第39話 直火沸騰

 ごとっ、ごとっ。


「お、おお、凄いな……」


 画面が消えた瞬間、食材が私の足元に置かれた。


 む、さすがにあの段ボールでの梱包はないか。

 そこまで行くとぎりぎりじゃなくなるもんな。


 私が購入したもの。


 食パン、麦粥、加えて、紙に包まれたフランスパン1つ、レトルトタイプのコーンポタージュ、パック入りのベーコン、マヨネーズ、ニンニクチューブ。そして、同じくあるブランドのレトルトカレー。


 このカレー、一人暮らしの時もよく食べていたな。

 米も最高だが、パンも合うんだ、また。



 カレーやらは別として、少しのパンと麦粥なら遭難上がりのクリム君もゆっくり食べれば身体にも問題ないだろう。


 飢餓状態の人間へ急に消化の難しいものを与えるとダメージを受ける可能性があるからな。



「よし、調理開始だ。……クリム君、ちなみに、君、今、火つけれるかい?」


「へ? ひ、火、ですか? も、もちろんです! ……えっ? サキシマさん、その、足元にあるのは……食べ物、ですか?」


「ああ、買い物がちょうど終わってね、軽い朝ごはんにしようか」


「い、いったい、どこから、そんな食材が……そ、それに、その滑らかな包装は……た、食べ物?? す、凄い……見た事がない、そんなの、それに、魔力の残滓が、なんか、凄い……」



 ぐうううううううううううううううううう。

 ひと際大きな腹の虫。

 いたいけな少女が、顔を真っ赤にして。



「あ、すみません、火、点けます……えっと、何か燃えるものって……」


「ああ、もし出来ればここに頼む」



 枯れ枝を集めて空気が通りやすいように円錐形をイメージして組み立てる。

 THE焚火、ティピー型と呼ばれる薪の組み方だ。



「あ、ありがとうございます、それでは――”高き場所、乾いた風、火打ち石の擦れ音”――点火ファイア


 クリム君が杖を構えてそれを薪へと向ける。

 一瞬で明々とした炎が熾り、薪に火をつけた。


「おお……凄いな、一瞬か」


 薪はウンディーネが運んだ事でかなり湿っていたはずだ。

 それを煙も出す暇もなく一瞬で乾かし、火を点けた。



 ……末恐ろしいな。

 枯れ枝の引火点はものにもよるがだいたい1000度と言った所か。

 それをあんな一瞬で……。



「……魔術、怖っ」


「え? 嘘でしょ、貴方が言うの……??」


 私の呟きに、クリム君が顔を強張らせる。

 くさいものを嗅いだ猫みたいな顔だな。


 ぱちっ、ぱちぱちっ。


 完全に焚火と化した炎が大きくなる。

 よしよし、あとは適当に枯れ枝を折って燃料を追加してやればしばらくは持つな。


「え、えっと、ほ、ほかに何かお手伝いできる事ってありますか」


「いや、問題ない。さて、と。クリム君、食べ物の好き嫌いはあるかい?」


「い、いえ、何もありません、基本美味しいものなら美味しく頂きます……」


「若干引っかかる言葉だが、良しとしよう。少し待っていたまえ」


 まずは、レトルトのポタージュから調理を始めよう。

 ふむふむ、裏面の説明書きにはお湯で6分加熱と書いてあるな。


 火はあるが、水を沸かす鍋がない。


 しかし。



「何も問題はない、――水鱗生成」


 水を薄い四角形に伸ばす。

 その中にコンポタの袋を入れて、と。


 とぷんと音を立てて、コンポタの袋が水鱗の中を漂う。


 よし、いいぞ。



「え、その袋、何、を?」


「まあ、待て。あと10分もしないうちに全部出来上がるさ。パンは適当に千切って木の棒に刺して焼いておくか……」



 なんとなく異世界人的にはフランスパンの方が抵抗ない気がするな。

 食パンじゃなくてこっちにしておこう。


 煌々と燃える焚火、その真上にコンポタの袋を閉じ込めた水を移動させる。

 ぱち、ぱちっ。

 火が薪を舐め。はじける音が響く。



「そ、そのパン……不思議な、形ですね……」

「見るのははじめてか。君の世界、じゃない、国ではどのようなものが主流なんだ?」

「えっと、実家で出てくるパンはもう少し、丸い感じの……」

「膨らんでいる奴かね?」

「え? パンって基本、膨らんでるんじゃ……」


 なるほど、クリム君の話から推察するに、この世界でも発酵を利用したパン作りがされているらしい。


 中世の歴史はパンの歴史と言っていいほどその関係は密接だと本に書いてあったが……この世界の技術水準から考えると、やはり、現代における16世紀から17世紀あたりの文明と同水準か?



 そんな事を考えていた時だった。



 こぽ。こぽぽぽぽぽぽ。


 耳に小気味いい可愛い音。


 ああ、転生前に、何度も聞いていた水が沸騰する音だ。


 実験は成功。


 私の目の前で、焚火に焙られる水鱗が沸騰し始めていた。




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