186
Nora_
01
どこだここ。
考え事をしながら歩いていたら知らない森の中にいた。
左を見ても、右を見ても木があるだけ。
最近は熊なんかが出ているなんて話も聞くからそういう点でも普通に怖い。
あと、考え事をしながら歩いていたらなんて言ったけどなにを考えていたのかもわからない意味不明さがある。
「おかしいな、ここには人が入って来られないように対策をしていたはずなんだけど」
「あ、すみません、ここからどうやって帰ればいいか教えてくれませんか? え、あの、ちょ――」
幻覚、幻聴、もうだいぶやばい状態だったのかもしれない。
次に目を開けたときには見慣れた場所に戻っていた。
一応言っておくとここは近所の公園で、しかもその中央に私は立っていた。
「帰ろ」
まあ、どうでもいい、家に帰ることができればそれでいい。
昔から似たようなことが何回もあったからそこまで違和感はない。
それよりも迷子にならずに目的地までいけてしまうことの方が私らしくないと言える。
それでも学校やスーパー、お世話になっている病院なんかには迷わずにいけるようになったけども。
「ただいま」
ペットなんかはいない、父親と私の二人暮らし。
十八時ぐらいに帰ってくる父に全てを任せて――は流石に常識がないからご飯ぐらいは作っておく。
さっきだって本当はそのスーパーに向かっているはずだったのだ。
うん、だからつまりスーパーにもやっぱり迷わずにいけていないみたいだった。
「ただいまー」
「おかえり、ご飯の前にちょっと聞いてほしいことがあるんだけどいい?」
「うん、どうぞ」
先程起きたことを説明しておく。
すぐに「昔に一回だけ似たようなことがあったよね、実際に僕は見られたわけじゃないからわからないけどなちはそう言っていたから」と答えてくれた。
「こうして帰ってきてくれているからいいけど親としては心配だな」
「でも、学校にはちゃんといけているから」
「うん、それは学校からも連絡がきていないことからもわかるけどさ」
「聞いてくれてありがとう。さあ、ご飯を食べよう」
考え事をしながら歩かなければある程度は大丈夫だ。
スマホの使用方法や地図の見方がわからないなんてこともないから最悪の場合はそれに頼ることができるのもいい――なんて考えていたのに翌日の私が早速やらかしてしまった。
「スマホもないし、どこかもわからない」
しかもまたあの森にいる。
冷静になるとすぐに変な状態だとわかる、そもそも私の家の近く、学校の近くには森なんかはないことに。
だからどこかに引っ張られてしまっているというか、変な領域に巻き込まれてしまっているというか。
「あれっ、また来たの!?」
「なんかすみません」
この子は女の子なのか男の子なのかわかりづらいな。
でも、整った顔をしている、アニメや漫画なんかに出てきそうな見た目だ。
ここがそういう場所、世界ならそれはそれで面白いけど学校にいけないのは困るから放課後限定にしてほしいところだった。
「うーん……きみってそういう子なの?」
「そういう子とは……?」
「まあいいや、害はなさそうだから案内してあげるよ」
「あ、はい、お願いします」
森だから落ち葉とか木とかしかないと思っていたらなんか小屋があった。
目の前には川、水の流れる音が落ち着く。
「これは私が頑張って作った家なんだよ」
「すごいですね」
だけど手作りっていいのだろうか? 自分の土地とかだったら問題ないのかな。
あと手作りと言う割には不安になるような箇所はなくて安定感抜群というか、プロが作ったような建物で安心して座っていられた。
「だからねえ、壊されたくないから人が来ないように見張っているんだよ」
「破壊目的で来たわけではありませんよ? 気が付いたらここにいたんです、登校中でしたのでいまだいぶやばいんですよね」
「ああ……なんか可哀想だから自分の意思でいったり帰ったりできるようにしようか」
「え、帰ることができればそれで――」
守りたいのかそうではないのかがわかりづらい。
それでもすぐに帰してくれたことで学校は間に合ったからよかった。
いまでも油断はせずに(スマホは忘れたりするけど)早めの時間に出ていたことがいい方向に働いたみたいだ。
「およ、なちが出現したみたいだ」
「おはよう、朝から変なのに巻き込まれて遅刻しそうになったけどなんとか大丈夫だったよ」
私が普通に迷子になったときによく迎えに来てくれるのが彼女だったりする。
髪は長めで眼鏡をかけている、だけどあれは……伊達眼鏡だ。
「またか、どうせそこでも男の子か女の子がいたんでしょ?」
「うん、私って言っていたから女の子だと思う」
「ほー僕も行ってみたいな」
んーあの子の言う通りになっているのなら私は自由に行き来できる状態になっているわけだけど何度も自分から行っていたら敵扱いされないだろうか?
「連れていってくれたらなちが好きなお菓子をあげる」
「わかった、だけど明らかに歓迎されていない場合はすぐに帰るからね?」
「わかってるよ」
しかしなんだ、言ってみたはいいけどどうやって行けばいいのか?
あ、そうだと思い出して梨菜ちゃんの手を掴みつつごちゃごちゃ考え事をしてみたらあっさり行けてしまって逆に驚いてしまったぐらい。
「うわ……え、友達とか?」
「はい、どうしても行きたいと言ってきまして」
「んーそっか、じゃあおいでよ」
とかなんとか言ってきたけどその子が彼女の手を掴んだ瞬間に彼女だけ消えてしまった。
「いまはまだきみだけしか許していないから」
「すみません」
「ううん、あと物理的に消したわけじゃないから安心してね、ついでに家まで送っておいたからね」
玄関に転送されていることを願おう。
「それならよかったです」
「そこでそんなに安心した顔をするってことはあの子のことが好きなの?」
「好きですね、あ、友達としてですけど」
あの子が消えたら寂しいからいてほしい。
それと私に付き合えるのはあの子ぐらいだけだと思うから消えたら本格的にやばくなるのもあった。
普通に迷うと今回みたいに謎の力で戻れたりするわけではないからだ。
「あ、そうだ名前は?」
「なちです」
「ん? んーじゃああの子の名前は?」
「梨菜ちゃんですね」
「なんかきみの名前は合わないね」
合わないらしい……。
「わかったよ、あの子も連れてきていいからなちはもっと来て」
「いいんですか? あ、破壊するつもりはないですけどまだ信じられないんじゃないですか?」
「なちとなちの友達なら大丈夫」
「わかりました」
今度来たときのために準備をしたいみたいだったから今日のところは帰ることにした。
便利になった点は梨菜ちゃんの家にいきたいと考えただけで家の前まで移動できることになったことだ。
暑いときと寒いときに歩かなくていいのは大きい、また、屋内と屋外の気温差が激しい地域ではないからいきなり出て溶けたり凍ったりしないのがいい。
「はーい、あ、なち」
「梨菜ちゃんごめんね、だけど今度からはいってもいいみたいだからまたいきたくなったら言ってね」
迷子になって迷惑をかけているからこのことで役に立てるようになればかなり大きい。
役に立てている内は急に消えてしまうなんてこともないのでは? と汚い考えもあった。
「さっきの子、可愛かったね」
「うん、あと喋りやすいかな」
「なちはすぐに気に入りそう」
「仲良くなれたらいいよね」
あれ、難しい顔になってしまった。
急に帰されたことで嫌いになってしまったのだろうか?
ただ、少しだけでも知ってしまっている身としてはたった一回のそれでそう判断してしまうのはもったいないとしか思えない。
私が似たようなことを何度もやらかしても「まったくなちは」と言いながら合わせられる能力がある彼女なのだから。
「ねえ、あのままあそこにいき続けたらなちが人間じゃなくなっちゃうとかないよね?」
「え、大丈夫だと思うけど」
「それならいいんだよ。だけどこれからいくときは言って」
でも、でもだよ? 考え事をしながら歩くことが発生条件なら私はこれからもいったり帰ってきたりを繰り返すわけで、あの子だけはずっとそれを見ていくわけだから彼女を連れていった際に余計な情報を吐いて不仲になったりはしないだろうかという不安が出てきた。
「それにあれだよ、私みたいになんてことはない場所でもすぐに迷ってしまう人間は最初から人間じゃないのかもしれないよ?」
「なにを言ってるの、そういう冗談は嫌い」
「ご、ごめん」
つ、冷たいな。
怖くなって違うところに意識を向けていると「そうだ、約束のお菓子をあげないとね」と動き出してくれて助かった。
あとは言っていた通り、私の好きなお菓子だったから先程までのそれなんて忘れてあっという間に食べ終えていたことになる。
こうして好物を目の前にすればあっという間に亡き者にしてしまうことからも人間ではないという発言はあまり間違っていないように思えた。
「梨菜ちゃんありがとう」
「こちらこそ」
「だけどお父さんにご飯を作ってあげないといけないからそろそろ帰るね」
「それなら僕もいく、そのまま泊まりたい」
「いいよ?」
あの能力は……使わなくていいか。
彼女といるときぐらいはゆっくりお喋りをしながら歩きたい。
これは一日に最低でも一回はしなければいけないことだった。
「いつも偉いね」
「そう? 私だけが暇しているんだから当たり前のことだと思うけど」
「じゃあなにもしないでいまここにいる僕はどうしたらいいの?」
「お客さんなんだから堂々としておけばいいんだよ」
「なにそれ」
なにそれって逆の立場なら彼女は間違いなく同じように言っているし、私が無理やり協力しようとしても物理的に止めているところだ。
「それよりさ、お父さんと二人だけで寂しくないの?」
「そればかりはお父さんがその気にならなければ意味がないことだからね、それに私は学校や放課後にもこうして梨菜ちゃんが相手をしてくれるだけで寂しくないよ?」
「そ、そっ……そう」
「ん? もうできるからね」
ずっとやっていたのもあって私レベルで効率よくできるようになった。
だから味の方も心配しなくて大丈夫だった。
「こんにちはー」
「おお、待ってたよなちっ」
「あれ、この前と変わっていますね?」
「ごほん――そうそう、ちょっと変えてみたんだ」
クリスマスでもないのにキラキラしていて面白い。
「それより梨菜は?」
「梨菜ちゃんはいま風邪で弱っていまして、看病をした後に暇だったのでここに来たんです」
「そうなのかーあ、丁度いいのがあるよ? 付いてきて」
風邪薬とかよりもこの子がいってあげるだけでなんとかなってしまいそうな感じがする。
ただまあ、変な力に頼るよりも自然に治った方がいいだろうし、なによりここから出られるか自体がわからないからぶつけたりはしないけど。
「これを梨菜に飲ませて」
「え、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫大丈夫っ、ちょっと効きすぎちゃうけど問題ないよ!」
え、こわ、やっぱり貰うだけ貰って飲ませるのはやめておこう。
だってこれで万が一のことがあったら私は殺人犯ということになってしまう。
好きな友達を殺したという事実と、犯罪者になってしまったそれで私も死にかねないから駄目だ。
「それよりあなたの名前を教えてください」
「アンだよ、カタカナでアンだからね!」
「そうですか、よろしくお願いします」
アンか、それなら私もナチだった方が可愛かったかもしれない?
だけど両親がつけてくれた名前を大切にしなきゃね、恥ずかしい名前とかではないのだから気にする必要もないかと片付ける。
「うん。それと私のことなら不安にならなくていいからね、信用したところをパクっと食べちゃうとかそういうことは一切ないから。それどころかなちに協力してもらいたいことがあるぐらいなんだよ」
「私にできることならしますよ?」
「それはね、もっと人間の友達を連れてきて――」
「すみません、できそうにありません」
それだけは無理だ、役に立てそうにないことがわかった。
ただ? 後から役立たずなことがバレるよりも時間が経過する前にアンにわかってもらえたのはいいことだと思った。
真っすぐに言葉で刺されるのは痛いから、怖いから避けたかった。
「あ、あれ!?」
「梨菜ちゃんしか友達がいないんですよ」
「男の子の友達とかいないの?」
「いませんね」
これまで一度も特別な意味で誰かを好きになったこともない。
興味も持たれないから何故か続いている梨菜ちゃんとだけしか一緒にいられていない。
「なんか可哀想だからこれを」
「わっ、な、なんですか?」
私の半分ぐらいのサイズしかないけどこれは生物……だろうか。
というか、こういう非現実的なことばかり起こりすぎて益々人間ではないなにかに近づいてしまっている気がする。
謎に引っ張られてしまうこともその考えに拍車をかけていた。
「なちと梨菜にだけ見える生物かな、二人が望んだ性別になるからね」
「じゃあ女の子がいいです」
「え、そこは男の子じゃないの? 格好いい子や可愛い子にだってできるんだよ?」
「あ、でも、梨菜ちゃんはそっちの方がいいのかな……? 帰って聞いてみますね」
「うん、とりあえずなちに預けておくね」
とりあえずで任せられても……と困惑しつつも家に戻る。
こちらの世界も監視できているわけではないだろうから謎の薬的な物は勉強机の引き出しにしまっておくことにした。
今度自分の体調が悪くなったときに飲んでみようと思う、自分で試す分には全く構わない。
あとは単純に父に風邪を移したくないという気持ちが強くあった。
そして帰ってきた父とご飯を食べて、お風呂に入ってから戻ってきたときのことだった。
「あ、あれ、机が開いてる?」
おまけにベッドで休んでもらっていたあの謎の生物も消えてしまっていた。
アンにどう言えばいいのだろうとすぐに不安な気持ちになってしまったのだった。
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