第9話
終業式を終えて、自宅に着いた。
昨日の晩、旅行用鞄に服などの生活に必要な物を入れた。
あとは今日学校で渡された宿題をリュックに入れるだけだ。
リビングに行き、学校用のリュックをソファに置く。そして、キッチンに行って、冷蔵庫を開けて、キンキンに冷えているコーラーの200ミリリットル缶を手に取り、封を開けて、飲む。
乾いた身体に冷たいコーラがよく染みる。本当に上手い。
飲み終えたコーラの缶を捨て、持って行くリュックに宿題を入れて、洗面所に向かう。
服を全部脱いで、浴室に入り、シャワーを浴びて、身体中のべたついた汗を洗い流す。
――全ての準備を終えた。フギンが迎えに来るまでソファで待機している。
インターホンの音が聞こえる。
僕は玄関に行き、ドアを開く。外にはフギンが立っていた。そして、その奥には黒色のリムジンが停車している。
「お迎えに来ました」
「はい。荷物を持って来るのでちょっと待ってください」
リビングに戻り、宿題などが入ったリュックを背負い、旅行用鞄を手に持つ。そして、玄関に行き、靴を履いて、外に出る。その後、外から鍵で施錠をする。
「お待たせしました」
「それではお乗りください」
「はい」
幸い近所の人達がいない。ほんの少しだけだがホッとした。
僕はリムジンの後部座席に乗る。ドアは自動で閉まった。
背負っているリュックと持っている旅行用鞄を床に置いた。
「出発します」
フギンは助手席から言った。
「はい。どうぞ」
リムジンが動き始めた。
これから約一ヶ月の僕の頑張り次第で人間界が滅亡するか、何もない当たり前の日常が続くかが決まる。気合を入れろ、僕。精神論はあんまり好きじゃないけど気合を入れるんだ。
僕は頬を両手で思いっきり叩いた。
あー痛い。でも、なんだか気合が入った気はする。
――数十分程が経った。
今回も外を見るのは禁止のせいで、する事がスマホをいじる事ぐらい。本当に暇だ。早く着いてくれないか。あ、圏外になった。
リムジンが停車した。
「着きましたよ」
フギンが助手席から言ってきた。
「そうですか」
やっとだ。やっと着いた。そして、これから僕は必死に頑張らないといけない。
後部座席側のドアが開いた。リュックを背負って、旅行用鞄を手に持ち、リムジンから降りた。
周りを見渡す。どうやら、ここは魔王城の地下駐車場のようだ。他にもリムジンが数台停まっている。
「早速ですが、レッスンスタジオに向かってもらいます」
「ど、どこにあるんです」
二ウムヘルデンに来て、いきなりですか。まぁまぁ、ハードスケジュールだな。
「この魔王城にございます」
「そうですか」
「魔法で移動します」
「ま、魔法で移動」
「はい。荷物はそこに置いてください」
「荷物は魔法で運んでくれないんですか」
「いえ、荷物は人力です」
「それは人力なんだ」
なんかちょっと残念だ。人間が運べるなら、荷物も運べるだろう。普通に考えて。何かめんどうな事でもあるのだろうか。知りたい。でも、今聞くべきではないな。
「物の移動魔法はエネルギーの消耗が激しいので」
「そうなんですか」
教えてくれたぞ。普通に聞いてよかったのかもしれない。
「はい。お前達来なさい」
フギンは指を鳴らした。すると、一瞬にして、僕らの周りにサングラスかけたスーツ姿の大柄の男達が現れた。きっと、この人達も、魔族か何かなのだろう。
この状況にあまり驚かなくなった自分が少し怖くなった。慣れって怖いな。
「なんでしょうか。フギン様」
スーツ姿の男が訊ねた。
「その方の荷物を客室に運べ。丁重にな。キアラ様のマネージャーだ」
「は、はい。畏まりました」
なんだろうか。このVIP待遇は。僕は芸能人じゃないんだぞ。はっきり言うと、この扱いは辞めてほしい。でも、言わない方が上手く事が進むのだろう。我慢だ、我慢。
「それでは私がそちらの鞄を」
「では私が背負っているリュックを」
「あ、すいません。よろしくお願いします」
僕は男達に背負っていたリュックと手に持っていた旅行用鞄を手渡した。
男達は僕のリュックと旅行鞄を数百万円する壺のように慎重に運んでいる。
その姿を見て、心が少し痛い。そんな、大切なもの何も入ってないよ。なんか、申し訳ない。ごめんなさい。
「では行きますよ。私の傍に来てください」
「は、はい」
僕はフギンの隣に行く。
「ス・ヴァレ」
フギンは言った。すると、僕らの真下に魔法陣が現れた。そして、数秒も経たない内に僕らを光が包みこんだ。
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