#3
『 それがなかなか決まんねーの。』
即レスしたのは、「偽善者ニキ」こと、昴先輩。それに続いて『日本語か英語かも大事だよね。』と螢先輩が付け足す。
──この2人、よく似てるなぁ……。
真逆の性格のようだが、僕には似たもの同士に見える。2人がそれぞれ持ってないものを欲しがって引け目に感じるからこそ、等身大の自分でぶつかれない。そうやって本心を隠すから、自分も警戒して溝ができる。
もはや悪循環……このまま車輪のように回り続けたら、きっと真っ当にはいかないだろう。
『 Flash Backなんてどうだ?』
そんな事を考えながら画面を見つめる僕の液晶には、もはや相談する事なく我が道を行く岡部先輩が、相変わらずの安定感で返答する。
あの兄弟が破綻しないのは、きっと岡部先輩のお陰もあるんだろう。基本真顔で、目つきも悪い「顔面凶器」の彼であるが、ちゃんとメンバーのことをよく見て気を遣っていた。
Flash Back、か。
僕の過去を写す鏡のような先輩が提案したバンド名は、なぜか僕の中でストンと腑に落ちる。
『 いいですね!僕、それがいいでーす!』
光を取り戻す、で「flash back」。
思い出す、で「flashback」。
そして……きっとその光は、2人の名前にちなんだ「光」なんだろう。
──意外と先輩も、センスあんじゃん。
不思議と頬が緩みっぱなしの僕は玄関に置き去りになった鞄を肩にかけて自室に向かう。
簡素で物が少ない部屋の勉強机に鞄を預けると、机とセットで揃えられた椅子に座った。
『 それ、格好良いです!』
ニコリと笑う顔文字で返した螢先輩の返信は、いつもの卑屈さを思わせないほど弾んでいる。
『 僕も賛成なので決定ですね!』
間をおいて返信した昴先輩はサラッと意見を纏めて結論付けると、数秒も待たずに岡部先輩がグッドマークのスタンプを返す。
単調にして単語。
それでも不思議な心地よさを感じるその絵文字に吹き出した僕は、盛大に鳴いた腹の虫に呼ばれて、リビングのサンドイッチを取りに席を立つ。
頬張ったサンドイッチはいつも通りの味で、でも、少しだけ美味しく感じた。
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