第17話 源、頑張る!

 はあああああ!?


 ジャンさん、何つーもの背負ってんだよ!俺なら絶対恨むね!仲間の為に俺を売る奴なんか、クソ喰らえだ!


 だって、本当の仲間ってどんな状況になっても裏切らない存在だろう!?だからジャンさん達にとっては、ディグレンさんだけが本当の仲間だったって事だろう!?


 そんなん、絶対なんとかするに決まってんじゃん!


 つーか、本当にディグレンさんって事切れたのか?……こう言っちゃなんだけど、ディグレンさんにとっては助けてくれた仲間が居たって事だよなぁ。


 って事は、だ。


 ディグレンさんが生きている可能性はゼロではないって事だろ?


 まあ……俺からすると、ジャンさんを売った奴を許すつもりは無いけどな!

 

「あのね?凛、思ったんだけど……トーニャちゃん何処行ったの?」


 なんて思っていた俺と同じく何かを考えていた母さんが沈黙する中、キョロキョロと辺りを見回す凛の言葉に全員がハッと気付く。


「ちょっと待て……!源も居ねえ!」


「そんな!さっきまで確かに私の横で寝ていたのに!」


 俺が源も居ない事に気付くと、ケイトさんが真っ青な表情になって自分を責め始めたんだ。


「トーニャ!」


 何かを感じたのかバッと立ち上がり、勢いよくリビングから駆け出して行ったジャンさん。


 母さんはケイトさんを慰めているし、俺もジャンさんの後に続いてリビングから駆け出したんだけど……


 くっそお!ジャンさん、速ぇ……!


 既に姿が見えなくなっていたジャンさんに追いつけない自分にもどかしく感じながらも外に出ると、一足早く拠点から畑に出ていた凛が俺に駆け寄ってきたんだ。


 「どうしよう、お兄ちゃん!畑や果樹畑にも姿がないの!」


 「凛!ジャンさんは見なかったのか?」


 「こっちには来なかったよ?」


 って事は、まっすぐドームの外に出たか?いや、もしかしたら自分の家に戻ったかもしれない……!


「凛!ジャンさん家に行くぞ!」


「うん!」


 畑を通り過ぎてジャンさんの家の扉を叩くと、バタバタと足音が近づき扉が開く。


「駄目だ!此処にも居ない!」


 焦った表情で扉を開けたジャンさんの言葉に、俺達も顔を見合わせる。すると……


「……トーニャちゃん、外に出たかも」


 何かを思い出した凛が、1番最悪な予想を口にしたんだ。


 外に出た?怖がりトーニャが?……って待てよ?拠点のリビングにあの本あったよな……?


「凛……もしかしてあの絵本読んで聞かせたのか?」


「……うん。だってトーニャちゃんが目をワクワクさせて聞くんだもん」


 俺と凛が話しているのは、どうぶつ島に囚われの小さな竜を助け出しに行く小さな少年の話。これは凛が大好きな絵本なんだ。


 だから凛は自宅からこの本を持って来て、トーニャにわかるように読み聞かせていたんだ。


 その話を聞いているトーニャは、耳がピンっとなって尻尾がブンブン左右に揺れるほど熱中して聞いていた。


「……なあ、凛。今日さ、トーニャのお気に入りのバック持ってたか覚えているか?」

 

「持ってた!アレにお菓子入れてあげたもん!」


 ……ヤバい!マジで、トーニャ外に出たぞ!


「ジャンさん!剣を持って来て!凛、お前に魔力感知を付与する!トーニャと源の魔力を探してくれ!絶対一緒にいるぞ!」


 俺の言葉を聞いて直ぐ、家の中に戻るジャンさん。俺は凛に付与をかけると、凛は地面に手を置いて目を閉じる。


「お願い……!見つかって!」


 どうやら凛は俺の意図を汲んで、植物を伝って魔力感知を始めたらしい。集中して動かなくなった凛を内心焦りながらも見つめる事数秒後——


「見つけた!」


 顔をバッと上げて俺に喜びの表情を見せた凛だったけど、すぐに表情が変わり焦った様子で俺に最悪な状況を伝えてきたんだ。


「大変!お兄ちゃん!トーニャちゃんの近くにいデカい魔物が数匹居るの!!」


「!!」


 凛の言葉を聞いて息を呑むジャンさん。すぐに駆け出そうとするけど、そこは感知能力が鋭くなった凛が気付く方が早かった。


「ジャンさん!トーニャちゃんのいる方向分からないでしょ!お兄ちゃんに感知能力付与して貰って!お兄ちゃんは凛に感覚同調付与かけて!」


 真剣な表情の凛の指示に、俺がすかさず感知能力付与をジャンさんにかけると……すぐにトーニャの位置がわかったのか駆け出したジャンさん。


「お兄ちゃん、急いで!」


 一瞬、ジャンさんの様子に気を取られた俺。凛に言われてハッと気付き、感覚同調付与をかけると……俺の目の前に俺が居るという不思議な現象が頭の中に浮かび上がる。


 そっか……!凛は、俺の為に感覚同調付与をかけてくれたんだな……!


「凛、ごめん!トーニャと源を頼む!」


「お兄ちゃん、適材適所でしょ?」


 俺が力になれずに謝ると、なんとも頼もしい言葉を残して駆け出して行った凛。


全く……!俺の妹は兄思いなんだよなぁ。


 凛の優しさに感謝しつつも目を閉じ、凛の視覚に意識を集中すると……凛が外に出た途端に木の根が伸び、凛を乗せて地面を凄い速さで進んで行くのが見えたんだ。


 うおお!凛の奴、こんな事も出来たのか!!


 改めて凛の能力の高さに驚きつつ、木々が道を作って行く様を見ていると、ジャンさんの後ろ姿を捉える事が出来たようだ。


だが、その直後に見えた状況に俺は息を呑む。


「トーニャ!逃げろおおお!」


 思わず叫ぶ俺の頭の中には、恐怖で身体を硬直させているトーニャに襲いかかろうとしているデカい熊の魔物の姿が映し出される。


 その様子にジャンさんも凛も速度を上げるが、どうあっても間に合いそうにない……!


 俺が「やめろおおお!」と叫び声を上げる中、熊の魔物に飛びかかる小さな影。


『源ちゃん!!!』


 凛の声が俺に届いたと思うと『グオオオオオオオオ!』と叫び声を上げて熊の魔物が弾かれたんだ!


 何が起こった!?と俺が意識を集中させると、トーニャを庇うように唸り声を上げる源の姿があったんだ。


『ウ“ゥ”ゥ“ゥ”〜!ワワワワン!!』


 すると……源が吠えた数だけ土の矢が空中に現れ、凄い速さで熊の魔物に向かって飛んで行くのが見えたんだ!


「源!お前、攻撃魔法使えたのか!!!」


 俺が源の攻撃に驚いている間に、ジャンさんが熊の魔物に向かって魔力を込めた一閃を放っていたらしい。


『ギャオウッ』と熊の魔物の叫び声が聞こえてきたものの、凛の視界では泣いているトーニャのドアップしか映ってなかったからな。


 『うああああああん!』


 凛の顔が見えた途端に安心したのか凛に抱きつき泣き声を上げるトーニャ。凛の視界もぼやけているから一緒に泣いているんだろうなぁ。


『クウン……!』と甘えた声を出して、源も凛に擦り寄ってきたらしい。『源ちゃあああん!!』とトーニャと一緒に源を抱きしめる凛。


——そこからは、しばらく凛とトーニャの泣き声を聞いていたなぁ……


 その間、ジャンさんが近づいてきた魔物を倒していたらしいけど……無事に合流して拠点に戻って来たジャンさんが言った言葉に驚いた。


「トーニャの周りには、源が倒したであろうジャイアントキラーベアが二体横たわっていたぞ」


 ジャンさんも信じられない表情をしてたけど、もっと信じられなくて「は?」と聞き返してしまった俺。


……源、お前俺より強いじゃねえか……


 なんか負けた感が強かったが、ヘッヘッヘと俺の足元でお座りしている源が相変わらず可愛くて思いっきり撫で回したさ!


 源には母さんからも感謝のハグとご褒美が与えられて、今は満足そうにソファーの上で泣き疲れたトーニャと丸くなって寝ているけど……


「トーニャは俺を助けてくれたディーを、今度は自分が助けに行こうと思ったらしい」


 既にトーニャに叱った後だったけどさ。親としては息子のその思いが嬉しかったんだろうなぁ。


 優しい表情で寝ているトーニャの頭を撫でるジャンさん。ケイトさんは「ありがとう」って涙を流して源を撫でていたよ。


 ……んっとに、この一人と一匹の大冒険のおかげでヒヤヒヤさせられたけどさ。


 どうやら、同じ時刻にハラハラと心配をしていたらしい父さんと爺ちゃん。


 母さんが俺達が全員戻ってくるまでの間に、ジャンさんの思いを父さん達にも伝えてくれたらしい。おかげで、父さん達はメールをした場所から動けなかったってさ。


 全員無事の報告を受けて、ようやく安心して移動を始めたみたいなんだけど。


 まさか、今度は父さん達の方で事件が起こるとはなぁ……

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