「やあ、今月の調子はどうかな」

 太っちょな白衣が言う。

「ぼちぼちですよ」

「宿題は、やってきたかな」

「楽しいことを見つけるってやつですか。最近は歩く気力も出ないんです」

「しかし、病院には来られたんだな」

 患者に皮肉を言う医者があるか。

「ええ、まあ」

 そう言っている間に太っちょは白衣の胸ポケットからタバコを取り出す。新型のタバコである。

 このタバコからは副流煙は出ず、二年前には健康の為として国内での旧型のタバコの販売は禁止された。

 しかし、新型は未だ研究の最中なのである。

「それ、どうして吸ってるんですか」

「どうしてって、美味いからだよ」

「体に害になるかもって考えませんか」

「何を言っとるんだ。国が認めているんだから、大丈夫だろう」

 医者が一口吸うと、煙草は真白でありながら灰を落とし、その灰は空気中に溶けた。

「じゃあ、いま先生は何を吸っているんですか」

「タバコだよ」

「何が体内に入っているんですか」

「何って、香料とニコチンさ」

「その成分は」

「知らんよ。ただ美味い空気をを飲むだけさ。説明が難しいから、一度吸ってみると良い。ほら」

タバコを一本、差し出される。

「いや、要りませんよ」

「否定ばかりしていないで試してみたらどうだ。そういうところだな、君が治さなけりゃいかんのは」

 医者は、そう言いながら机の書類に薬の赤い判子を押した。

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