第14章:彼女が目を逸らせなかった星
ミユはアラームが鳴る前に目を覚ました。
しばらくの間、彼女は動かなかった。部屋には扇風機の低く不規則な唸り音が響き、ブラインドの隙間から淡い朝の光が差し込んでいた。体はまだ眠りから完全に戻っていないように重かったが、心はすでに目覚め、落ち着かずにいた。
視線がベッドサイドのテーブルへと流れる。
そこには小さな箱が置かれていた。何の変哲もないその箱は、光をわずかに反射して、それが現実だと彼女に思い出させる。思った以上に長く、ミユはそれを見つめていた。開けなかった。触れもしなかった。ただ、そこにあると知っているだけで胸が締めつけられた。
夢じゃなかった。
お祭り。光。いつもより少し静かなユメの声。箱をミユの手に置く前に、見えない一線を越えるのを怖がっているかのように、指が一瞬ためらったこと。
ミユはゆっくりと起き上がり、目をこすった。思考はすぐに絡まり合っていく。
――私はユメが好きなの?
彼女は唾を飲み込んだ。
――それとも、ユメという存在に憧れているだけ?
何年もの間、ミユはユメを見てきた。画面越しに、人混みの中から、距離を保ったまま。安全な距離だった。アイドルは憧れる存在であって、触れるものでも、知るものでもない。
でも、お祭りで隣にいたあの子は、手の届かない存在じゃなかった。時々大きな声で笑って、ためらって、不安そうで、怖がっているようにも見えた。
そしてミユは、それを見てしまった。
静かに身支度をし、慣れた手つきで制服を着る。どんな音も大きく感じられ、床がきしむたびに心臓が跳ねる。誰にも気づかれていないと確信するまで、動けなかった。
外の空気は冷たく、鋭かった。俯き加減で歩き、靴が舗道を擦る音がする。学校までの道はいつもと同じはずなのに、今日は思考がまとまらない。
ステージの上のユメを思い浮かべる。自信に満ちた笑顔、完璧な動き、歓声に包まれる姿。
次に、祭りで隣にいたユメを思い出す。肩が触れるほど近くに寄り、低く、ほとんど壊れそうな声で話していた姿。
まるで別人みたいだった。
それでも……同じ人だった。
――もし私が彼女を好きなら、それって私はどういう存在になるの?
ミユは自分が恋物語の中にいる姿を想像したことがなかった。恋は他の人がするもの。ドラマやアニメの中の話。すれ違うカップルたちのもの。彼女はいつも外側にいて、見ているだけの、透明な存在だった。
校門が見えてきて、現実に引き戻される。
アカネはすぐに彼女に気づいた。
「おやおや」と、アカネがだるそうな笑みで道を塞ぐ。後ろにはナツミとリカが立ち、様子をうかがっている。「今日はサボらなかったんだ」
ミユは立ち止まった。胃の奥がきゅっと締まる感覚はあったが、どこか違っていた。恐怖はまだある。でも……薄れている。
「授業に行く」と、彼女は静かに言った。
アカネが眉を上げる。「それだけ?」
ミユは彼女の横をすり抜けた。
一瞬、誰も動かなかった。
「最近ほんと変だよね」と、アカネが背中に向かって叫ぶ。「自分が偉くなったとでも思ってるわけ?」
ミユは答えなかった。そのまま歩き続けた。
背後で鼻で笑う声と笑い声が聞こえたが、どこか不安定で、調子が狂っているように聞こえた。
ミユは気づいた。
自分が、怯まなかったことに。
授業が始まり、一日はぼんやりと色のないものになった。
教師の声が単調に響き、チョークが黒板を引っかく音がする。ミユは丁寧にノートを取ったが、何を書いているのか覚えていなかった。意識を戻そうとしても、思考はすぐに漂ってしまう。
――人を好きになるって、こんなに苦しいものなの?
ノートの余白を見つめ、ペンを握る指に力が入る。
ユメは何も求めてこなかった。告白もしなかった。押しつけもしなかった。
ただ……信じてくれただけだ。
「ミユ」
教師の声が霧を切り裂いた。
遅れて顔を上げる。
「はい?」自分の声が、ひどく遠く感じた。
「今、何を説明した?」
教室が急に明るく、静かになる。視線が集まる。
頭が真っ白になった。
「えっと……」口を開いて、また閉じる。
教師はため息をついたが、怒ることもなく授業を続けた。説教も、罰もなかった。
ミユはノートに視線を戻した。頬が熱くなったが、予想していたような恥ずかしさはなかった。ただの空白。そこにいるのに、自分の中に完全には戻れていないような感覚。
昼休みも同じだった。一人で座り、食事をつつきながら、周囲の笑い声や会話が波のように流れていくのを聞いていた。ユメの食べ方を思い出す。学食のご飯に文句を言いながらも、小さく微笑んで、どんなことでも味わおうとする姿。
午後の授業はさらに長く感じられた。体は自動的に動く。立つ。座る。書く。聞く。呼吸する。
廊下で、またアカネとすれ違う。
「まだ無視してるわけ?」苛立ちの混じった声で呟かれる。
ミユは一瞬だけ視線を合わせ、すぐに逸らした。
アカネが舌打ちする。「つまんないやつ」
終業のベルが鳴り、人波の中へと解き放たれる。
帰り道はいつもより長く感じた。肩は疲れで落ち、胸の奥がひりひりと痛んだ。アパートに着く頃には、息が詰まりそうだった。
ドアを開ける前から、言い争う声が聞こえてきた。
ドアノブにかけた手が止まる。
中は緊張で満ちていた。何かが倒れ、誰かが怒っている。ミユはできるだけ気配を消し、存在しないかのように動いた。
「どこ行ってたの?」と、鋭い声。
「学校……」ミユは小さく答えた。
沈黙。
隙を見て、彼女は自分の部屋に滑り込み、震える手で鍵をかけた。膝が崩れ、ドアにもたれかかるように座り込む。呼吸が浅い。
視線がベッドサイドのテーブルに向いた。
箱。
這うように近づき、震える指で開ける。
淡い色合いの、繊細で優しい指輪が光を受けて輝いた。指にはめると、冷たい金属の感触が彼女を現実に引き戻す。
呼吸が、ゆっくりと落ち着いていく。
膝に額を押しつけ、胸に手を当てた。
ユメは大きな音を立てなかった。鋭くもなかった。ミユに消えなければならないと思わせることもなかった。
彼女が好きだったのは、ステージの上のアイドルじゃない。
隣に立って、不安そうで、でも本物だったあの女の子だった。
その気づきは、静かに、でも確かに胸に落ちた。
もう迷わなかった。
否定できなかった。
それは、恋だった。
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