試作品の感情線
中々花
選択の終着点
「大好きだったよ」
三ツ橋舞花が僕の目を見つめそう言った。
どこで間違えたのだろうか。初めて彼女と出会ったあの日、今日この瞬間を想像できただろうか。
……いや。そんなことは無理に決まっている。小学一年生になったあの入学式の日、初めて彼女と出会ったあの瞬間。僕は人生の中で三つしかない選択の一つを消費した。
後悔は……うん。申し訳ないけどしていない。この選択の結果が三ツ橋舞花を殺すことに繋がっていたけれど、きっとこれが”正解”なんだと思う。
「大好きだったの、愛していたの。本当に……。でも、それと同じくらい……。ううん。それ以上にあなたのことが分からなかった」
三ツ橋舞花が咳き込みながらそう言った。
話すだけでも、立っているだけでも激痛が走っているだろう体を揺らしながら彼女は僕に近づく。僕はそれをただ見ているだけで、何もすることが出来ない。
ただゆっくりと近づく可憐な怪物を、あの入学式の日と同じように待つことしかできない。
違う。彼女が死ぬ前にどうしても聞かなければいけないことがある。
「舞花」
僕の声に彼女の脚が止まる。
そんな顔をしないでほしい。僕の声を聴いた瞬間、泣きそうな、それでいて怒っているように顔を歪めた彼女を見ていられなかった。
「やだ」
不貞腐れた子供のように言う。成長しても幼い顔つきのままの彼女にその表情はよく似合っていた。
「ごめん。でも、やっぱり聞いておきたいんだ」
「やだ」
「舞花はさ、」
「やめて!! 嫌だって……言ってるでしょ……。お願い。やめて……」
とめどなく溢れる血を顧みず、彼女は泣きつくように叫ぶ。
改めて彼女の覚悟に触れ、僕を本当に愛してくれているという気持ちを投げつけられ、確かにしたはずの覚悟が揺らぎそうになる。
「……」
三つ目の選択は現れない。それはこの質問を彼女にしたところで、この後の僕の人生には何ら変化がないことを表していた。
「舞花はさ、僕のこと……嫌いだろ?」
「……うん、
冷たくなった舞花を抱き寄せ、僕はあの日を思い返す。
試作品の感情線 中々花 @nakanakahana
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