第3話

アンティークショップ・クレイが見えてきた。いつも、お世話になっているおっちゃんのオルロ・スクルが営んでいる店。

 店に並んでいる商品は全てアンティークなものばかり。見ているだけであっという間に時間が過ぎていく。

「……可愛い」

 シュトラはアンティークショップ・クレイの店頭のショーウインドーに展示されているデイジーの花を模した髪飾りに見惚れている。シュトラのファミリーネームと同じ花だ。

「欲しいのか?」

「え?いや、いいです」

「なんで?」

 シュトラは値札を指差した。

 俺は値札を見た。値札には6万4000ルラと書かれていた。高い。あと何回か仕事を

こなさないと買えない。でも、こんな表情をするシュトラを見た事がない。

 ……喜んでいる姿が見たいな。ふと、思ってしまった。

「お母様に早く報告に行きましょう」

 シュトラは母さんの会社へ向かう為に歩き出した。

 俺は咄嗟にシュトラの手を掴んだ。

「テルロ?」

 シュトラは驚いた顔をしている。仕方が無い。俺が普段こんな事はしないから。

「ちょっと寄り道しよう」

「で、でも」

「いいから」

 アンティークショップ・クレイのドアを開ける。そして、シュトラと一緒に店内に入った。

 タイプライターや雑貨。ショーケースに入れられているネックレスや指輪などの様々なアンティーク商品が並んでいる。

 店の奥にはレジカウンターがある。レジカウンターのすぐ傍に古時計が飾られている。これだけは売り物ではない。おっちゃんの宝物らしい。ここに置いている理由は自慢したいかららしい。

 あれ?おっちゃんが居ない。いつも、レジカウンターの椅子に座って、あくびをしながら本を読んでいるはずなのに。

「おっちゃん。テルロだよ」

「お、テルロか。それにシュトラちゃんも」

 おっちゃんはレジカウンターの下からにょきっと顔を出した。

「びっくりした。居たならいらっしゃいぐらい言いなよ」

「いやー修理を頼まれていた時計の部品を落としてしまってな。それを探していたらドアが開いた事に気づかんかった」

「あ、そう」

「うん?テルロ、お前……シュトラちゃんとアベックになったのか」

「はぁ?アベック」

 アベック?どう言う意味だ。

「あーこれじゃあ、伝わらんか。付き合ってるのか」

「つ、付き合ってる?何言ってるんだよ」

「だって、手を繋いでるじゃん」

「……手?あー」

 た、たしかにシュトラと手を繋いでいる。

 シュトラは顔を赤くして、何も言わない。

 ……手を離すのを忘れていた。今すぐ手を離すか。でも、そんな事したらシュトラが傷つくかもしれない。いや、俺と手を繋いでいる事自体嫌かもしれない。あーどうする、俺。考えろ、俺。

「……シュトラ。ここでちょっと待ってて。おっちゃんに話したい事があるから」

「は、はい。ここで待ってます」

「お、おう。だから、ちょっと手を離すな」

「……え?あ、分かりました」

 俺はシュトラから手を離して、レジカウンターへ向かう。

「……おっちゃん。訂正したい事とお願いしたい事がある」

「な、なんじゃ。言ってみろ。ほれ」

 おっちゃんは左肘で俺のお腹を軽く突きながら、からかってきた。

 めんどくさい。こう言うときのおっちゃんはかなりめんどくさい。

「まずシュトラとは付き合ってない。家族の1人だ」

 俺は小声で言った。

「ほーシュトラちゃんはまんざらでもない顔をしてるがの」

「え、本当か?」

「いや、違うかもしれん」

「なんだよ、それ」

「自分で確かめろ」

「……お、おう。あーとにかく、シュトラとは付き合ってない。OK?」

「仕方なくOK」

 おっちゃんは手でOKサインをした。

「よし、分かってくれたらいい。あと、お願いしたい事なんだけど」

「なんじゃ。シュトラちゃんを口説く方法か?」

「違うわ。……あのさ、ショーウインドーにあるデイジーの花の髪飾りを取り置きしてほしんだけど。金が貯まったら絶対に買うからさ」

「いいけど。あれはお前の趣味じゃないだろ」

「……シュトラにあげようと思って」

「ほ、ほーん。プレゼントってやつだな。やっぱり、付き合ってるだろ」

 おっちゃんはにやにやしながら言った。

「付き合ってない。た、頼んだからな」

「は、はい。分かった」

「じゃあ、また来るよ」

 俺はシュトラのもとへ向かう。

「用事は終わりましたか?」

「お、終わった。は、早く店から出るぞ」

 俺はシュトラの手を掴んだ。

「は、はい」

 俺はドアを開けた。そして、シュトラと一緒に店を出た。

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