第6話

着いてしまった。家に着いてしまった。昼ごはんを出来るだけゆっくり食べて、時間を稼ごうと思っていたのに。ミカヅキの料理があまりにも美味しくて、そんな事忘れてしまっていた。

「ハグ、ハグ、ハグ」

 シュトラが嬉しそうに言っている。俺には死の呪文にしか聞こえない。もう、たかを括るしかないのか。

「……どうなされましたか。早く、家に入りましょう」

 シュトラは玄関のドアを開けた。

「そ、そうだね」

 俺とシュトラは家の中に入った。そして、シュトラが鍵を閉める。

「じゃあ、ハグしましょう」

 シュトラは両手を広げた。……あぁ、神様。どうか、俺にこの場を切り抜ける方法をお教えください。何でもしますから。お願いします。

「ワン」「ワンワン」「ワンワンワン」

 リビングから犬達の鳴き声が聞こえる。

 グットタイミング。あー神様、ありがとうございます。今度してほしい事を言ってください。

「ただいま」

 俺はリビングに聞こえるように大きな声で言った。すると、リビングから三匹の紫がかった黒色の小型犬、ルベル・サーべラ・ケルルが俺のもとへ全力で駆け寄って来た。

「よし、よし、よし。お前ら元気だな」

 屈んで、三匹の頭を撫でる。

「ワン」「ワンワン「ワンーワンワン」

 三匹は俺の顔を舐めてきた。いつ見ても可愛い。こいつらはケルベロスのオブジェの前に現れた白いソウル・エッグから生まれた。俺が孵化させたソウル・エッグの一つ。

「もう。ルベルもサーベラもケルロもいい所だったのに」

 シュトラは少しむくれている。

「ワウン?」「ワウン?」「ワウン?」

 三匹はシュトラの言った事に首を傾げている。三匹ともコアンダと同じく人の言葉が理解出来る。

「テルロもシュトラも帰って来たのね。おかえりなさい」

 リビングからクロトさんが出て来た。いつ見ても、シルバーの髪は綺麗だし、立ち振舞いは美しい。でも、内面は孵化させた母さんに近い。母さん程ではないけど。

 今日は自分で縫った露出の多い服じゃなくて、おしとやかな服装でよかった。シュトラに負けず劣らずのバストをお持ちだから、露出の多い服だったら目のやり場に困るのだ。

「ただいま」

「帰りました」

「二人とも服が汚れているはずだから、着替えなさい」

「はい。わかった」

「了解しました」

「テルロの服は部屋に置いてるから」

「ありがとう」

「シュトラはちょっと、私と来て。新作を一回着てほしいの」

「本当ですか。分かりました」

 シュトラは笑顔になった。

 シュトラの着ている服の殆どはクロトさんが作ったもの。シュトラはクロトさんが作った服が好きでたまらないらしい。まぁ、クロトさんの作る服全部が露出の多い服ではないからいいけど。でも、露出の多い服をシュトラがもらって外に出ようとする時は全力で止める。そして、クロトさんはその光景を見て、楽しんでいる。頼むからやめてほしい。でも、忙しい母さんの代わりに俺を育ててくれているから強くは言えない。

「ルベル・サーベラ・ケルル、行くぞ」

 三匹は返事をして、俺の後についてくる。

「あ、忘れた」

「なんだよ」

 俺は立ち止まり、振り返った。

「貴方の部屋の机の上にお父様からの贈り物を置いているわ」

「……父さんからの贈り物?分かった。ありがとう」

 俺は階段を上がり、二階にある自分の部屋に向かう。三匹達も俺の後を追ってくる。

 部屋の前に着き、ドアを開ける。そして、部屋の中に入り、三匹が中に入るのを待つ。

 三匹とも部屋の中に入ったのを確認して、ドアを閉める。

 部屋中央にあるテーブルの上には小包が置かれていた。そして、窓際に設置しているベットの上には着替えの服が綺麗に畳まれて、置かれている。

 俺は服を着替え、テーブル前に座り、小包を開ける。中には手紙と鍵の形をしたネックレスが入っていた。

 三匹は小包のゴミで遊んでいる。

「……ネックレスって珍しいな」

 手紙を手に取り、読み始める。

「どうも、お父さんだ。元気か。お父さんは元気だ。珍しく手紙を送ってきたと思っているだろう。理由があるんだ。1週間後、アルテヴィッヒ・フェステバルが開催される。その祭りの目玉として博物館に世界一の人形技師と言われた故バヌー・ジャザリーが作った人形・ミロナが展示される。そのミロナには恐ろしい力がある。周りにあるソウル・エッグを黒くしてしまう力があるんだ。だから、出来るだけミロナをソウル・エッグに近づけさないでくれ。そして、一番恐れている事が起こる可能性がある。それはミロナからソウル・エッグが現れる事だ。つい最近、現れる予兆の光が発生した。もし、ソウル・エッグが現れた場合は大人達は破壊する事を選ぶだろう。ソウル・エッグには罪はないが。俺はお前がどうにかしてくれるじゃないかと思ってる。期待してるぞ。あーあと、その鍵のネックレスはやる。いつも、首からかけておけ。いつか、役に立つはずだ。では、じゃあな」と書かれていた。

 ……そんな事を頼まれても。でも、ソウル・エッグが現れたら、俺は絶対に破壊させないようにする。命なんだ。破壊するって事は殺すと同じだ。そんな事させないと、ネックレスを首にかけながら思った。

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