第78話 本当のエマ
「エマさん!?」
「遅くにすまない。話したいことがあるんだ。中に入ってもいいか?」
「だ、大丈夫ですよ」
一番意外な人物の訪問に俺は面食らってしまう。しかし、断る理由もないため、中に招き入れる。
エマさんは靴を脱いで中に入ると、床に引いてあるマットレスの上にあがり、突然両手両膝をついて土下座のような体勢を取った。
「ど、どうしたんですか?」
信じられない光景に俺は頭がパニックになってしまう。
「実は、今日一日の私の失礼な態度と言葉を謝りたくて来たんだ」
そう口にするエマさんの沈んだような表情を浮かべていて、今にも泣き出しそうにも見える。
「アヤト、本当に悪かった!」
エマさんは深々と頭を下げてくる。
「えっと……。どういうことですか?」
日中の姿とあまりに異なる様子に俺は戸惑ってしまってしまう
「せっかく助けてもらったのに。えらそうな態度をとったり、失礼なことをいっぱい口にしちゃったりしただろ……本当に申し訳ない!」
「……?」
(えっ。どういうこと? わからない。なんなんだ。エマさんのこの態度は。えっ!!ひょっとして二重人格ってやつ? いやでも、そうならそうと先にルーナさんが言ってくれるよな……。だめだ、わからない……)
今までとはまるで別人のような態度を見せるエマさんを前に、俺の思考が追いつかない。さっきまで男の俺を明らかに警戒しているような態度をとっていたのに、自分からテントの中に入ってきて、頭を下げている。
「エマさん……?」
俺は少し心配するような声を出すしかなかった。どうしていいか、自分でもよくわからなかった。
「すまん。ちょっと私が何言っているかわからないよな。こんなふうにいきなり態度が変わったら……。アヤト、怒らないで聞いてほしい」
エマさんは、深く息を吸うと意を決したように口を開いた。
「実は、私は……男嫌いじゃないんだ」
「えっ?」
「ルーナから聞いたよな? 私が男嫌いだって」
「はい」
「昔は、確かに、色々あって、自分でも異常だと思うほど男が嫌いだったんだ。でも今はかなりましになってきているんだ」
「そうなんですか? でも今日一日の様子を見ていると、かなり俺のことが嫌なのかと思っていたのですが……」
「ごめん。アヤトのことを嫌がるふりをしていたんだ。昔からずっと、男嫌いキャラで来ているからさ、あいつらの前でいまさらそれを変えるのが恥ずかしくて……」
「えっじゃあ、今日のは……」
「演技なんだ」
(演技!?)
俺は今日一日のエマさんの辛辣な態度を次々と思い出していく。
「初めて会った時に俺をにらんできたのも?」
「ああ」
「俺がパーティに入るのを猛烈に反対したのも?」
「うん」
「夕食を食べているとき、テントを空けたら刺すって言ったのも?」
「そうだ。今日の私の振る舞いは全て演技だ……。本当にすまない!!」
エマさんは、もう一度頭を下げる。
「だめなのは自分でもわかっているんだ。でも、ルーナとソフィアの前で態度を一変させるのが恥ずかしくなって。あんな風な態度をとってしまったんだ……。本当にすまない。」
「エマさん……」
「アヤトが、私たちを救助しに来てくれてときの配信、昨日モルドに戻ってきてからすぐ見たんだ。死にそうになりながら私たちのところに来ようとするアヤトの姿を見て、魂が震えたよ! 見ている間ずっと涙が止まらなかった。胸が熱くなって体の底から感動したんだ!! 本当に、本当にありがとう!! 」
「本当のところ、私はアヤトにめちゃくちゃ感謝しているんだ! でも最初に会ったときはルーナたちが居たから、正直には言えなかったんだ。申し訳ない!」
「そうなんですか。でも、俺がパーティに入ることについてはどちらにしろ反対だったんじゃないですか? レベルも低いし……」
「いや、正直私も絶対に入ってほしいと思っていた。ルーナからアヤトをパーティに入れたいって聞いたときは、内心大喜びしたよ。でもその気持ちをルーナやソフィアに知られたくなかったからすぐに心を切り替え、あんな態度を取ったんだ。私があそこで喜んでしまったらきっと二人に気付かれてしまうと思ったから……。疑われないようにするため、いつもと同じような態度をとるしかなかった。」
「試験をしたのも?」
「ああ。男嫌いの私だったらそうするだろうなと考えた……。本当はアヤトの実力は映像で見て大体わかっていた。探知スキルもずばぬけているし、動きだって十分私たちについてこれる。はじめから合格は決まっていたんだ」
そこまで、言い切ると、エマさんは、
「アヤト失礼な振る舞いと、言葉を投げかけてしまい、本当にすまなかった。ここまで話した通り、私はアヤトのことをめちゃくちゃ評価しているし、感謝しているんだ!」
(まじかよ! ルーナさんたちに男嫌いが治っているのを知られたくなくて、ここまで演技してきてのか。わざと嫌われるようなことも言って……。やばい、面白過ぎる! )
「あっはっは!」
俺は思わず声をだして笑ってしまった。エマさんの真実を知り、笑いが込み上げてきてしまって抑えられない。
(どんだけ知られたくなかったんだよ! ここまでするか普通? とんでもなく不器用な人なんだな。いや、演技をずっとし続けられるってことは器用なのか! どちらにしろぶっとんでるよな! しかも、ちゃんと最後に謝りに来るって、そういうところは律儀なんだな! おもしろ!)
「本当にごめん!」
エマさんは必死に頭を下げている。その姿を見ていると、怒りや不満と言った感情は少しも浮かんでこなかった。ただ、ここまでのことをするエマさんがなんか面白くて笑ってしまう。
「エマさんって面白いですね!! あはは!」
大笑いしている。俺の横でエマは
「すまない……」
と顔を真っ赤にしている。
「それとな、アヤト。 敬語なんて私に使わないでくれ! 私の方が遥かに年下だし、アヤトは私の命の恩人だ。変に気を使わないでくれ」
「いいのか?」
「もちろんだ。それにアヤトはもう私たちの仲間だろ。仲間内で変な気遣いは不要だ。私もアヤトって呼ばせてもらう。丁寧な言葉遣いは昔から苦手なんだ」
「わかったよ。エマ」
ルーナさんやソフィアさんとは違って、なんかエマには親近感を覚えてしまった。
性格も能力も、全て完璧に思えるルーナさんとは違ってエマはとても人間らしかった。必死で本当の自分を隠そうとしている姿が面白く、だめさ具合がどこか自分に似ているなとも感じてしまった。
俺は一気にエマに親しみを覚えた。たしかに、ルーナさんやソフィアさんとは違って、エマにはため口のほうが話しやすいような気がした。
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