第4話

レンタルスペアロイド専門店「マチルダ」に着いた。店先には多くのスペアロイドに精神を転送する為の機械「アザナ」が置かれている。アザナは現実世界の精神転送機と似ていて、背もたれが着いた椅子に座り、ヘルメットで精神を読み取り、スペアロイドに精神を転送する。

 俺と朱里は店の中に入った。

 店の中にもアザナが大量に置かれている。店の奥行きはかなりある。壁面には往年のフランス映画のポスターが飾られている。

「いらっしゃい」

 店の奥のレジカウンターに居る男性が言った。男性はイスラムワッチを被り、サングラスを被っている。

 ……殺し屋か。一瞬、ツッコミそうになった。

「殺し屋みたいだね」

 朱里がボソッと言った。

「俺もそう思った」

「だよね。絶対にそうだよね」

 俺と朱里はレジカウンターに向かう。

 アザナを見ると、何機かは使用とされている。きっと、目的は俺らと一緒か、観光かのどちらかだろう。

 そうこうしている内にレジカウンターに着いた。

「あのーすいません。スペアロイドを使いたいんですけど」

 朱里はレジカウンターに居る男に言った。

「何処の地域のスペアロイドがいい?」

「うーん、そうですね。フランスとドイツの国境付近に一番近い奴がいいです」

「了解。二人分でいいのかい?」

「はい。それでお願いします」

 朱里が答える。俺は頷くだけ。

「それじゃ、そこの二台を使ってくれ」

「分かりました。お金の方は?」

「二人合わせて50アクティだ」

 アクティ。仮想空間アクティメントの世界共通通貨。一アクティは日本円で換算すると、100円。ってことは一人当たり2500円。まぁまぁの値段するな。でも、普通にフランスに行くならかなり安い。

「それじゃ、後払いで。絽充はどうする?」

「俺も後払いで」

「かしこまりました。それじゃ、アカウントだけ読み取らせてくれ」

 レジカウンターの居る男はバーコードスキャナを朱里にかざした。すると、朱里の身体からバーコードが現れた。

 レジカウンターに居る男は現れたバーコードを読み取る。

「読み取った。次はそっちの兄ちゃんだ」

 レジカウンターに居る男は俺にバーコードスキャナをかざす。

 朱里と同様、俺の身体からバーコードが現れた。

 ……なんか、変な気分だ。現実ではないから仕方が無いのかもしれないが身体からバーコードが出てくるなんて気持ち悪いと思う。

「兄ちゃんも読み取った。よし、それじゃ、ストラスブールって入力してくれ」

 俺達はアザナに座り、ヘルメットを被った。

「どちらへ向かいますか」

 ヘルメットから直接脳に声が届く。

「ストラスブールへ」

「かしこまりました。動かず、そのままの状態で居てください」

 俺は指示通り、そのまま動かない。意識が遠のいていく。視界が暗くなっていく。本当にこの感覚は何回経験しても慣れない。

 

「絽充、絽充ってば」

 身体を揺らされているようだ。どんどん意識が鮮明になっていく。そして、ぼやけていた視界が綺麗になっていく。

「……スペアロイド。朱里か」

 目の前にはスペアロイドが居た。周りにも大量のスペアロイドが居る。どのスペアロイドも顔や作りが一緒だから判別できない。

「そうだよ。着いたよ。フランス」

 どうやら、現実世界のフランスに居るらしい。噓みたいだけど本当だから凄い。

 大量のスペアロイドがあるって事はスペアロイドの施設。世界中全ての国にスペアロイドの施設がある。

「そっか。マジで着いたのか。ってか、今何時だ」

「えっと、深夜4時だね」

「……マジかよ。真夜中かよ」

「うん。でも、私達長距離移動になるからスペアロイドに完全に慣れるまで2時間は必要だから。外に出るのは、6時になるね」

「そっか」

 スペアロイドに精神を転送した場合。スペアロイドに慣れるまでの時間は現実世界に距離に比例する。二本からフランスだから長距離になる。だから、2時間程は無理に動いてはならない。精神がスペアロイドに慣れない内に行動すると、自分の身体に戻った時に不具合が起きて、色々と面倒な事が起こる。2時間はスペアロイドの施設で待機しないと。

 身体が動かせないのは憂鬱だけど、こればっかりは仕方が無い。

「じゃあ、二時間待機」

「はいよ」

 俺達はスペアロイドの施設で待機する事にした。


 2時間が経過した。

 俺達は施設を後にして、フランスのストラスブールの街を歩いていた。

 まだ朝方だから人気は少ない。だから、ストラスブールの街並みをじっくりと堪能しながら歩ける。

「街並みが綺麗。1回でいいから生身の身体で来たいね」

 朱里はストラスブールの街並みを見て、言った。

「そうだな」

 ある程度を歩くと、ヨーロッパ橋が見えてきた。そして、それと同時にドイツが存在していた場所に何もないのがぼんやり見える。

「……本当にないのかな」

「ち、近づけば分かるだろ」

「そ、そうだね」

 俺たちの足取りは速くなった。

 ヨーロッパ橋のフランスとドイツの国境だった場所に着いた。

「……これって現実だよね」

「……現実だよ。信じたくねぇけど」

 目の前の光景は衝撃的だった。本当にドイツそのものが存在しない。建物も何もかも。あるのは巨大な隕石が落ちで出来たようなクレータしかない。隕石が落ちた報告はない。ある日、突然、こうなったらしい。どんな超常現象だよ。俺らの理解出来ない事が地球で起こっている。その事実だけはこの光景を見て、理解した。

「……だよね」

「そうだな」

 言葉が出ない。言葉にする事が出来ない。

「……帰ろっか。ちょっと気持ちが整理できない」

「だな。帰ろう」

 俺達はゆっくりと歩き出した。足取りは重くなった気がする。それはきっと、この衝撃の光景を目の当たりにして、ショックを受けてしまったからだろう。

 ……もし、日本がこうなったらどうする。でも、なった時には俺達は死んでいるのか。

一瞬、ゾッとした。考えるな。考えたら考えるだけ怖くなる。

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