第二章

第3話 あどみにすとれーたー、就任

「ではこれより、”管理者”就任式を執り行うッ!!!!」クワッ!!


 ……。

 突然、何だ?


 俺は、死んだはずだ。

 ということはここは、死後の世界か?


 何だこの、式典みたいなセットは…。

 座っているのは、俺一人だけ?

 壇上から仙人みたいなお爺さんが、すごい形相でこっちを見てる…。


「あ、あの…なんですか?これは?」


「……さて、さぞ楽しみにしていることじゃろう。”管理者”への就任は、当の本人には知らされていない。私が名前を読み上げるまでわからない…っ!」


 いや、全然話通じてないっ!

 ”管理者”への就任って何!?まさか、あの”管理者”じゃないよな…

 よくわからないけど、ここ俺しかいないんだから、名前読み上げなくてもわかるわ!何だよこの茶番!


「では早速、最初の一人…

 ……いや、最後の一人、と言った方が良いか?」


「…あの」


「…ん?なんじゃ?」


 うおっ、やっと返答が来た。


「こ、これ、なんですか?」


「……とにかく、名前を読み上げるぞ」


 うわ、無視された。

 何で無視するんだよ。もう訳わかんねえよ…。


「…………ごくりっ………」


 ごくりっ、って、自分で言ってる…。

 いやもう、誰の名前読み上げるかわかってるんだから、緊張感は皆無なんだよ。

 正直、イカれてるだろ…もうさっさと名前読み上げて、終わってくれ。


「…アドミ!!!!」ゴォッ!!


 ……。

 ………”アドミ”???


 俺の本名じゃないんだが。

 いやまあ、死後の世界は死後の世界での名前はあると思うけども。

 ”アドミ”って…。俺が使ってたアバターの名前じゃねえか!


 ……ん?

 ってことは、もしかして……


「…!?えええええええええええ!!?!??」


「ほっほっ、そこまで喜ばなくてもいいだろうに。」


 ちげえよ!

 俺の身体が、あのアバターと同じ…

 メスガキの身体になってるんだよ!!


「な……なんでこの身体……」


「むむ?それは、お主が望んだことではなかったのか?」


 …!!

 そういえば、死ぬ直前…俺は人類を目覚めさせると、強く望んだ。

 その結果、俺は”管鬼アドミ”になったってことなのか?


「ああ、そうとも。お主は使命を背負い、この世界に来たのじゃ」


 おい、おっさん。心読めんのかよ。

 迂闊に変なこと考えられねえじゃねえか。


「…ふっ、その身体はお主が思い描いて創ったものなのじゃろう?

 変な気は起こさないことじゃな…この世界ではタブーじゃ」


 くっ…そんなところまで読んでやがるのか。

 一旦、冷静になろう…。


「さて、式典は閉じよう。

 ここ最近、こういった場がなくてのう…張り切りすぎてしまったのじゃ。

 そなたには申し訳なかったな。」


 …そうか、この爺さん、中々こういう場がなくて、寂しかったんだな。

 よし、許してやろう。


「ところで、自己紹介がまだじゃったな。

 儂の名は”ゼヴァー”。この世界でちょっとだけ尊敬されている存在じゃ」


 …それ、本当か?

 さっきの感じで、全くそうは思えないんだが…


「おい、お主。少々馬鹿にしたじゃろう?」


 あっ、やべ!心読めるんだった!!やりづれえよ!!


「まあ、儂は寛大じゃからな、今回は大目に見るとしよう」


「あ、ありがとうございます…。」


 お許しをいただけたようで何よりだ。

 いや、そんなことより…。


 俺はこの世界のことが、全くわからない。

 この爺さんは位が高いのだろうから、なんでも知っているはずだ。聞いてみよう


「この世界って、一体何なんですか?」


「…ここは、お主がいた“地球“と比べて、高次元にあたる世界。

 地球の概念でわかりやすく言えば、”神”が住まう世界なのじゃ」


「”神”!?

 ってことは、俺は”神”になったってのか!?」


「一旦は、そういう理解でよい。

 お主がこの世界に来た理由…。

 先ほども伝えたが、人類を”自立”させることなのじゃ。

 これを見よ。」


 うお、式典会場が消えて、等身大の球体のようなものが出てきた。


「…これは、もしかして…地球?」


「そうじゃ。試しに、お主がいた場所あたりに、手を触れてみよ」


 …この辺だな?普通に触ればいいのか?


「…!?こ、これは……何かゲージ?のような…」


 左側に白のゲージ、右側に黒いゲージで色が分かれている。

 極端に白のゲージが少ない…。この黒いゲージが、白のゲージを今にも喰らおうとしてるみたいだ。


「何のゲージだと思う?」


「……まさか。黒ゲージは”滅亡”の指数?」


「まあ、そんなところじゃな。


 お主らの概念でわかりやすく言えば、”光と闇”のことなのじゃ。


 本来、光と闇が1:1のバランスで保たれているべき世界なのじゃが、今は闇が全体の9割を占めておる。闇に呑まれる寸前なのじゃ。


 闇の割合が100%になれば、人類の滅亡は確定というわけじゃ。」


 ってことは、滅亡寸前じゃねえか!

 早く何とかしないとやべえよ!


「…今、この”滅亡”への動きが加速しているのじゃ。

 これを食い止めるのに、どうか協力してほしい。」


「それで、俺は”管理者”に…?

 ”管理者”って、まさか…?」


「ふむ、お主が言うような”管理者”ではないぞ。


 お主の思う“管理者“は、“支配者“でしかない。

 そやつらは先人の呼称を勝手に使い、

 支配という真逆の事をしているクズ共…。


 今地球で覇権を握っているとつけ上がっている奴等は、”管理者”ではなく、”支配者ルーラー”と呼ぶべきじゃな。


 本来は、低次元の世界に自ら赴き、より良い世界線を選択するよう、生命体の動きを管理している者達の事を言う。


 言うならば、”支援者サポーター”じゃな。


 人類に限らず、同レベルの次元にいる生命体達は、自我を持って行動している、という絶対的な感覚があるが、

 我々からすれば、全て決められた道理に従い、あるべき方向に動いているようにしか見えない。


 つまり、”システム”と何ら変わりない。

 全ての行動がわかる我々は、生命体達をより良い方向に導くよう、”支援”を行うことができるのじゃ。


 生命体達の世界を良好な状態に保つ責務を負うのが、本来の”管理者”なのじゃ。」


 これ……!!!

 数万年前の思想と、同じじゃないか…!?


「ま、まさか、あなたは…

 数万年前の地球に存在した、“管理者“本人ですか!?」


「ご名答じゃ。

 結構いい感じに、事が進んでいた筈なんじゃがのう…。

 ちょいと目を離した隙に、アホ共が調子に乗りおって……」


 そうか、

 地球人からしたら見えない存在が、見守ってくれていたわけか…。


 …待てよ?

 自分の世界より低次元の世界は、“システム”にしか見えていないと言った…。


 つまり、地球にいる“管理者”もとい“支配者”と、

 支配下に置かれた民衆は、同じ括りに見えているという事?


 …これ早い話、支配層潰して貰えば終わりなのでは?


「一つ聞いていいですか?

 もし人類が掌の上なのだとしたら、地球を牛耳っている支配者をどうにかできるのではないですか?」


「…できる。が、それでは人類にとって意味がないのじゃ。


 我々が人類に過干渉すれば、人類は我々に依存し、自立しなくなるじゃろう?

 全てどうとでもしようと思えばできるのじゃが、制限がある。

 我々ができるのは、あくまでサポートまでじゃ。


 自立している人類が少ない今であれば、尚更過干渉は許されない。

 人類は人類の手で、解決していく必要があるのじゃ。


 試練を乗り越えて初めて、未来が切り開かれるというわけじゃ。」


 …なるほどな。

 ”依存”というキーワードが、ここでも出てくるわけか。


「中々、難しいですね…

 じゃあ俺は、何をすればいいんですか?」


「お主は地球での活動の通り、人々に自立を促せてやればいいのじゃ。


 ”メスガキ”の煽りというのは、絶対に分からせてやると、強く本能に訴えるもの。

 お主は我々と、かなり近いことをしていたのじゃぞ?


 だからこそ、お主はこの世界に来ることができた。

 そして、人類を目覚めさせるという使命を背負ったのじゃ。

 人類をサポートする意味での”管理者”の感覚は、お主の感覚を信じれば良い。」


 ……。

 そうか、俺がやっていたことは、正しかったんだな。

 じゃあこの世界でも、引き続き”管鬼アドミ”として、活動を続ければいいんだ。


「…ゼヴァー様、俺一刻も早く、地球で活動をしたいです」


「敬称は省略すれば良い、苦手じゃ。

 …では目を閉じて、行きたい場所に意識を集中させるのじゃ。

 そうすれば、その場所に降り立つことができる。

 降り立った後は、そこで何ができるか、何を観測できるか、自ずと分かる。


 焦らなくて良い。まずはその身体で、慣れること。活動はそこからじゃな。


 分からないことがあれば、心の中で儂に話しかけてくれ。答えてやろう」


「…わかりました。では、行ってきます」


 俺が地球で生まれた場所…日本。

 ここは数千年前、国が統合されるまで最も栄えていた場所だ。

 それが“支配者”に占領され、支配構造が最も根付いている場所になってしまった。


 俺は日本から、地球を救ってみせる。

 ここに意識を集中させればいいんだな?

 こんな感じか……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る