第21話 本当の気持ち

 ……けど、しんみりするのは坂木家には似合わない!


 って考えたのはどうやら俺だけじゃなかったみたいでさ。あの後は、全員が二人を構い倒したんだ。


 父さんと爺ちゃんは移動中の態度を謝りつつ酒を飲み交わし、母さんは二人に好みを聞いて料理を追加したり、俺と凛は場を盛り上げる為に歌ったり踊ったりしていた。


 坂木家が好きな曲オンパレードだったけどさ。でも1番盛り上がったのはコレ。


 家族全員で爺ちゃんの好きな時代劇俳優がサンバを踊りながら歌う曲を歌ったら、これがまた楽しかった。源も俺達の周りを楽しそうに回っていたし。


 で、家族で笑って心から楽しんでいると、楽しいって伝染するんだよな。


 家族全員で笑って本当に楽しんでいたから……二人が涙を流し、手で顔を覆っているのに気付くのが遅くなった。


 母さんが1番に気付き、二人に冷やしたタオルを渡した事で俺達全員の笑い声がピタッと止まった時、まだ声の出せるヤレンさんが謝ってきたんだ。


「す、済ま、ない……だが、どうし、ても、涙が、止まら、ない……!」


 ディグレンさんはその言葉で更に言葉が詰まったようだった。


 だから、ここからは母さんや父さんや爺ちゃんが優しく聞き出した事をまとめたいと思う。


 二人は、心から楽しく笑っている俺達家族に、村で貧しくも助け合って笑っていた仲間の事を思い出したらしい。


 だからこそ、自分達だけがこんな恵まれた状況にいるのが辛く申し訳なく感じてしまったんだ。


 ……まさか、楽しく笑いあう姿が二人を追い詰めていたとは思わなかったからなぁ。


 そして、ディグレンさんも途切れ途切れになりながら教えてくれた言葉には、気になる言葉があった。


「村で、珍しい種族も、一緒に、暮らし、ていた……だが、彼らは、俺達に、頼る、事なく……慎ましく、暮らしていた、んだ」


 ……なんとなく、ジャンさん達の事だろうと、思った。


 そして、それはやはりジャンさん達の事で——ディグレンさんはなんとかこちらに溶け込んでもらおうと接触を図っていたらしい。


 だけど、頼ってもらおうと思って言った言葉が、全部ジャンさん達にとっては嫌味に取られ、嫌われているのはわかっていたみたいだな。


 ディグレンさん、不器用すぎだろう……!


 それもわかっていて、ヤレンさんはフォローに回っていたらしい。何より、ヤレンさん自身がそんなディグレンさんに助けられた一人らしい。


「コイツは……不器用だが一度決めたら諦めないし、仲間だと思ったら絶対に裏切らない。馬鹿がつくほど、頑固な奴なんだ」


 少し落ち着いたヤレンさんがゆっくり語りだす。


「そうして過ごしていると、あの事件が早朝の俺達の村で起こった。ある貴族が率いてきた兵士達による獣人狩りが始まったんだ」


 思い出すのも辛い事を語っているんだろう。言葉一つ一つに強い思いが籠っているのがわかる。


「長閑な村の朝が、悲鳴と助けを呼ぶ声で溢れかえっていった……戦える者は戦ったが、家族を仲間を盾に取られて思うように戦えないまま、傷つけられ、捉えられていく。


 何より奴らの狙いは赤犬獣人だった。希少な彼らは常に狙われてきた。だから、今回も彼らが招いた襲撃だと、俺は思った。


 俺自身は、銀狼種の戦闘能力の高さと独り身であった事から最後まで抵抗できたが、気がかりだったのは頑固な幼馴染だ。


 そして抵抗していると、幼馴染が貴族に捕まった、と言う話が聞こえてきた。


 ある種の疑念を抱き、隠れて貴族が居るであろう場所へと向かうと、血まみれのディグレンを鞭で打ち続けるでっぷりとした貴族がいた。


 奴が声高く叫んでいた言葉は忘れられない。


『赤犬どもの場所を吐け!そうしたらお前だけでも助けてやろう!』


 散々鞭を打っておきながら助けるだと?仲間を守る銀狼種に仲間を売れだと?


 村人だった獣人達もディグレンを助ける為に家の場所を教えたが、赤犬の彼らは既にその場には居なかったらしい。


 俺はディグレンとよく一緒に行動していたから、彼らが逃げそうな場所に見当がついた。


 ……だから俺は、ディグレンを助ける為に彼らの情報を売った。出来るならそのままそこに居ないでくれ、と願いながら……!!!」


 最後の言葉を俺達に伝える時のヤレンさんの声は、悲痛と言う言葉そのものだった……


 ————仕方がない状況だってある。


 やっぱりジャンさん達は凄え……!冷静に状況を受け入れていたんだ。


 落ち着いたジャンさんの声を思い出しながら聞いていると、どうやらその後、ヤレンさんはちょっとの隙をついて貴族に傷を負わせ、ディグレンさんを素早く背負って全力で原始の森へ逃げたらしい。


 ヤレンさん曰く、自分達が見過ごされた理由は、貴族の喚き声と兵士らしき人達がジャンさん達の捕縛に動き出していた為に後手に回った事。


 更に、原始の森に死にに行ったのだろうと思われた事も可能性としてある、って言ってたけど。


 でもヤレンさんは諦めなかったんだ。


 それが、森に逃げた後でさえ血の匂いに誘われて魔物に追われ、ディグレンさんは熱にうなされ日に日に具合が悪化しても、その日のうちに村の方向の空が赤く染まっているの目にしたとしても———


 気を抜く事なく耐えて耐えて耐え抜いて、ようやくポーションを持っている父さん達を見つけたそうだ。


 ……俺は、ここまで話を息を止めていたように聞いていたらしい。父さん達が話に出てきて、初めて息を吐いたのだから。


 それでも、よくディグレンさんが生き延びたな?って疑問に思うだろ?


 どうやら、ヤレンさんの能力は【遠見】と【初級治癒】だったらしい。治癒といっても俺の能力とは違い、現状より少し回復する、というもの。


 毎日少しずつ自分とディグレンさんに治癒魔法をかけつつ、必死に生きていたらしいんだ。


 だからこそ驚いた、と言われたよ。俺のポーションの威力が凄すぎて。


「助かった……!と思ったと同時に、俺は一体誰に助けを求めたんだろう、と内心青ざめていたんだ」


 ヤレンさんはそう言って、初めて俺達に向かって表情を柔らかくしたんだ。ディグレンさんもそれは横で同意してたな。


 まあ、俺達のチートさは今に始まった事じゃないけどさ。


 それよりも、今聞いておきたいのが、ヤレンさんとディグレンさんの気持ちだ。


 「……それで、仲間達の事や赤犬一家の事を思えばこそ、この家にいる事は出来ない、と思っているのかい?」


 そこは、流石父さん。家族代表で二人に切り込んでくれた。


「俺は……図々しいかもしれないが、この場所を頼りたい。そして準備が出来次第、赤犬一家を救いに行きたいと思っていた」


 そう言い切ったのはヤレンさん。


「俺も同意見だ。今度こそ俺が助けに行きたい。そして……出来たら此処に連れ戻ってきたい、と思った」


 後半を少し遠慮がちに言ったのはディグレンさん。


 ……やっぱり、助けに行こうとしていたんだ。


 そう思って思わず凛の顔を見たら、凛もまた嬉しそうに頷き返してきた。母さんは笑顔だし、爺ちゃんは「ほう」と何やら嬉しそうに腕を組んでる。


「なら、ヤレンとディグレンはジャン達を迎えに行くつもりがあるんだな?」


 父さんだけは表情を変えずに再度二人に確認をとっている。すると、驚いた表情になる二人。


 当然だろうな。だって二人はジャンさん達名前を言っていないんだから。


「なぜ……?っ!!」「まさか……!!」


 戸惑いながらも、一つの可能性を思いついた二人。


「よし。なら、二人共ついて来い」


 どうやら父さんはジャンさん達と引き会わせるつもりらしい。


 まあ、ヤレンさん自身が言ったからなぁ。ジャンさんの希望通りだし、良いタイミングだよな。


 スタスタと歩きだす父さんに、ガタッと席を立って慌ててついて行く二人だったけど。反応はディグレンさんよりヤレンさんの方が早かった。


 ……それだけ気に掛かっていたんだろうなぁ。


 なんて思うと、俺も感動のご対面の場面を見たかった。そう思っていたのは凛もだったらしい。


「様子、見に行って良いかな?」なんて母さんに聞いていたけど、母さんは苦笑しながら首を振っていた。


「気持ちはわかるけど、こういう場合に部外者は邪魔なものよ。それにね、どんな反応だったかはすぐに分かるわ」


 にっこり笑って「それまで片付けておきましょう」という母さんの指示に従いながらも、俺と凛は首を傾げていた。


 でもしばらくして、どういう意味かは本当にすぐわかったんだ。


「遥あああああああ!」


 バタバタと足音が聞こえてバタンっと扉が開いたと思ったら、母さんに号泣しながら駆け寄って行く父さん。


「駄目なんだってぇええ!俺にあんな場面見せたらああああ!」


 ………これか!母さん!


 母さんに目で確認すると、にっこり笑って父さんを慰めていた母さん。爺ちゃんに至っては「涙もろいのも治らんなぁ」なんてかっかっか!と笑ってる。


 どうやらジャンさん達の家では、俺達が予想していた展開が繰り広げられているらしい。


 父さんの予想では「二人は今日はこっちに帰ってこないだろう」との事。


 俺はやっぱりそんな感動場面を見れなかった事が残念だったけど……


 ただ今度あの歌を歌う時には、涙を流さずに一緒に歌ってくれたら良いな、と凛と語りあったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る