第77話 夕食 

 俺たちは地下46階に向かう階段の近くで一泊することになった。いつの間にか時間は夜の9時になっていたから、残りのダンジョン攻略は明日に回すことにした。


 一泊することが決まると、ルーナさんたちは素早くテントや焚き火台やランタンなどの準備を行っていき、あっという間に宿泊する準備が整った。


 俺は今、椅子に座ってくつろいでいた。目の前には焚き火台に灯る火がパチパチと揺れている。揺らめく光が、近くの岩壁を照らしている。この階に到着した時は、服や体は汗や埃で汚れていたが、ソフィアさんが【浄化スキル】を使ってくれたおかげで、服も体もピカピカになっていた。


 すぐ隣には、ルーナさんとソフィアさんが同じく椅子に座わりながら楽しそうに会話している。


 俺は、少し離れた場所で三つの焚き火台を使い、手際よく調理を進めていくエマさんを眺めていた。まるで以前テレビで見た三ツ星フレンチの厨房のようにせわしなく調理を行い、次々と料理が完成していく様子に驚いていた。


(すごいな。同時に3品ぐらい並行して作っている……)


 いかにも手慣れた様子で料理をしていくエマさんの姿はどこか新鮮だった。今日一日しか共に過ごしていないが、男勝りで気が強そうな印象が強かったため、このような姿は意外だった。


 俺はエマさんの調理が終わるまでルーナさんたちと話しながら過ごした。

やがて、椅子の前に置かれたローテーブルに次々と料理が置かれていった。

(ここはレストランなのか)と感じてしまうほど、品数が多かった。また、お皿やナイフ、フォーク、グラスなどの食器もどれも高そうな物ばかりで、なおさらキャンプ中に食べる食事とは思えなかった。


 俺は、目の前に並んでいる料理を一つずつ食べていった。


「これ、うまっ!」

彩り豊かな野菜とチーズが合わさったサラダや、玉ねぎの深いコクと甘みを感じるコンソメスープも絶品だったが、いま口に入れた、スペアリブの煮込みは思わず声が漏れてしまうほどの味だった。


 口の中に入れると、ホロっと肉が溶け、すぐに口の中に肉の旨味が広がる。あまりにもおいしすぎて、次々に肉を口にいれたくなるほどだった。


「どの料理も信じられないぐらい美味しいです。エマさんって「調理スキル」を持っているんですか?」

 俺は、あまりの味に思わずエマさんに話しかけてしまう。男嫌いのエマさんに対してあまり自分からは話しかけないようにしようと考えていたのだが、我慢できなかった。


「そんなものは持っていない。自分で腕を磨いただけだ」

「凄いですね! 美味しすぎてびっくりしました! 超一流レストランに出てくる料理みたいです」

 お世辞でもなんでもなく、心からそう思えるほどエマさんの料理はレベルが高かった。

 

「そうか。口にあったなら良かった。おかわりもあるからな」

 エマさんはぶっきらぼうにそう口にしたが、少しだけ硬い表情が緩んだように見えた。


「エマの料理は本当にすごいですよね。それはいつも感じています。たまにしか配信しませんが、エマのダンジョン料理配信はいつも大人気なんですよ! 私のモンスターの倒し方講座や、ソフィアのダンジョン内の薬草や植物の解説配信よりも人気なんです」

 ルーナさんはしみじみとそう口にする。


(みんな個人でも配信をしているのか……あっ! そう言えばルーナさんが一人で魔物の倒し方を解説してる動画あったな……)


 俺は以前ルーナさんがモンスターの倒し方を説明していた映像を思い出した。


「エマは昔から料理が得意でした。10歳ぐらいの時にお菓子を作った時も、すでにとっても上手でしたよ。ね、ソフィア!」

「そうでしたね」

 ルーナさんの言葉にソフィアさんも続く。

 

「みなさんってそんな昔からの知り合いなんですか?」

「はい。親同士が親しかったので確か、4歳くらいの時はもう友達でした」

「まあ、腐れ縁ってやつだな」

「凄いですね。昔からの知り合い同士でパーティを組んで、街のトップパーティにまで登りつめるなんて」

「まぁな。それなりの努力をしてきたからな」

エマさんの言葉はどこか重く感じた。


「そうだね。頑張ってきたよね。私たちは……」

 ソフィアさんは感慨深そうにつぶやいた。


(改めて考えるとすごい人たちだよな。まだ21歳だろ? 俺よりも9歳も若いのに、ここまで活躍してるなんて……。俺なんかとは違ってみんなエリートだよな。俺なんかが本当にこのパーティに入っちゃっていいのか?)


  一緒にダンジョンを攻略してみて、俺は、改めて3人の圧倒的な実力が理解できた。しかし、三人の凄さを肌で感じてしまったことにより、自分の実力のなさも痛感していた。少しだけ後ろ向きな感情が湧いてきてしまう。

 

「このパーティにアヤトさんが加入してくれて本当に嬉しいです! 私たちの力にアヤトさんの力が加わったら、無敵ですよ! アヤトさんありがとうございます!」

 しかし、そんな俺の心を察したかのようにルーナさんは暖かい言葉をかけてくれる。


「そうですね。探していた四人目のメンバーにアヤトさんほどぴったりな人はいません。これからよろしくお願いします」


 ルーナさんに続きソフィアさんもそう言ってくれ、俺は少しほっとした。二人の表情はとっても嬉しそうで、自然と俺も幸せな気持ちが込み上げてくる。


「私はまだ、いまのアヤトの力量には満足してないけどな……」

しかし、ぼそっとエマさんはそう呟いた。


「「エマ」」

「そう睨まないでくれよ。わかったよ……」

ルーナさんとソフィアさんが少しだけ低い声を出した。眼には怒りの感情が込められているように見えた。エマさんは席を立ち、焚き火台の側でまた何か別の料理を作り始めた。


「すみません。アヤトさん。全く、エマの男性嫌いには困ったものです」

 ルーナさんは呆れたように呟いた。


 その後も、四人で焚き火を囲みながら食事を楽しんだ。


 たまに、エマさんがちくっとするような事を俺に言ってくることはあったが、和気あいあいとした楽しい時間を過ごすことができた。何よりも憧れのルーナさんとこうしてそばで過ごせているだけで夢のような時間だった。


 しかし、そろそろ寝ようかという時間になったとき、エマさんが再び、手厳しい言葉を発した。


「女三人のパーティに入るんだから、色々気をつけてくれよ。もし、変なことをしようとしたらただじゃ置かないからな!」

「わ、わかりました」


「アヤトさんがそんなことするわけ無いじゃないですか! 」

「エマ、流石にそれは失礼ですよ」

ルーナさんとソフィアさんはすぐに反論してくれる。


「男って奴はみんな、いかがわしい事しか考えてないんだ!! 何日も一緒に生活する以上警戒はしなくちゃダメだろ! 初めに言っておくが、寝てる時に私のテントを開けようとなんてするなよ! 躊躇わず槍で突き刺すからな!」

 エマさんは突き刺すような鋭い瞳で俺をにらんでくる。笑っていたら間違いなく絶世の美女なのに今はとにかくその視線が怖い。


「だから、アヤトさんはそんな人じゃないですって! エマは疑り深すぎるよ!」

「そうですよ! あんなにボロボロになりながら私たちの所まで来てくれたんですよ! アヤトさんが、悪い人であるわけないじゃないですか!」


「ま、まぁ確かに。あれは凄かったけど……」


「全く、エマはアヤトさんのことをなにも分かってないですね! まぁ、一緒に過ごしていけばエマもすぐに分かりますよ」

ルーナさんは呆れたように呟く。


「あ、アヤトさん! 私のテントだったらいつでも来てくださいね。話したい事とかある時とか……、遠慮せずに……」

 そう口にしたルーナさんは優しい笑みを浮かべているが、少しだけ照れているようにも見えた。

「あ、ありがとうございます!」


 その姿が可愛すぎて、俺は自然とドキドキしてしまう。


(ルーナさん。まじで優しいよな! それに、俺の事をめちゃくちゃ信頼してくれているようだし。ああ、やばい! 嬉しすぎる! 流石に夜にテントに行くことはしないけど。そう言ってくれるだけで嬉しいよな)



「私も別に大丈夫ですよ。でも、ノックはちゃんとしてくださいね」

 ソフィアさんもそう言ってくれた。


「まったく、ルーナとソフィアは危機感が無さすぎるよ」

二人の様子にエマさんは一人不満気だった。


 食事を食べ終えた俺たちは、それぞれが建てたテントの中に入った。俺は一応みんなに配慮して、三人が建てたテントから少し離れた位置にテントを建てた。

テントに入る前、ルーナさんがそばに来てくれて可愛らしい笑みを浮かべ

「おやすみなさい」

って言ってくれたのがとても嬉しかった。


 俺は、布団に入ると今日一日のことを思い出した。エマさんの俺に対する態度が気がかりではあったが、ルーナさん達のパーティに入ることができた方が遥かに嬉しく、俺はとても幸せだった。


(エマさんとは少しずつ仲良くなっていけたらいいさ。男嫌いならしょうがないよな。一つや二つぐらい苦手なものは誰にでもあるし……。エマさんに安心してもらえるように、あまり近づかないようにしよう。それにしても、みんな化け物みたいな強さだったな。さすが特級冒険者だ。エマさんの言うとおり、このままじゃ足を引っ張ってしまうかも知れないよな……)


 そんなことを考えていると、だんだん眠くなってきたため俺は瞳を閉じ眠りについた。


 しかし、しばらくしてテントを「トントン」と叩く音に目を覚ました。

俺が「はい」と返事をしながら入り口を開けると、そこにはエマさんが立っていた。







 









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