ファンタジー・リポート

APURO

第1話

別界(べっかい)。自分達が住む世界とは違う世界の事。別界はそれぞれ独自の発展を遂げていて、法律も生態系も生活様式も何もかもが違う。

 ドラゴンが生息している世界、想像した物をそのまま具現化出来る世界、記憶を保存できる世界、他にもたくさんの世界が存在する。

 俺の仕事は別界に行き、その世界にしかない職業や生活などを取材する記者。ここ最近は自分が生まれた世界に居る時間より、別界に居る時間の方が長い気がする。職業的に仕方ないが。

 切符を買う為にモンドノット駅の切符売り場に居る。別界の切符だけは切符販売機では買えない事になっている。理由は簡単。別界に不法入界させない為。もし、不法入界(ふほうにゅうかい)すれば罰を受ける。それぞれの世界を守る為だ。

 俺の前に居る人が切符を購入し終え、俺の番になった。

「いらっしゃいませ。どうなされましたか?」

 透明な強化ガラスの向こう側で座っている駅員が笑顔で訊ねてきた。

「マーレンナハトのポラルン駅に行きたいんですが」

「マーレンナハトのポラルン駅ですね。一番早い時刻の便は10時50分になります」

 一時間半後か。どこかで時間を潰さないといけないな。まぁ、どうせあいつらの相手をしていたらすぐに時間は経つだろうが。

「じゃあ、それで」

「かしこまりました。それでは10時50分発ですね。何名様乗車なされますか?」

「えーっと、大人一人、子供一人、動物一匹で」

「はい。座席の指定はありますか?」

「いえ、特に」

「それでは三枚で3500ミレアです」

 俺はボストンバックから財布を取り出し、財布の中から1000ミレア札三枚と500ミレア硬貨を一枚手に取り、トレイの上に置いた。

「3500ミレア丁度お預かりします」

 駅員はトレイの上のお金を手に取った。そして、発券機で切符を発券した。

「それでは大人一枚、子供一枚、動物一枚とレシートになります」

 駅員は発券した切符三枚とレシートをトレイの上に置いた。

「ありがとうございます」

 俺は駅員に軽く会釈をした。その後、入り口に向かいながら、切符三枚とレシート一枚を手に取り、財布に入れ、その財布をボストンバックの中に入れた。

 自動ドアが開く。

 俺は切符売り場から出て、ベンチの方に視線を向けた。ベンチには緋色の短髪の少女が座っていた。どうやら、今回はちゃんと言う事を聞いてくれたみたいだ。

「おい、エマ」

 ベンチに座っている少女は俺の声に反応し、振り向いた。

 名前はエマ。年齢は5歳。実の子供のように育てているが俺の子供ではない。

 5年前、まだ俺が国際警察だった時にとある事件で赤ん坊のエマと出会った。エマの両親は今だ行方不明。いや、親が誰かも分かっていない。そのせいで身寄りが誰も居なかった。だから、俺が引き取った。可哀想だと思って引き取ったわけではない。この子と居たい。この子の成長する姿がみたいと思ったのだ。

「ジェード」

 エマはベンチから立ち上がり、横に置いていたリュックを背負い、テクテクと俺のもとへ駆け寄って来る。

「おーそーい」

 エマは頬を膨らませている。

「悪かった」

 俺はエマの頭を撫でた。

「キッキもおそいって言ってる」

 エマが巻いているマフラーが肩に乗るサイズの狐に姿を変え、エマの右肩に乗った。

「キーキー」

「キッキも悪かった」

 キッキはこの世に数十匹しか居ないと言われているメタモルフォックスの一匹。どんな姿にもどんな硬さにも変化する事が出来ると言う稀有の能力を持っている狐。

 普通なら保護の為に施設に連れていかれる。しかし、発見された時、赤ん坊のエマを守るように傍に居た。そして、エマから離れようとしなかった。だから、エマとキッキを引き離すのは可哀想と思った国際警察の上層部が特例でキッキを保護しないでいる。

「ゆるしてあげなーい」

「じゃあ、どうしたら許してくれるんだ」

「いうこときいてくれたらゆるす」

「……分かったよ。何をしたらいいんだ?」

「あっちにつれてって」

 エマは街の方を指差した。

「街に連れて行けばいいんだな」

 エマは頷いた。

「じゃあ、行こう」

「やったー。キッキ、行くよ」

「キー」

 エマは走り出した。そして、キッキはロボットのストラップに形を変えてリュックに張り付いている。

「おい、ちょっと待て」

 俺はエマのあとを追う。

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