ハピネス・ディストピア
APURO
第1話
太平洋に浮かぶ人工島都市クリティア。島全体の面積は大阪市程で、形は円形である。人口は約150万人。
クリティアは東京と同等の経済発展を遂げ、日本第二の経済都市と呼ばれており、数年以内には48番目の県に認定されるかもしれないと噂されている。さらに十年連続事件が起こっていないと言う俄かに信じ難い記録さえあるぐらいに治安がいい。
日本人が選ぶ住みたい都市ランキングで、断トツ一位を誇っている。まさに現代のユートピア。
クリティアは西区・南区・東区・北区・中央区の5つの区に分かれている。
西区はクリティアの玄関口で、千葉県の港と繋がる橋が三本架かっている。住民はあまり住んでいない。あるのは港と倉庫と、日本本土から仕事で来た人達が泊まる格安宿ぐらいだ。
南区はホテルやカジノや繁華街などがあるリゾート地。日本本土から来る旅行客や海外の観光客がクリティアに訪れる理由の半数以上がここである。
ホテルは5つ星ホテルが何件もあり、レストランも超一流。
繁華街は世界各国の専門料理店があり、どんな国から来ても、自国の料理が楽しめる。
カジノはラスベガスにも見劣りしないほど華やかである。さらに街の至る所で毎日ショー等が行われている。
住民は住んでいるが物価が高く富裕層しか住んでいない。
東区は居住区で、クリティアに住む人々の6割はこの区で生活を営んでいる。
クリティアにある小中高学校はこの東区しかなく、他の区で住む人達は通わなければならない。
北区は工業地帯で、工場が所狭しに建っている。
北区と東区の境には港があり、近くには廃棄場がある。衛生管理上の問題で近づかないように言われている。
中央区はクリティアの心臓部である。クリティアの99%の企業を統べるSSグループの本社が街の中央に建っており、ビルの近くには数日後、オープン予定の大型アミューズメント施設がある。
SSグループの社長の仙石総一郎は、社長でありながら、15年も市長を続けている。
仙石は市民最優先で、市民の為に様ざまな改革を行ってきた。その為、市民からの絶大な人気を誇る。まだ40歳と言う若さであるため、市民からも世界からも今後を期待されている逸材なのだ。
中央区の夜は煌びやかだ。道を照らす街灯やビルなどの建物の中から溢れる光が街を彩り、街行く人々はその光に照らされて、表情が明るく見える。
そんな人々の姿をSSグループ本社の最上階の部屋の窓から見ている男が居た。男は身長が高く、皺一つないスーツを着ており、髪型はワックスでオールバックにセットしている。
精悍な顔立ちで、苦労の多い人生を歩んできたのが分かる。この男こそがSSグループの社長であり、市長の仙石総一郎だ。
「……哀れだな」
仙石は呟いた。嘘で創られた幸せをまるで本当の幸せかのように感じて生きている者達があまりにも滑稽に見えると、言わんばかりに。
ドアをノックする音が聞こえる。
仙石は窓から視線を外し、「入れ」と部屋の外に居る者に言った。
「失礼します」
梨本利成はドアを開けて、部屋に入ってきた。
右手には何かの資料が入ったファイルを持っている。
彼はSSグループの副社長で、仙石の秘書でもある。まさしく仙石の右腕だ。
「なんだ」
「ご報告に来ました……機械人間計画の」
「そうか。進捗は」仙石は顔色を一切変えずに梨本に訊ねる。
「98%まで到達しました」
「……98%か。あとどれくらいの時間がかかる」
「2週間です」梨本は右手に持っているファイルを開けて、資料を見た。
「……わかった。またの報告を楽しみにしてるよ」仙石は不敵な笑みを浮かべた。
「はい。では」梨本はファイルを閉じて、ドアに向かおうとした。
「待ちたまえ」仙石が、梨本を呼び止める。
梨本は立ち止まり、振り返った。
「何でしょう?」
「ようやくだな。腐れきった時代をリセット出来る」仙石は、どことなく嬉しそうに見える。
「そうですね」
「すまない。呼び止めて悪かった。下がっていいぞ」
「はい。それでは失礼します」梨本は仙石に一礼し、ドアを開けて、外に出ていった。
仙石は再び窓の方に視線を送る。
「……これで新しい時代が始まる。そして、この世は本当の幸せを手に入れる」仙石は、高笑いしながら、街行く人々を見下ろした。
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