お買い物 ―下― (上)

 結局、私たちはマックでもミスドでもなく、もしくは何処かしらの飲食店にいる訳でも無く。

 元通り、駅に戻ってきて。

 はてさて、どうしようか。

 文字通り、振り出しに戻った。


 不幸中の幸いか、あきの調子も元に戻りつつあったけれど、完全には戻っていないようで、……うん、やや、遠い。いや結構遠いな。

 ただ手と手が少しの間触れ合っていただけなのだけれど、あきにとっては未曾有の出来事だったのか。恐れ多いと言った感じでやや遠い、物理的に。

 今や精神的な壁すら感じた。


 別にそこまで大袈裟になることあるかな、とは思う。

 私自身他人と手を繋いだ記憶が多い方では無い。

 手を繋ぐぐらいでこの焦りようは……なんだろう。普通、じゃない。

 やっぱり……と邪推しそうになって、いやいやと首をふる。

 自分を戒めて、いやでも、と思考が止まらない。なんであきはこういう挙動をするのか。思ってしまうのは簡単で、口に出すのは難しくて。

 

「あーーダメダメ」


 暑いしあきは変だしで頭がおかしくなりそうだよ、と呟いてみたりする。

 あきはそんな私も目に入らないのか……この場合は耳に入らない、か。ずっとぐるぐる回りながら忙しない。

 自分の尻尾を追いかける犬みたい。


「もーいーい?」

  

 まるでかくれんぼでもしているみたいだ。

 肩で息をしていたあきは、何度か深呼吸を繰り返し、そろそろ落ち着いてきたかなあ、と思えばヒック、としゃっくりのような音を上げて、また最初から。

 なにかしてあげたいとは思う……けど。

 

 私はあき特攻のを持っているらしくて。私的には主語が逆で、あきが私に特別過敏なだけだが。

 

「私と手を繋ぐのがそんなにショックだったかなあ。へこむなぁ……」


 わざとらしくとぼけてみたりして。


「そ、そういうわけじゃない、けど」

「どういうわけなのよ」

「じゃあ、それはそう、あ、あれはそう」


 じゃあから始まる言い訳があってたまるか。

 きっとよそはよそ、うちはうち、的な言い回しをしているのだろうけれど、例えそうだとしても、このバにおいて全くもって適切な表現では無いし、その上で間違えているのだから、もうカオスだ。


「別に手繋ぐくらいでそんな……」

「そ、そんな!?」


 急に大きな声を上げたあきがガバッと立ち上がり一気に間合いを詰めてくる。肩の上に手をガシッと乗せて荒い息で「今、そんなこと言いましたか!? あなた!」何やら熱弁している。

 これはセーフなんだ、とは口には出さなかった。始まったよ、とは思ってしまう。

 余計めんどくさいことになるに決まってる。

 夏ってこんなに暑いんだなあ、と手を繋いでいなくても熱くなるあきを見て、そんなことを考える。

 曰く、かえでは自分を安売りしぎだ、とかなんとか。

 近くにいるのに遠くから聞こえるような錯覚を覚えつつ、肩を揺すられてぐわんぐわん。

 お手ごろな値段で売った覚えはないし、そもそも売っていない。


「あきだけの非売品だよ」


 なんて冗談、火に油を注ぐだけだよなあ。


「そ、そういうの……の事を言ってるの!」


 口に出してから後悔してももう遅い。こうなったあきは無敵だ。


「えぇ……」

「かえでは、自分を大事にした方がいいよ!」

「話のスケールが大きくなってきたなあ……。あきの前で自分を大事にしなかったことあるかなあ」

「かえでは一人しかいないんだよ!?」


 話が通じない。もう意味がわからない。何を言っているんだろう、この子は。

 私、変な翻訳アプリでも使っているだろうか。あき語が理解できなくて参るよ。

 普段こう言ったあきの様子はむしろ好ましい……いやあっけらかんに言ってしまえば、面白いなあ、なんて思っていたけれど、何も進展がないとここまで疲弊させられるとは思っていなかった。

 普段は進展なんて必要ないから、気づかなかった。

 今日に限っては水着を買いに行く、という目的があって、現在は一時間ほど経過して、進展ゼロ。

 体力だけは着実に削られている。夏の暑さと、あきの熱に。

 この調子で海とかプールとか、本当に大丈夫なんだろうか。


「あきー? もうそろいい加減水着買いに行くのは?」

「だ、ダメ……無理……!」

「なんでやねーん」


 はぁ、とついため息をついてしまってから、あきの方を見るとあきはビクッとして「ご、ごめん」と謝らせてしまう。よくないな、と思う。

 らしくもなくイライラしている、のかもしれなかった。

 あきが嫌いになりそう、なんてのは決して口には出さないけれど。

 ……いや、あきにはいいお灸になるだろうか。お灸といえば漢字からかなんとなく熱そうなイメージがある。あきにこんなことを言ったら青ざめて冷たくなるに決まっている。熱いもので冷たくなるあき、そんなどうでもいいことを考えていれば、多少落ち着く。

 悪くない。いつものいい感じにくだらないマインドになってきたぞ、私。


「もう……行くよ」


 手がダメなら、とあきのスカートを容赦なしに引っ張って行く先もなく進んでいく。やや短めに巻いてあるあきのスカートがそれはもう結構な状態になるけれど、知ったことか。私はいい加減お腹も空いたし、疲れてきているのだ。


「ちょちょちょ! すか、スカートはダメだって! も、もれる!」

「何がもれるのさ……じゃあ何、手でも繋ごうか?」

「て、手は……ダメ」

「なんてワガママなっ」

「わ、わかった……ごめんっ……い、行きます。歩けます!」


 あきはようやく観念……観念? したようで「い、行きましょう!」と仕切り直すように胸を張る。鼻から息を勢いよく噴射している様子に信頼はもはやない。

 汗で前髪がおでこに張り付いてるし。


「ねえほんとに大丈夫? 後日にしよっか? もしくはもう水着とか……まあ来年とかでも……」

「だ、ダメ! それは……ダメ!」

「だってあきが全然動いてくれないんだもん。散歩から帰るのを拒む犬みたいだよ」


 たいして歩いてもいないが。なんて言ったら皮肉だと思われてしまうかな。


「ご、ごめんなさい……わかりました、行きます行きますよ! 行けばいいんでしょ!」

「なんで逆ギレ気味なの……」

「自分が不甲斐ない……!」 

「頼むよーあき」


 バシッ、と軽く背中を叩く。

 

「ひゃいっ!」


 勢いよく舌を噛んだあきを見て、空を見上げた。

 雲ひとつない快晴、太陽は容赦なく私たちを照らしてる。幸か不幸か、まだまだ暗くなる様子は無い。

 ……日付が変わる前に帰れるかな。


―あとがき―


カクヨムコンで百合をやるらしい!!

とは言うものの、カクヨムコンについてイマイチ理解もしていませんし、詳細を読むつもりもありません。めんどうくさいので。

このお話は青春なのか、ラブコメなのかについてはそれなりに悩みました。

ラブコメではないと思います。青春でもないと思うけれど。


お久しぶりです。ペースを上げる、なんて言っていた私もいましたね。

あれは嘘だ。でーん。

それはそれとして、ご読了感謝です。

待っていてくれた方、ごめんなさい、お待たせしました。

私の更新頻度は当てにしないほうがいいのかもしれません。

気が向いたときに書くスタンスは変わらずなので、首をキリンより長くしてお待ち下さい。


P.S.

上・中・下で分けたうえで下編が上下になることあってもいいんでしょうか?

いいんです。

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