第2話 ばぐ、排除

「…どうしてここがわかった?」


 ”監視者デバッガ”か…!

 銃声が配信に流れないよう、サイレンサーで機材を撃ちやがったのか…。

 今まさに重要なことを話そうとしていたのに…っ。まさかここがバレるとは…!

 いかなる形跡も潰してきた筈なのに!


「当然分かりますよ。我々は”管理者”側の人間ですから。

 動画配信をしているということは、その間ネットワークに繋いでいるわけです。

 位置の特定なんてわけないですよ。」


「にしてもだ。ここはお前らの管轄外のエリアのはずだ!」


「管轄外であると勘違いしているだけの話です。

 嘘の情報を混ぜるというのは常識ですよ。ちゃんと”裏”を取らないのは、あなたの爪が甘いとしか言いようがないです。


 あと、資料のデータをこっそりネットに流していましたね?

 全てこちらで削除させていただきました。

 これも”管理”の一環、ですからね」


 くっそ…、やられた。ぐうの音も出ない。

 しかもデータを流していたこともバレてやがる!!

 流石に、ここまでか…!


「…ははっ、俺を消しにきたってことはやっぱり、この資料を公開されると困るんだな?」


「ええ、そうですよ。

 人類の管理の為、我々の指示に背く人間が増えては困るのです。

 管理しきれず、世界の秩序が乱れますからね。」


「そうだな、今の世界は、”管理者”に管理されていることが、世の為人の為。

 でも、この資料では、その真逆の世界が書かれている。


 統率者がいなくても、自由な人々が平和に暮らしている。

 ”管理”なんてしなくても、秩序は保たれている。


 管理下に置かれる社会構造に人類が疑問を持ち始めた今、このような世界を目指すべきじゃないか?」


「今の人類にそんな暮らしができると思いますか?

 その当時よりも、人間のレベルは相当下がっています。

 だから、そんなもの見せたところで意味がない、寧ろ悪影響なんです。」


「下がっている?”下げた”の間違いじゃないのか?


 …なあ、お前らの本心は、

 別のところにあるんじゃないのか?」


「…何故、そう思うのです?」


「本当に人類のことを考えているのだとしたら、

 この資料を見て、今の人類の状況を鑑み、今の社会構造に対して継続の要否を問うはずだ。


 そして資料の事を、人類に共有しようとする筈だ。

 人間のレベルが下がっていると言えど、善良な心で管理を行ってきたのなら、人類の事を信じれる筈だ。


 しかし、あの配信を遮った。


 これは、今の社会構造継続の要否を問うまでもない、これから遠い先の未来まで、人類を管理下に置き続ける…そう言っているようにも聞こえる。


 現社会構造にそこまで執着する理由は何か?一つ答えが浮かぶ。


 それは、欲を喰らい続けたいから。


 人類を心底見下し、自分たちの欲望のためだけに存在しているとしか思っていない。言葉で表すなら”奴隷”や”家畜”が適切か?

 俺が配信で話していた通り、お前らは”利己的”でしかないんだ。違うか?」


「ほう…我々は人類の事など考えておらず、自分たちの欲のために人類を管理下に置き続けていると?」


「そうだよ。これは、資料から読み取れる歴史からも説明がつく。


 さっきも言ったが、数万年前の人類は、それぞれが個性を出し、お互いに協力し合って暮らしていた。それができていたから、統率をとる者はいなかった。


 が、“管理者“はいた。

 といっても、現代のように、統治する者とは全く違う意味合いだ。

 人々が自由で、その上でより良い方向に進むよう”サポート”していた存在だ。


 これにより様々な学問のレベルが上がり、文明が著しく発展した。


 このような”自由”な時代が数万年続いたようだが、つい数千年前…この時代は幕を閉じる。


 ある一部の人間に、世界を自分のものにしたいと考える者が現れた。

 自由な人間達を統一したいと言い、同志を集めて戦争を始めたんだ。


 彼らは戦争に勝ち、ここで初めて、“支配者“と同様の意味を持つ“管理者“が生まれた。

 発展した人間行動学を悪用し、全ての人類を従えて奴隷のように扱い、欲を喰らい始めた。


 それが、今の”管理社会主義”の始まりだ。


 お前ら”管理者”は更なる欲望の為、長い年月をかけ、人々を洗脳して奴隷である自覚を徐々に薄れさせ、管理下での世界が普通であると、寧ろ喜ばしい事だと、人々に植え付けていった。


 つまり、人類が奴隷であるという”管理者”の思想が、現代に至るまで根付いてるって訳だ。

 こう考えれば、説明がつくだろう?」


「…ふふっ、そうですね。

 概ね、その通りです。」


 認めた…!

 とんでもない奴らだ、人類を道具としか見ていないんだっ…。


「自立する人類が増えていけば、搾取することが難しくなっていきます。


 もっと言えば、自ずと”管理主義社会”である意味がなくなり、

 我々”管理者”は淘汰される可能性が出てきます。


 それを防ぐことも兼ねて、人類の欲を喰らうことに尽力しています。


 では、対策として、今我々が何を掲げているか?


 どうせあなたは死にます。特別にお教えして差し上げましょう…」ニタァ…


 な、なんだ?何だその不気味な笑みは。

 今までの無表情が、嘘のようだ…


「せっかく、あなたのような”目覚めた”方々がいらっしゃるのです。

 これを利用しない手はないでしょう?


 我々”管理者”の次の一手は、

 ”仮想の管理者フェイク

 を創り上げることです」


「!?ま、まさか…」


「『今の社会構造はおかしい!』『人々は自由であるべきだ!』

 …と声を上げる。ここまでは、一緒です。


『数万年前に存在した”管理者”様が、我々をサポートし、導いてくださいます。

 ですから、あなた方は、のです』


 …と、呼びかけるのです。

 自立していない人類は、今までの楽な方法を選びますから、当然”そのまま”です。


 ”管理者”への依存から脱したと思いきや、今度は”仮想の管理者”に依存するわけです。ただ依存先が変わっただけの事。


 当然ですが、”そのまま”では何も起きません。

 何時まで立っても来ない自由に、精神を病む人間が激増するわけです。


 つまり、今までと何も変わらない。

 寧ろ、状況は悪化していくかも知れませんねえ?ふふふっ!」


 っ…俺が危惧していた事の一つだ。

 社会に疑問を持った人間の、誤誘導…。


「まさか、この資料を敢えてダークウェブに上げていたのも…」


「ええ、そうです。

 先ほど同じようなことを言いましたが、

 本当にまずい情報は、そもそもネットに上げたり等しないのです。


 資料一ページ目の、”人々が自由な世界”という表題…

 ここまでは、あなた方が漠然と伝えてきた内容ですので、民衆に伝わっても問題ありません。


 寧ろ、誤誘導にはもってこいです。

 資料は深層ウェブにあったものですし、内容が内容です。

『とんでもない資料』とハードルを上げるでしょう。


 その上で、“とんでもない資料“に書かれた”自由”というキーワードを、配信を遮る。


 当然、何も知らない愚民たちは、勘繰ります。

 あなたの動画の視聴者なら、尚の事です。


『“とんでもない資料“に書かれてるんだ。という事は、今より”自由”な時代はあったんだ…』

 ここの解釈を、少し歪めるのです。


『”善良な管理者”による”サポート”』

 ではなく、

『”善良な管理者”による”統治”』


 あなたが突然失踪したタイミングで、民衆にこれを伝えるのです。


『待っていれば、救世主が現れる…』

 資料の伝える本質である”人々の自立”から逸らした上で、希望を見せるのです。


 そうすれば、”仮想の管理者”に依存する愚民の、出来上がりというわけです。


 資料の詳細は、流すわけにはいきませんでした。

 自由の為にどうすればいいか?その内容が事細かく書かれていますから。


 配信を遮ったのは、当然そういった意味合いもあります。

 これで自立しなければならない、なんて思いもしないでしょう。


 わかりますか?

 あなた方は社会に背く”異常者”と言われてきました。

 しかし、所詮は井の中の蛙……。

 管理下に置かれた人間の内の、一人に過ぎないのです。


 我々”管理者”からすれば、ただの都合の良い傀儡に過ぎないのですよ!!あははは!!!」


 っ……

 あの情報屋は、”管理者側”の人間だったってわけか…

 くそっ、ここまで綿密に練られていたとは…っ


「人間という生き物は、愚かでしかないのです。

 自分の中に軸を確立できていなければ、ひたすら”楽”と思える選択をしていきます。

 それが自分を苦しめ、絶望に向かっているとも知らず…。


 我々はそんな人間達に、利用価値を与えてあげているのです。


 我々の”養分”であることを。


 愚か者には、愚か者なりの価値を与えているという事です。

 いいでしょう?我々のような高貴な存在の養分になるのは」


「…お前らは違うとでも言いたいのか?」


「…?どういう意味です?」


「俺からすれば、お前らもその“愚か者“と同じだって言ってるんだよ」


「…何ですって?」


「お前らも結局、その”愚民”達に依存してるんだ。

 支配する為には、支配する対象がいないと成り立たない。つまり、支配対象の愚民が消えれば、自ずとお前らも消える」


「それは、愚民が目覚めればの話でしょう?

 そんなことがあり得ると思いますか?」


「違う、そういう意味じゃない。


 民衆には今、希望がない。

 お前らが”養分”を吸い取りすぎているせいでな。


 これが何を意味するか?

 吸い取る養分がなくなって、お前らも一緒に消えるんだよ。

 民衆が目覚めずとも、お前らの運命は決まってる。


 断言する。今の”支配者”共は、滅ぶ。」


「…何を言うのかと思えば、”愚民”の戯言でしたか。言い残す事は、それぐらいですか?」カチャッ


「図星を突かれたか?支配者の犬のお前は、薄々気づいてただろ?この先、”管理者”は滅ぶしかないって。


 どうせ滅ぶなら、“愚民“もろともだって、そうなんだろ?」


「それは違います。

 愚民達から搾取した”成果物”は、我々が使っていきます。

 その”成果物”というのは、我々が指示して生み出させたものなのです。

 我々が使いこなせないわけがないでしょう?」


「はははっ!見込みが甘すぎるぜ?

 その”愚民”達が成果物を生む過程を、お前らは知らないだろう?

 それを知らないで扱っていこうだなんて、それこそ破綻するぜ?」


「我々は知能が高い存在なんです。成果物といっても、所詮脳の構造が単純な愚民の産物…

 それを利用して、我々は更なる物を生み出せるに決まっている…!」


「なあ、それ。お前らの言う”愚民”と一緒だって、気が付かないのか?

『長年支配してきた自分達なら問題ない、愚民とは違う…』

 これは驕りだ。長年築き上げてきたプライドに依存し、実際問題どうなるかの想像力が明らかに欠けている。


 これが絶望に向かっていなくて、なんなんだ?」


「貴様ッ…愚民の癖に、口を慎め!!」ドォンッ!


「がはあっ!!」


 ッ…こいつ、サイレンサーじゃなくて、より殺傷力高めの銃を使ってきやがった。

 腹を撃たれた…そう長くは保たないだろう。


「…ッ、ふ、ふふっ」


「何が可笑しいッ!?」


「今まで平静だったお前が、そんなに取り乱すのが面白くてな。


 俺はお前らみたいな馬鹿と共倒れになるのが嫌だから、

 せめて可能性のある民衆には生きてもらいたいって、活動を続けてきたんだ。


 目覚めた人類がこの先激増し、残った”愚民”とお前ら“管理者“だけが取り残され、終いには淘汰される。

 それがわかっていて、後に引けなくなっているお前らは本当に馬鹿だよ。


 もう言い残すことはねえ、最後に一言言わせてくれよ。


 ざぁ~~~~こ♡[ドォンッ!!]」


「ッ……。


 ……報告します。ターゲット、殺害しました」


 ははっ、メスガキの煽り程度で引き金を引くなんてな。やっぱりただのざぁこ♡だな。

 見事に頭を撃ち抜かれたようだ。こりゃ死んだな。

 だがこの勝負、俺の勝ちともみなせる。


 誤誘導とはいえ、”希望”を与えることはできたんだ。

 生配信を行えた時点で、それは決まっていたことだったと思う。

 あの視聴者の数だ、絶望を感じていた者は何人か救えただろう


 しかし、それだけでは絶対に足りないのは分かってる。

 こいつも言ってた通り、各々の”自立”が必要だ。

 ”仮想の管理者”に依存しないよう、1人でも多く自立させなければ…!


 人類がこんな馬鹿共に滅ぼされるなんて、同じ人類だった者として御免だ。

 くそっ、どうにかして人類を目覚めさせたい!

 頼む、神よ!俺に力をくれ!!

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