Take a short break-2

#1

 林先輩の完全なるノリで付けられた『オカバヤシホタル』改め、俺が名付けた『Flash Back』が本格的に活動し出して早3ヶ月。


 夏休みの真っ只中で課題とバンド練習に追われる俺は、何故か螢から個人的に呼び出しを食らっていた。


「すみません、先輩」

「構わないが……お前が呼び出すなんて珍しいな」


 いつもは制服のブレザーを着ている螢は私服で、爽やかな白のTシャツと細身のジーンズが良く似合っている。


「その……実は、楽曲を作る話なんですけど……」

「辞めるのか?」


 モジモジしながら話す螢の声に即答する俺に驚いたのか、螢は肩をビクつかせる。


「いえ!……そうじゃ無くて、そのキッカケを岡部先輩には会わせたいなぁ……なんて思って」

「キッカケを会わせる?……よく分からんな」

「ですよね……あの、ついて来てもらえますか?」


 かれこれ、螢の後ろを歩いて5分ぐらい経っただろうか?


 その間も螢は独り言の様に「あれっ……こっちだっけ?」や「いやここだなぁ」とブツブツ呟いている。


「どこを探してるんだ?」


 あまりの様子に見てられなくなった俺が頭を掻くと、螢はハッとした様に顔を上げて「あった!!」と叫んだ。


 その表情は今まで見た何よりも明るく、そして少し紅潮している様にも思える。


「あった……って、何が?」


 嬉しそうな螢に釣られ視線を移した俺の目には、今まで見た覚えのない杜が映り込む。


「これ……こんな場所に……?」


 その杜に見覚えは無かった。


 何度も歩いて、何度も通っている道のはずなのに、なぜこんな禍々しい場所に気付かなかったのだろう?


 ──いや……。


 確かに色々疑問はあるが、何よりこの場所を螢が案内してくる事に違和感を感じる。


「さぁ、行きましょう!」


 躊躇わずにどんどん進んでいく螢に迷いはなく、些細な枝が服に絡み、木の葉が髪に挟まっても慣れた様子で細道を進む。


「おい螢……なんのつもりだ?」


 止まる様子のない背中に声を掛けても、螢は返事をする事はなく、まるで操り人形が糸に引かれているようにも思える。


 暫くすると視界が開けた。


「ここです!」


 そこに広がったのは、古びた社だった。


 壊れかけの赤い鳥居を螢に続いてくぐり、苔の絨毯が敷かれた石畳を慎重に歩き、木製の所々が腐食して穴だらけの社の前に立つ。


 シャララン……。


 何処からともなく鈴の音が聞こえ、俺は慌てて振り返る。


「やぁ螢……久しいな」


 そこには白狐の耳と尻尾を付け、巫女の様な白装束に身を包む少女が立っている。


「あぁ」


 動じることの無い螢はその狐少女に笑い掛けると、俺を見た。


「白、紹介したい人がいるんだ……僕の仲間の岡部先輩だ」

「ほお……仲間、か」


 『白』と呼ばれた狐少女は、俺を値踏みでもするようにジロジロと眺めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る