第10話

夜になった。体がクタクタだ。今日の仕事は終わった。どれだけ黒いソウル・エッグが現れるんだよ。2週間分の量を一日で捌いた気がする。

 俺は家に帰り、お風呂の湯船に浸かる。

 あー身体の疲れが取れていく。ようやくリラックス出来る時間が出来た。今日は一日中、気を張っていた気がする。これが数日続くのか。辛いな。

 考えるのは止めよう。考えれば考えるだけ辛い気持ちが膨大していく。それは駄目だ。無になろう。無になるしかない。

 トントンと、浴室のドアを叩く音が聞こえた。

「はい」

「入るわね」

 クロトさんの声だ。いや、ちょっと待て。小さい頃からお母さんのように育ててもらっているが他人だぞ。俺も多感な時期だぞ。おい、こら。

「駄目だよ。駄目に決まってるだろ」

「拒否権はなしよ」

「え、ちょい。おい」

 浴室のドアが開いた。そして、タオル一枚を身体に巻いたクロトとシュトラが浴室に入って来た。

 おい。ちょっと刺激が強すぎるぞ。あーどうすればいい。

「どうも」

「クロトさんはともかく、なんでシュトラが居るんだよ」

「テルロが喜ぶと言われて」

「え?はぁ?」

 シュトラに何変な事を吹き込んでいるんだ。クロトさんよ。

「お背中流すわよ」

 クロトさんは言った。

「うるさい。俺はもう出る」

 この場から早く出ないと、おかしくなりそうだ。

「駄目よ。それよりもこっちの方がいいのかしら」

 クロトさんはシュトラが身体に巻いているタオルを引っ張った。

「え、クロトさん。ちょっと、見えちゃいます」

 シュトラが必死に抵抗している。ちょ、ちょい。ちょっと、いや、かなり刺激が強い。鼻血が出そう。

「よいではないか、よいではないか」

 クロトさんの口調はただのスケベ爺だ。

「いや、まだ心の準備が……あ」

 その瞬間だった。シュトラが巻いていたタオルが取れた。

 俺はシュトラの裸を見ないように手で目を隠した。こんなラッキーで見るのは、なんだか俺の意志に反する。

「テルロ。見ても大丈夫よ」

 クロトさんは言った。

「ほ、本当に?」

「えぇ、本当よ」

 俺は手の間から恐る恐るシュトラの足元を見る。タオルは落ちたままだ。

 何が見ても大丈夫だよ。確実に裸じゃん。

「噓つけ。タオル落ちてるじゃん」

「大丈夫よ。責任は私が取るわ」

「ほ、本当だな」

「えぇ、ほ・ん・と・う」

 し、信用出来ない。でも、このままこの場をやり過ごす事は出来ないだろうし。

 俺はシュトラの上半身を見た。

「……え?水着」

 シュトラは紫色の肩紐なしの水着を着けていた。

「だから、見ていいって言ったでしょ。もしかして、よからぬ事を考えてたの。もう、エッチ」

 クロトさんはいやらしい声で言った。

「うるせぇ。じゃあ、何でシュトラは恥ずかしがってたんだ」

「え、それは。……水着姿を見られるのが恥ずかしくて」

 シュトラは顔を赤らめた。

 ややこしい反応しないでくれ。男はこのシュチュエーションなら裸を連相してしまうんだよ。なんだか、ごめんよ。

「どう?私の最新作は?」

 クロトさんは訊ねて来た。

「か、可愛いと思います」

「そう。可愛いだって。シュトラちゃん」

「え……あ、ちょっと困ります」

 シュトラはモジモジしている。

「もーう、可愛いわ」

 クロトさんはシュトラに抱きついた。

 ちょい。ちょっと、目の前でそんな事しないでくれ。俺は男だぞ。

「やめてください、クロトさん。それに私だけ恥ずかしいのは何だか嫌です」

 シュトラはクロトさんが身体に巻いているタオルを掴んだ。

「え、ちょっと待って。シュトラちゃん」

「問答無用です」

「いや、私何も着けてないのよ」

 え、それはやばいぞ。シュトラ止めろ。いや、止めるな。違う。で、でも。あーもう頭がふらふらする。完全にのぼせてきた。

「恥ずかしがってください」

「きゃあ」

 クロトさんが恥ずかしそうな声を出した。

 俺は反射的に手で目を隠した。

 ど、どうなってるんだ。気になるのは気になるぞ。でも、見れない。あー俺の良心が邪魔をする。良心を捨てるべきか。

 湯船に誰かが入って来て、お湯が浴槽から出て行く。どっちなんだ。

 誰かが俺の腕を掴んできた。横に誰か居る。それに柔らかいものが当たっている。

「スケベね」

 ふうーと、耳に息を掛けられた。この声はクロトさんだ。

 俺は目を開けて、横を見た。横に居たのは黒い肩紐なしの水着をつけたクロトさんだった。

「水着かい」

「当たり前でしょう。もしかして……」

「うるさい」

「さぁ、早くシュトラちゃんも来なさい」

「え、はい」

 シュトラが近づいて来る。

 俺の胸の鼓動が高まる。そして、心臓が皮膚を突き抜けそうだ。

 シュトラは湯船に入り、俺の横に来た。

 ……逃げられない。どうすればいいんだ、俺は。目の前が真っ暗になった。

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