第2章 悪女と噂の竜王

第15話 

 華陽は胸を躍らせていた。

 自分に向けられる羨望の眼差しに、高揚感が高まっていく。


「あれが桜家の華陽様か?」


「噂通りお美しい。水の竜眼石の扱いにも長けてらっしゃるとか」


「それだけでなく、竜眼石の研磨も素晴らしい腕前だとか」


「皇室も華陽様に研磨の依頼をなさったらしいぞ」


「それは凄い! 皇家が認めた腕前ということか!」


 王宮の廊下を歩くだけで自分に好意の視線が集まり、囁かれる賛辞は小鳥の囀りのように心地が良い。


 お姉様には感謝してもらわなくっちゃ。


 竜眼石も扱えない一族の恥さらしだが、研磨の腕だけは使える。

 女として生まれたにも関わらず、他家との縁を結ぶことができない役立たずの姉に残された唯一の食い扶持を得る手段が原石の研磨だ。


 これで多少は家の役に立てるのだから、感謝して欲しいわ。


 だけど、最近調子に乗っているのよね。


 工場の職人達を味方につけ、あの狭い空間の中でお姫様扱いされていることが華陽は気に入らなかった。

 

 あんな汚い連中にもてはやされていい気になっていられるのもいまのうちよ。

 お姉様の代わりなんていくらでもいるんだから。


 華陽は花のような微笑みの裏側でここにはいない詩兎を嘲笑した。



「華陽、ここで待っていろ。順番を早めてもらうために話をつけてくる」


 控えの間に通され、華陽は長椅子に腰を降ろして脚を休めた。


「えぇ。お父様。何せこちらには皇家から直々に依頼を賜った竜眼石があるんですもの」


 華陽が言うと陶辰は鼻高々に大きく頷く。


「その通りだ。桜家が皇家から直々に依頼されたということは我々が皇家の信用を得た貴族ということ。桜家と皇家には深い繋がりがあるということだ。仕事や上辺だけの関りがない者達とはわけが違う」


 鼻息荒く、陶辰は続ける。


「それに若き帝と皇后の間にはまだ御子がおらん。華陽、お前が見初められる可能性もあるのだ」


 その言葉に華陽は胸をときめかせる。


 御年二十六歳の若き皇帝が皇后に選んだのは隣国の姫でまだ十四歳と皇后としては幼い。

 仲睦まじいと聞くが、子供ができる気配はないと聞く。


「そんな恐れ多いこと……私には高柳様が……」


「もしそうなれば葉家には断りを入れるより他ない」


「そうですか……致し方ありませんわね」


 華陽はしおらしい態度で縁談の無効と皇家との婚姻に前向きな姿勢を見せる。


 悪くないわ。

 正室でなくとも帝の側室、それももし皇后よりも早く男児を授かれば私がこの国の国母よ!


 古い自尊心だけの中級貴族の葉家なんて目じゃないわ。


「では、心しておくのだぞ」


「はい。お父様」


 陶辰はにんまりとした顔で控えの間を出て行った。


華陽は手持ち無沙汰に立ち上がって窓の外を覗いた。


「流石、王宮ね」


手入れの行き届いた庭には赤や白、桃色の椿の花が咲き誇っている。

庭の造りも王宮に相応しい品格と華やかさを感じ華陽は感嘆のため息を溢す。


「もし私が陛下に、見初められたらこの庭も城も私のものになるのよね……素晴らしいわ」


綺麗な服と装飾品を身に付け、最高級の茶器と茶葉、有名な職人に作らせたお菓子で女性達をもてなし、優雅にお茶会をしながら、他の女達に格の違いを見せつける…………。


「最高だわ」


華陽はうっとりとした表情で呟く。


妃になった自分に想いを馳せていると視界の中に人が飛び込んできた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る