田原めっくんはうす(999文字)

母が「田原市に行きたい」と言ってきた。

母は免許を返納していないが、運転はもう1年半ほどしていない。

そのため、遠くに行きたい時は、いつも僕に頼んでくる。


しばらく車を走らせたあと、具体的にどこへ行きたいか尋ねてみると「分からない」と母は答えた。

母は、ただ家から出たかったのだろう。

とりあえず、僕は道の駅に行く提案をした。

ナビによると、田原市の道の駅までは70km近くあった。

道の駅の手前には、母が好きな和風ファミレスがあるので、まずはそこへ向かった。


和風ファミレスの開店5分前に到着したので、11時になるのを待って店に入った。

すると、レジ前にいた店員さんに「今日は全席予約済みです」と告げられた。

店の奥からキリっとした美人さんが現れて、僕の存在を見てビクついていた。

こういう時、反社顔であることを本当に申し訳なく思う。

「まだ予約まで時間がありますので、席を開けますね」と言われたが、せわしなく食事をするのも味気ないと思い、お断りさせてもらった。

車に戻り、相変わらず運がない親子だと母と笑い合い、道の駅へと向かった。


道の駅では、母が野菜を物色している間に、僕は情報コーナーで次の目的地を探すことにした。

そこで、緑とも見える青いポスターが目に留まった。

そこには「川瀬巴水」と大きく白抜きで書かれていた。

川瀬巴水は、僕が好きな版画家だ。

近くの博物館で企画展が行われているらしい。

まさか、こんなところで川瀬巴水の作品に出会えるとは思わなかった。

いかすみだいこんと白菜を買った母を車に乗せ、いそいそと田原市博物館へと向かった。


やはり川瀬巴水の作品はいい。

僕の好きな「馬込の月」も展示されていた。

母と一緒だったので、いつもよりあっさりと回ったつもりだったが、鑑賞後はやはりどっと疲れた。

母は「写真みたいだね」と嬉しそうに微笑み、楽しんでくれたことに僕は少しほっとした。


来週は、友人と名古屋市美術館、そして豊田市民芸館にも行く予定だ。

さらに時間があれば豊田市美術館にも寄る。

来月は、熱海市のMOA美術館にも行く。

そして今、母に「中山みどりさんのフェルトアート展に連れてってほしい」と頼まれた。

愛らしい作品が揃っているようなので、僕もぜひ行きたいと思った。


こうしてみると、僕はずいぶん美術が好きそうに見える。

果たして、僕はこんなにも美術が好きだったのだろうか。

結果が答えだというのであれば、僕は大層な美術好きなのだろう。

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