第7話

18時55分。真昼のように明るい。時間感覚が狂いそうだ。

 俺とエマとリゲルさんは街の中央に聳え立つ時計台の屋上に居た。

 街の景色が見える。そして、この街の外の風景。どこまでも続くと思えてしまう砂漠も見える。

 屋上の中央には大型の投影機が設置されている。投影機のレンズは上を向いている。

 リゲルさんは投影機の電源スイッチを押した。投影機は起動音を鳴らして、起動した。

 リゲルさんはズボンのポケットから小型タブレットを取り出し、画面をタッチする。すると、遮光板が自動で街を覆っている断熱板の一層目と二層目の間に敷き詰められる。

 1分も経たないうちに明るかった空が夜空に姿を変えた。真っ黒な闇の世界。

「……凄い」

 言葉を失ってしまった。外界の光が街に差しこんでいない。それは一寸の狂いもなく遮光板が敷き詰められていると言う事。恐るべき技術。この技術は真似するのは難しいだろう。

「すんご……すんごいよ」

 エマは飛び跳ねている。

「……キウ」

 キッキは驚いたのだろう。ネックレスの姿のまま鳴いてしまった。

「そうだな」

 街の建物に明かりが点き始め、眼下には夜景が広がっている。これだけでも充分に綺麗だ。

「じゃあ、投影しますね」

 リゲルさんは作業着の胸ポケットからメモリーカードを取り出して、投影機の差込口に差した。その後、投影機に付いているキーボードを操作した。

 投影機の光が夜空に向かって放たれる。

 真っ黒だった夜空に次々と様々な色の星が写し出されて、瞬く間に美しい夜空になった。

 自分が住む世界で見る夜空とは違った美しさがある。なんだか、夜空が温かく感じる。実際は温かくないはずなのに。けど、温もりがある。それは夜飾師が描いた星達に込めた思いを感じているのかもしれない。

「どうです?」

 リゲルさんが訊ねて来た。

「……美しいです。本当に……すいません。素敵なものを見ると言葉が出ないですね」

「ハハハ、最高のお言葉ですね。ありがとうございます」

「……はい。本当に美しいです」

 ずっと、この夜空を見てられる気がする。そして、こんな素晴らしい夜空を見ているこの街の人々が羨ましく思った。

「エマちゃん、君が描いた絵が星座になってるよ」

「え、どこ?」

「あそこだよ」

 リゲルさんは夜空を指差した。指差した場所の星と星を線で繋げるように見ると、エマが描いたキッキの絵だった。

「本当だ。キッキだ。すごいー」

 エマはとても嬉しそうだ。この想い出は一生心に残るだろう。

「キウ」

 キッキはもう自分がどんな姿で居るかを忘れて鳴いている。とにかく嬉しいに違いない。自分が夜空で星として煌いているのだから。

 眼下に目を向ける。

 街の人々は建物から出て、夜空を眺めている。

 星座を指差している人、その星座を探している人、夜空を寄り添い合って見ているカップル、親に肩車してもらって夜空を見ている子供、大勢の人達が夜飾師の作った夜空に心奪われているのだ。その光景は夜空に匹敵する程に美しい。

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