくれ。

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