第5話
H&Dコーポレーション地下一階。数多くのソウル・エッグが孵化専用の機械に保護され、大切に扱われている。このソウル・エッグ達は遠い国から送られて来たものや街で現れたものなど色々ある。
俺は一番手前のソウル・エッグを触った。
温かい。あと数時間もすれば生まれるだろう。このソウル・エッグを担当している人はとても愛情を注いでいるのが分かる。なんだか、幸せな事だと感じて口角が上がった。
「どうなされましたか?」
「いや、このソウル・エッグ大切にされているんだなって」
「そうですか」
シュトラは微笑んだ。
「どうした?嬉しそうな顔をして」
「嬉しいんです。私もテルロにこんな風に愛情を注いでもらって生まれたんだって思って」
「……なんだよ、急に。ちょっと照れるじゃねぇか」
シュトラのソウル・エッグが現れた時、大勢の人達が兵器から現れたソウル・エッグは危険だから破壊するように言った。でも、それは人間達のエゴだ。どんなモノから現れても、真剣に愛情を注げばちゃんと育つ。シュトラの言葉は俺の行動が間違いじゃなかった事を証明してくれている感じがした。それがとても嬉しい。
「事実ですから。なんだか、今とてもハグがしたい気持ちになったのでハグしていいですか?」
「……はい?」
「だから、ハグしていいですか?」
シュトラが両手を広げた。ちょ、ちょっと待って。なぜ、今なんだ。
「ソウル・エッグがたくさんあるからここじゃ駄目だ」
「じゃあ、違う場所だったらいいんですね」
「え、えっーとそれは」
しくじった。言葉のチョイスが悪かった。どうする。どうすればいい。
「そう言う事になりますよね」
「あ、はい。そうですね。家に帰ってからね」
家に帰る間にハグを阻止する方法を考えよう。それに今から昼ごはんも食べる。考える
時間はおおいにある。ナイスな判断、俺。
「分かりました。それではまずお昼ご飯を食べに行きましょう」
「ちょっと待ってくれ。俺が担当するソウル・エッグ達を見たいから」
「……分かりました。それは大切な事ですね。ちょっと自分本位になった事を反省します」
「お、おう」
俺は自分が担当するソウル・エッグのもとへ行く。
それにしても昼ご飯の時間帯でよかった。みんな外に出てご飯を食べに行ってる。もし、会社の人達にシュトラとの会話を聞かれてたら弄られるのは確実。この会社の人達は優しくて愛情深い人ばかりだ。でも、社長である母さんのせいか一癖も二癖もある人達でもある。
創作料理店・二刀流の前に着いた。外から店内を覗く。人はそこまでいない。どうやら、
昼のピークは終わったみたいだ。この街の飲食店でも一・二を争う人気店で、昼のピークの時間帯に行けば並ぶのは確実。街の人達に愛されている店だ。
俺はドアを開けた。そして、シュトラと一緒に店の中に入る。
「いらっしゃいませ」
ブラウンの髪色をしたショートカットの女性店員が近づいて来た。
「どうも」
「あ!テルロじゃん。それにシュトラちゃんも」
近づいて来た店員は俺が孵化させた虹色のソウル・エッグから生まれたサヨだった。いつも、元気で明るい。
「こんにちは」
シュトラはサヨに挨拶をした。
「こんちは。兄さん。テルロとシュトラちゃんが来たよ」
「お、テルロとシュトラか。いらっしゃい」
厨房に居るミカヅキが元気よく言った。いつもと一緒で頭に鉢巻をしている。ミカヅキも虹色のソウル・エッグから生まれた人間。そして、ミカヅキとサヨは双子の兄妹。同じソウル・エッグから生まれた。二人のソウルエッグはある国の博物館に一緒に飾られていた大刀と短刀の前に現れたらしい。
「どうも」
俺とシュトラはカウンター席に座った。この席なら、ミカヅキや従業員の料理している姿が見える。
「今日は何にする?」
ミカヅキが訊ねてくる。
「えーっと、おまかせで」
「了解。シュトラは?」
「私もお任せで」
「あいよ。出来るまで待ってくれ」
ミカヅキは料理を始めた。どんな料理が出てくるのだろう。まぁ、ミカヅキが作る料理なら外れはないから心配はない。楽しみしかない。
「知ってるか?賞金首のルソー兄弟の事」
「あぁ。あの泥棒兄弟だろ」
「そうだ。最近、この街の近くで目撃されたみたいだせ」
「本当か。でも、この街のセキュリティは凄いから大丈夫だろ」
「それもそうだな」
近くのテーブル席で座っている中年男性二人の話が耳に入って来た。色々と物騒な事が
あるもんだ。でも、中年男性が言ったとおり、この街のセキュリティは凄いから大丈夫なはずだ。それにもし何かあれば俺達が対処すればいい話だし。……いや、そんな事を気にしている場合じゃない。どうやって、シュトラのハグを阻止するかを考えないと。お腹を壊したことにするか。駄目だ。その方法だったらここで食べたものが悪かった事になる。うーん。いい案が思いつかない。
「でも、夜の幽霊屋敷に人影が見える噂はマジで怖いよな」
「あのバヌー・ジャザリーが住んでいた屋敷か」
「そうそう」
中年男性の話が聞こえる。
怪奇現象か。たしかに怖いな。でも、今はそれより、シュトラのハグの方が怖い。
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