お買い物 ―下― (下)

 結局適当にコンビニでお昼を済ませた後、私たちはようやく目的地へと辿り着く。

 複合商業施設、とでも言おうか。デパートといった訳では無いけれど、地元では随一の大きなお店だ。過疎化が進んで空きテナントが目立つようにはなったけれど、依然地元民の生活を支えてくれる大事なお店だ。

 二階にはゲームセンターがあるが、完全子供向け、といった感じ。一般的な女子高生が喜ぶようなプリクラ機などは置いていないらしい。ついさっきあきが嘆いていた。


「涼しー……」


 店内はクーラーが効いていて非常に涼しい。 

 個人的にも暑さが苦手なのはあるけれど、少しばかり心が癒される。

 私に余裕がなかったのは暑さもあったのかもしれない。あきに少々きつく当たりすぎたな、と反省できるぐらいには、頭も体も冷えた。

 当の本人はようやく落ち着いてきたようだから、今更謝ったりして掘り返すような真似をしても逆効果かな。


「ね、涼しい……」

「外はあっちかったなあ……」


 制服のシャツのボタンを開けようとすると、隣からの視線を感じて、見つめ返す。第二ボタンを開けるのもアウトなのか……。

 別にこれぐらいいいじゃんか。


「シャツのボタンぐらい、良くない?」

「ダ、ダメ……露出が増えるのは、よくない」

「私達水着買いに来てるんだよね?」

「せ、制服はまた別だよ……! 刺激がちょっと強すぎる」

「んなあほな」


 それはあきにたいしてだけだろう。

 わたし自身はそんな面白味のある体をしているわけではないのだから。


「あきがやるなら、まあ私は止めるかもしれないけど……」


 あきを流し目で一瞥する。まあ起伏のある体だこと。


「せ、セクハラじゃない?」

「何秒か前の自分の発言を思い出しなさい」


 コラっ、と軽く背中を叩くとあきはビクッと一瞬体を跳ねさせるものの、へへへ、と満更もなさそうに笑う。変な子だ。

 そのままとぼとぼと店内を歩くうちにお目当てのテナントを見つけていざ中へ。

 ようやく着いた、と少しばかり感動してしまう。

 

「ようやく着いた、って顔してる」

「バレた?」

「……言っとくけどここからが本番だよ」

「そーでした」


 色とりどりの水着に囲まれて、そういえばここ数年服を買っていないなと思い出す。まともな私服すら買っていないのに水着を先に買うことになるとは。


「どうしたの……?」


 ややこちらの様子を伺うようにあきが言う。

 いや、なんでもないよ、と誤魔化して話を進める。


「私はまああきに選んでもらうからいいけど、……いや、あんまり変なのはよしてほしいんだけど」

「しょ、そんなわけないじゃん!」


 うーん、不安。


「あきは水着、買うの?」

「うん、買おうかな。最後にプールとか行ったの……多分中学二年生とかだから」

「それはどういう意味だい」

「いや、水着入んな――」

「なんでもなーい」


 あきの口を強引で手で塞いで、んぎょもぎょと手のひらに言葉が吸われる。

 そんなことを言ったら小学校の頃の水着が入ってしまった私は一体全体なんなんだい、あきくん。

 口に出したらいい笑い話になりそう……いやなるかな。あき相手じゃなくてもこれはちょっと引かれそうだ。


「あきは……自分で選べるよね? 私正直水着とか全然わかんないし」

「どっちがいいか、くらいは聞いてもいいですか……?」

「私の美的センスを信じてくれるのならば」

「も、もちちろん!


 ちが多くてなんか卑猥だ。口には出さない、めんどくさいから。

 今日は随分お利口だな、私の口。


「まあ、何でも似合いそうだよねーあきは」

「か、かえでも似合うと思うよ!」

「こういうの?」


 半笑いで視線を向けた先にあるのはやや露出多めのいわゆるビキニ。

 自分でもないな、と思う。

 あきはうーん、とやや悩みつつ「悪くないね」と零す。本気か?


「でもね、かえでは多分ある程度露出が多いほうが似合うと思うよ」

「え、本当にビキニを着ろと?」

「かえでは美形さんだから正直何でも似合うとは思うよ。なんて言えばいいかな」


 うーん、と考えるあきの顔は至って真剣だ。こういう真剣な表情をしているときのあきは頼りになるお姉さん、って感じで、実際そうで。顔立ちだって悪くない。

 一般的に見ても可愛い部類の女の子だと思う。こんな風にしてれば。

 どうしていつもあんなふにゃふにゃになってしまうのか。

 そんなあきは私によく美人さん、とか美形さん、とかよく言うものだけれど、そういった言葉を信じていいものか。

 他人から容姿について言及されるとき、第一に出てくるのは「ちっちゃい」で。

 顔について言及されたことはあまりなかったかもしれない。

 うーん、と頬をつねってもなにかわかる訳では無いけれど。いたい。


「聞いてた?」

「あ、ごめん。何言ってるかわかんなかった」

「うーん、そうだな。二パターン用意しよっか」


 そう言ってあきは手際よくお店を周り、これと、これとピックアップして私に見せる。

 一つはワンピースみたいな水着。上下で別れてなくて、露出も控えめ。

 率直に言えば人を選ばなそうな感じだ。

 もう一つは……なんかフリルがたくさんついてる感じ。


「ピンときてない顔してる。オフショルダーってやつ。下もスカートみたいにできるし、短パンみたいにもできるね。お腹はがっつり出しちゃったほうがかえでは可愛いと思う」


 すかさず解説が隣から飛んできてほほーと感心。

 凄い、あきから下心なしでこういう言葉を聞けるとは思ってなかった。


「あきってちゃんと女の子なんだなあ……」

「女の子です。お腹出すのが嫌だったら上からこういう……透明なやつ――シースルーって言うんだけどね? こういうのもありかなって。大人っぽく仕上がってギャップもあるし、いいと思うんだよね」

「うーん、何言ってるかさっぱり」

「……じゃあ、どっちが好き?」

「あきはどっちがいいと思う?」


 質問に質問で返せば、あきはそれなりにうーん、と悩み。


「試着するのが早いかも」

「それはそうだ」


 ポン、と握りこぶしを手のひらにハンコして早速とあきが店員さんへ声を掛ける。

 妹さんですかー? と聞こえた気もするが聞こえなかったことにしていざ試着へ。


「覗いちゃだめだよ」

「一応言っておくけど、直に着ないこと」

「えっ」


 そんな一悶着を終えつつ。


「うーん……」

「ど、どうですか……」


 あきは上から下へジローっと視線を動かして、思考する様子を見せる。

 なんか気恥ずかしい。


「私があきに辱められる日が来るなんてね……」

「変な言い方はよしてね」


 いつにもまして真剣モードなあきは私の言葉で揺るがない。

 いや本当に普段からこうなら、と思わざるを得ない。

 

「うん、じゃあ次」

「あ、はい」


 もちろん一着目で終わるわけはなく、はい、次と手渡され、着てを繰り返して。


「い、いつまで試着をすればいいんですか……あき先生」

「もうちょっと」


 すっかり着せ替え人形にさせられていた。


「さ、最初の二つでどっちかを選ぶんじゃないの……!?」

「もっと似合うのあるかもだし」

「そ、そりゃそうかもだけどっ……」

「はい、次これね」


 ひえ、と思わず口から溢れた小さな悲鳴はあきには決して届かない。

 ここで一つ共通点を見つける。ふにゃふにゃなあきも、こうした真剣なあきも。

 一点を見据えてそれ以外は見えなくなるところは変わらない。大抵そういうとき、私の声が届かないところも変わらない。

 こういった表情のあきを見ることは初めてで、あきっぽくないな、なんて思っていたけれど。なんだ、こうしてみてみればあきらしさ全開じゃないか。

 それはそれとして。


「も、もう良くない……?」

「ダメだよ、はい、暗くなる前にね」

「ひ、ひえ……」


 人は限界になると、本当にひえーなんて悲鳴が出ることを私は知ったのだった。


―あとがき―


特に言うことはありませんが、相も変わらず誤字脱字のチェックすら気が向いたとき(寝て起きたら)するスタンスですので、見つけ次第報告してくださると、私はとても喜びます。

本当にありがたいです。

五体投地して感謝申し上げます。

嘘っぽく聞こえるかもしれませんが、このお話に限らず、今現在問わず誤字脱字・もしくはおかしな日本語を見つけた際にはお気兼ねなくご指摘してくださるとありがたいです。

改善されていない場合は私なりの日本語だということでご勘弁ください。

 

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