第48話
「大丈夫ですか?」
露火の手を借り詩兎は咳き込みながらゆっくりと立ち上がる。
少しすると呼吸も落ち着き、咳き込まなくなった。
「詩兎様!」
詩兎と露火の元に駆けてきたのは理杜だ。
涙ぐんだ顔で詩兎に駆け寄り、身体を支えようとしてくれる。
どうやら、陵庵に連れて行かれる詩兎を目撃し、近くにいた露火に知らせてくれたのは理杜だったらしい。
「お、俺……竜王殿下めっちゃ怖かった……」
詩兎にしか聞こえない声で理杜が呟く。
涙ぐんでいたのは露火に話しかけることが怖かったからかもしれない。
「……ありがとう、理杜」
普通であれば皇族に自分から話しかけることは許されない。
相当勇気がいる行動だった。
詩兎は理杜に感謝しつつ、地面を転がっている陵庵を憐れんだ。
「………露火様、海に返さなければならない魚が焼かれていますが」
詩兎は憐みの目を陵庵に向ける。
彼はまだ消えない背中の火の粉と戦っており、騒ぎを聞きつけた者達に消火を求めているのだが、この場を支配しているのが竜王露火であることを察し、一定の距離を保って近づいて来ない。
「海に返す頃には腐ってしまいますし、このまま焼いてしまおうかと」
『まぁ、もう腐ってるんですけどね。芯から』と露火は呟く。
当然ながら露火は陵庵によって研磨局が牛耳られているのを知っていたようで、諸悪の根源にまるでゴミを見るような視線を向けていた。
その薄い黄色の瞳に温度はなく、冷酷な竜王といわれるのも納得のいくものだった。
「露火様……もう、その辺りで宜しいのではないでしょうか」
詩兎が控えめな態度で止めに入る。
「この腐った魚が誰に手を上げたのか、きちんと分からせる必要がありますから」
そんな大げさな。
私はだたの雇われ研磨師ではないですか。
まるで竜王露火の妻か婚約者になったような、大切な存在になったような気持ちになってしまうではないか。
そういう周囲に誤解を生むような発言は控えて貰うように言わなければ。
ただでさえ、華陽はこういうことに敏感なのだ。
「あなたが手を上げたのは私の妻になる人です。当然、命をもって償う覚悟があるのでしょう」
露火の爆弾のような発言に陵庵は目を剥いた。
それは詩兎も同じだった。
詩兎だけでなく、露火の発言が原因で今度は騒然としているではないか。
この人は今、なんと言ったのか。
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