13.
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「まず前提として知っておいて欲しいんだけどね。
その扱う当人の好みと武具の方向性で掛かる時間は全然違うんだ」
普通の武具とは違う
普通に打ち出す工程とは別の手法が必要になる。
最初に理解してほしいこととして、それを口にしたエレイオさんへ向き合いながら。
自分の中で噛み砕き、少しでも理解を深めようとしていた。
「普通の武具……っていうか、剣とかと全然違うの?」
「違うも違うね。 まー、材料からして違うっていうのはあるんだけど」
動物と《魔》。
唯一にして絶対の差がある存在達。
前者を狩るための……或いは対人向けの剣や対植物向けの片刃の武具。
日常的に触れてきたそれらと、後者専用の違いには出来るだけ早く慣れなければならない。
「一番違うのは……そうだなぁ。
作ってる間、その使い手も工房に通わなきゃいけない、ってところ?」
「使い手も?」
俺のイメージ、印象に残っている鍛冶とはまた別なのか。
繰り返し鳥のように言われたことを繰り返し。
どういうことなんだろう、と。
先程冷たい目線を浮かべていた気がするミモザもまた、同じように疑問に思っている様子。
「分かりやすく言うなら……そうだねえ。
《騎士》の武具を作る時に混ぜ込む神聖樹の枝の影響、ってことになるんだろうな」
途端にあの部屋での出来事を思い出す。
あの奇妙なようにも、立派……なようにも見えた樹の枝を?
「柄に使うとかじゃなく、混ぜ込むのか?」
「あ、少しは分かる口かな? 少年」
何故か名前でなく、奇妙な呼ばれ方。
其処まで違和感もなく、馬鹿にする感じもしないので問題はないのだけど。
「自分で作ってた訳じゃないが、それなりに付き合いはあったからな」
「だろうね。その細さだったら……有用な天恵でもなければ倒れてるとは思うよ?」
無遠慮に見つめる視線。
ただ忌避感、嫌な感じは一切しない。
相手の性格故なのか、そういう考えを一切していないからなのか。
ただ、何故だろう。
目線が上から――立場が、と言う見慣れたものではなく――の色合いも帯びている気がする。
「む~~~~!」
……多分に、その理由は。
ミモザは俺を庇おうと奇妙な体勢を取ろうとしているという今の状況。
それそのものに対し、苦笑いを浮かべられる状態という理由も含んでいそうではあるが。
「取りはしないから安心していいよ、お姫様」
そんな事を言われながら、目線を持ち上げられる。
重なる視線に、僅かな同情……或いは好意に似た色合いがあるのは気の所為か。
意識して気にしないことにして首を振る。
……多分、相手には気付かれてるんだろうなぁ。
「話を戻すけど……」
その言葉に、もぞもぞと元いたように座り込み直すミモザ。
……なんだか、この領都に来てからと言うものの。
こいつの動きが直接的と言うか、隠す気が一切無くなってる気がする。
そんな動きを見てどう思われるのか、考えるだけで頭が痛くなるような気がしないでもない。
ただ、そんな俺の悩みは他所に。
彼女は彼女なりに、噛み砕いた言葉を選びながらに説明を続けていく。
何処か手慣れた感じがするのは、以前にも行ったことがあるのだろうか。
「混ぜ込んで作り上げる影響、っていうのかな。
それで焼き上げ、灰を鉱物に取り込む関係……って言い方でいいのか分からないけど。
時間が掛かる一番の理由は、自分が望んだ通りの形になるとは限らないからさ」
え。
そんな言葉が二つ同時に溢れた気がして、その当人と二人で目線が重なった。
苦笑のような、見慣れた光景を見るような目線と顔色。
僅かに首を上下に揺らし、頷きを示しているようにも見える。
「作ってる鍛冶師と、それを振るう《騎士》。
その二人の考えてること……とか、自分で気付いてないことを踏まえて形が変わるらしいんだ。
それも、一人で作る時間が多ければ多いだけそっちに引っ張られる」
誰か……多分父親なり祖父なり、師匠に当たる人だろうか。
聞いたことをそのまま繰り返すような言動に、僅かな明るさを声色に混じえて。
ころころと変わる印象に、俺自身の認識も同様に移り変わっていく。
それを認識できている俺自身を、外から見ているような気がする。
そんな「
「らしい?」
「まだ
思わず漏れた疑問。
聞かれ慣れているのか、それとも常に考えているからなのか。
間を置くこともなく返った言葉にこそ、更に疑問が連なる。
「でも、そういった事情は知ってるのか」
「そりゃあそうさ。
爺ちゃん……ああ、さっき奥に引っ込んでいった人ね。
その人から直接、徹底的に叩き込まれ続けてたからだよ」
そんなことを口にしながら、彼女が向けた目線の先は壁沿い。
部屋に入る時に少しだけ気になった、見世物のように掲げられた武具。
「なら、あの武具も専用武具なのか?」
「あ、分かる?」
そうそう、と。
壁に掛かっていた、古ぼけた片手用の槌を改めて指差す。
握り手の辺りが多少黒ずんだ、俺の指先から肩くらいまでの長さの槌。
熱源から離して飾ってあるのもまた奇妙な話。
そして同時に、不可思議な気配を漂わせ続けている何かが違う武具。
例えるならば、そう。
何かを吸って、吐いているような――――生物のような気配を漂わせている気がする。
「あれ、爺ちゃんの専用武具。 一番手に馴染んでた形として作ろうとしたんだって」
「爺ちゃんの、って」
やや自慢げに告げる言葉。
その言葉が指す意味合いは一つしか無い。
「先代の《領主》様の騎士団、その《騎士》にして専属鍛冶師だよ、爺ちゃんは。
その縁でシャガさんとは長く付き合いがあって、今も手入れとか色々仕事してるんだけどさ」
どれくらい古参なのか、という断片を今初めて知った。
けれど今はそうじゃない。
新たに知るべき知識はまた別にある。
「……待って。 《騎士》って、スイくんとかシャガさんみたいな人ばっかりじゃないの?」
少なくとも俺もそう思ってた事。
ぷるぷると少し震えた後、真面目そうな目で見つめるミモザ。
きょとんとした表情を浮かべた後、当たり前のことを告げるように。
或いは幾度も説明を繰り返してきた事特有の、口の動きが目の前に映る。
「戦士……って言えば良いのかな?
専ら《魔》を狩る戦闘職、狩人ばっかりにする場合もあったって聞くけどさ」
当たり前のことを知らない俺達。
その知識を当然に持つエレイオさん。
故に、出る言葉は俺達には未知で、彼女にとっては既知の知識。
「至極当然のことだけどさ。
戦場に出た時に長期間手入れもできなかったら簡単に折れるだろ?」
思わず頷いてしまっていた。
それは……まあ、そうだ。
山から戻った時、獲物を狩った時、そうでなくとも天候が悪い時。
必ず手入れをするのは当然のことで、何方の役割を上とも下とも考えたことさえ無かった。
「だから、その辺りの……補助要員、って呼ばれ方も嫌いなんだけど……。
まあ、そんな感じの役割? をアタシも目指してたってとこかな」
零す言葉は、何処か叶わない夢を語るようで。
目線だけは、冷たい現実を見据え続けるようで。
口調と、何処か軽さを持った言葉とは裏腹な彼女の在り方。
そんな二面性を持った彼女へと言葉を投げようとして。
「おい、ユズリ!」
奥から聞こえたのは、見知らぬ嗄れた叫び声。
「何だよ爺ちゃん!」
「其処の二人も連れて来っちゃ来い!」
返す言葉も叫び声で、思わず耳を塞いでしまう。
けれど漏れ聞こえる言葉は、俺達二人も示したモノで。
そのままの恰好で、目の前の女性と顔を見合わせ。
服を僅かに引くミモザが涙目になっているのに気付いたのは、その直後のことだった。
片翼の騎士、君と共に 氷桜 @ice3136
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