第20話

一人取り残された王女は、何か菓子を食べさせたいと考えた。


タンが、割と甘い物好きであると知っていたからだ。


そこで王女は、自分で菓子を作ることを思いついた。


これまで、王女自身が何かをタンに作ったことはない。


だから、好いた相手に作ってやりたいと思った。


今はお付きのユ尚宮もいないし、水剌間に行き手伝ってもらおうか。


薬菓はいつもユ尚宮が持ってきてくれるが、手伝ってもらえば自分にも作れるはずだ。


そう思考を巡らせた王女は、共もつけずに足取り軽く水剌間に向かった。


到着した水剌間では女官たちが、珍しい王女の登場に一様に目を丸くする。


「王女様!」


女官たちを束ねる尚宮が、焦ったように声をかけてきた。


なぜここに来たのだ?という気持ちがうかがえる。


「今日はどの様なご要件でしょうか」


「薬菓を作りたいの」


「え、王女様がですか?それでしたら、こちらでご用意いたしますが……」


「いいえ、いいの。私が自分で作りたいのよ。手伝ってくれないかしら」


王女が笑顔を向けると、尚宮は困ったような顔をした。


「しかしながら……」


尚宮が言いたいことは分かる。


王女に菓子作りをさせたと知られれば、国王に咎められると思っているに違いない。


「心配しなくて大丈夫よ。お願い、薬菓の作り方を教えて?」


屈託のない笑顔で言われた尚宮は、逡巡した末に頷いた。


「承知いたしました。私が作り方をお教えいたします」


尚宮の言葉を聞いた王女は、胸を撫で下ろした。


それから王女は、尚宮の指導の元で薬菓作りに励んだ。


意外にも手が器用な王女は、初めてながらも手際よく愛する者のための菓子を完成させた。


王女としても、思いの外よくできたと思う。


「王女様、とてもお上手でございます」


「そうかしら。そなたの教え方が上手だったからよ」


王女の言葉に、尚宮はうやうやしく頭を下げる。


「恐れ入ります、王女様」


「これはいただいてくわね。今日はありがとう。おかげで助かったわ」


そう言い残すと、王女は出来上がった薬菓を持ち水剌間を後にした。

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