しろぎり
イタチ
第1話
あざまなヨル氏ら
夜の明るさを、ご存じであろうか
暗闇に包まれた山の中だったとしても、里を見れば、我々の孤独とは、相反するような、安全が、そこには、きらめきひしめき合っている
されど、山と言う孤独の牢獄の中
それは何よりも解放されているようで、一歩間違えば、ただ、裸同然のこま切れ肉以下の存在ともいえる
山頂で、人間は、長くは生きられない
しかし、蟻は、害虫と、街で、都会で、さげすまれようと、山頂付近の人間お断りな場所で、一年を通し、生きる事が出来る
我々は、果たして、なぜ、山に入るのでだろうか
それは、景色の為、危険な場所に入るスリル
技術の確認
様々なものが、存在するだろう
しかし、全ては、霧だった崖に、入り込む、高山の霧のように、雨に濡れ
訳も分からないのである
「あと少しです」
バスの隣の客が、そんな事を言って、後ろの友達と会話している
重高原の最高部
日本一高いバス停と言われそうな、その場所には、様々な格好の観光客が、それぞれの服装
思案を、含み乗り込む
抱くように、巨大な大きなリュックを、抱え込むもの
Tシャツ短パンの家族連れ
アウトドアー用品の上下を着込む老人たちの団体客
みな、一応に、開かれた山の景色を、見に行くものが、殆どであろう
ただ、私は、その光景に、何も感じられなかった
終点ではないが、これからは、県をまたぐ位置に、バスが向かう
殆どの客が、お土産を売る大きな建物の横へと、降りてしまい
ガランとしたバスの中には、運転手と、私が、載って居る
横を、覗くとバスの窓からは、ストックを持った老人たちが、歴戦の勇士を見せるように、誰よりも、安定感を、持ち確実な、一歩を、進ませ、その横を、ランニングするように、運動部らしい大学生たちが、駆け降りていく
一体、彼らは、何を求めていくのであろう
それは、私が持っていないものを、持っているから、向かうのであろうか
ジェットコースターの登りのように、ゆっくりと、バスは、斜面を、静かに、下り始める
県境の狭間まで、もう少しであろう
鉄道模型のような、背の低い植物たちが、山の形を、添うように、植生する姿は、いつ見ても、ここが、里山ではない、普段見慣れない場所だと、自覚させる
幾らきれいでも、テレビでは、種子や外来種を、持ち込む危険性を、考えている旨を、述べていたが、学者や、市民が、それを、食い止められているのであろうか
バスの表示が、切り替わろうとしていた
「シラギリまで、あと一分ほどですので、おおりのお客様は」
下車を、促すそのアナウンスは、運転手のものではなく、どういう仕組みなのか、手動なのか
場所により、gpsでも、ついて流れるのか、地名の表示が、変わると、アナウンスが、報告してくれる
まさか、時間通りに、繰り返されはしないのではなかろうか
私は、軽い荷物を、リュックに詰め込んでいる
それでも、それなりの装備は、用意した
図書館で、調べた、山に行くための準備として、雨にぬれても、快適な、高価なレインコート
上下二万円
同様の素材の靴 一万円
帽子 水筒 靴下 等々
私が、お金を、払い、料金箱に、落として、切符と、さよならしたあと
私は、落ち葉が、数枚落ちる
黒いくすんだアスファルトの上に、降りる
バスが「発射します」と、手動なのか、繰り返しながら、あっという間に、向こうの曲がり角に消える
それは、都会的な奉仕との決別であり
私は、そこに立っていた
黄色い看板には、この土地の名前と、錆びたとたんが、アーチ状になり
バス停のような形を、中で朽ち果て、真ん中で折れた木をぶった切って、足を付けたような
丸太のベンチが、思わせている
「あなたが、佐藤様ですか」
目の前には、ほっかむりを、手ぬぐいで、被った老婆が、立っていた
高山である
私は、この県の平地とバスの温かい温度しか知らない
手には、山から染み出す冷気のようなものが、まとわりつき
一瞬
ぽんと水の中に、突き落とされたような、気分になった
私は、予約していた人と、合点する
この場所に、宿泊施設など、なく、昔、営業していたが、今はやって居ない
喫茶店を、特別に、あけてくれるというのである
一日五千円
食料は、個人経営のコンビニと言うか商店が、やって居ると言うのだ
私は、あたまをさげた
「すいません、突然、お伺いしてしまい」
おばあさんは、首を振る
「いえいえ、良くあるんですよ、でも、あんた、死ぬんじゃないよ」
それは今までに会った事のないような、人種の感情であった
アスファルトの奥、砂利道が、引かれ
その先に、木で作られた喫茶店のような看板を見つける
古いガラスの中は、色が入っているのか、それとも経年劣化だろうか
多少黄色いような気もし
その奥には、白いレースのカーテンと、数人の人間が、木のカウンターに座り、奥の主人らしきマスターと、話している
二人して、内部に入ると
数人が、こちらに振り返った
「ああ、あなたが」
一人が、立ち上がり、こちらに歩み寄ると、頭を下げる
店内にもかかわらず、帽子をかぶったそれは、お世辞にも、都会的紳士ではないが
しかし、その服装は、このような、雑多な場所にしては、こぎれいにしたのではと思わせた
「私が、今村長を、していますガレキと、御申します瓦礫です、ガレキ」
一人、誰かが、画業のことじゃないよと、突っ込みを入れるが、さわがしさの中で、かき消える
「こんなところに、来るくらいだから、電話でも、聞いたけど、あまり、宜しい、話じゃないんだろ、お嬢さん」
もうそんな、年齢ではないが、この平均年齢的に言えば、そうなのかもしれない
「はい、恥ずかしながら、連れが、居なくなりまして」
私は、持ってきたカバンから、紙の束を出す
そこには、彼が、入った入山届なり、登山の入念な計画表が、書かれていた
村長が、机ごしに、拝見していいかと尋ねるので、私は、その目礼を、頷いて返した
「しらぎり・・・ここの地名じゃないか
なあ、見てみてくれ」
一枚一枚、回される紙を、彼らは、見ていたが
「まあ、大変な、事を、したのね」
一人、マスターの横に立っていたエプロン姿の壮年の女性が、ふわふわとした茶色い薄いパーマを、揺らしながら見ている
「別段、面白い所もないだろうに、この人は、わざわざ、シロギリオカまで、行ったんだよ」
胡麻塩頭に、小さな体には、作業服を着た老人が言う
みな、自分のコーヒーが、冷めるのも、いとわずに、紙を見ている
それは、長かったが、不意に、外は、木に隠れ、そのせいで、時間による太陽光の遮りも早いのだあろう、薄っすらと、外が、暗くなったように、レースから見えだしたころ
村長が、紙を置き、窓側の壁の横に置かれた木の大きな柱時計の下の棚から、太いアルバムなのだろうか、色が劣化して変わった、それを取り出して、木のテーブルに置いた
「シラギリ」
誰かの聞こえないような、溜息が聞こえた
私は、いくら調べても、出てこない
この奇妙な、土地と合致した情報を、得られていないでいた
何なのであろうか、シラギリとは
物語の中で、断片的に、その言葉を、見たことはあるが、所詮は、ファンタジーであり、確証もないだろう
ここは、現実だ、夢の土地には、入れない
「いや、実話だな」
村長が、開いた、色褪せた紙に張り付けられた大判の写真等には、なにか、白い線が見た
それは、実際には、他の端の木を見たとき、霧だと、分かった
ページが捲られると、さらに分かりやすく
その霧の前に、立った人間との比較を、見ることが私にはできたが
しかし、霧がまるで、プールの水か、何かのように、それは、ぴったりと、ある境界線からは、漏れ出ないような
何か、奇妙な、絵図である
いや、写真なのだろうが
私が、それを見ていると、横で、村長が、言う
「ここら辺では、こういう場所があるんだよ
なぜか、霧が、それ以上は、こちらには、来ない
いや、それは、常に、白いままなんだ、他の土地とは違い」
そんな事がある分けはない
私はすぐにでも、飛び出して、見てしまいたかったが
いつの間にか、いや、先ほどから、ある程度は暗かった
それに、この店が、西側ではあるのだろうが、やはり、日の暮れが早くなるほどの木々に覆われているせいもあるのだろうか
辺りは、黒いパネルを、打ち込まれたように、真っ黒であった
「単純な話、いかない方が良い」
それは、誰かが言ったが、私の耳には、聞き届けたくなかった
彼は居る
まだ死んでいない可能性がある
この奇妙な現象が、きっと、生死まで
そう思う反面
それこそが、ファンタジーなのではないか
それは、信じてはいけないせり出した雪のがけ雪庇のようなもので
私は、何かを追い求めるがゆえに、危機管理を、どがえししてしまっているのではなかろうか
「明日、早朝、見てこよう
サチエさん、付き合ってくれるかい」
入口にいた老婆が、頷く
「まあ、今日は、歓迎会だ」
目の前に、いつの間にか、この店の奥さんが焼いたのであろう
木の板に盛られた溶けた焦げかけのパン生地からトマトソースとともに、チーズの流れ出したピザが、机の上に、置かれた
冷蔵庫から出てきたのであろうワインは、汗をかき、透明なグラスが、脇に置かれている
「おお、来ていたんですか」
暗い扉が開き、また住人らしき人が、入ってくる
その手には、新聞紙にくるまれていたが
見た事のない種類のキノコの類が、かすかに、匂いとともに、その外見を、晒していた
早朝
それは、山の中に、私の姿は居た
朝日は、まだ、その姿を見せず
私の背中には、持ってきたリュックサックが、多少食い込んでいた
朝早く、家の玄関を出る
同じようなログハウスの一軒に、私は居た
他の部屋は、段ボールで、押し込められていたが、その部屋と、トイレだけは、よく手入れが行き届いている
埃も、不要なものも何もなかった
私は、倒れるように、布団に横になると、ゆっくりと、目を閉じた
深夜
私は、自分で、かけておいた目覚まし時計のバイブレーションで目を覚ます
きっと、霧の中に、行こうとすれば、留められるだろう
私は、そうなるわけにはいかない
そう思いながら、朝の前段階を、歩く
だれも居ない
ただ、家の横と、木々の中を、歩く
この集落は、いつできたかは、定かではないと言う
出来ては、滅び
それは、どのような集団だったのか
昨夜書いてもらった地図を、頼りに、私は、懐中電灯で、それを照らしながら先へと進む
肌寒いが、ジャンパーのお陰をここで、感じるが
今からのことを、考えれば、それも、どの程度、あるのかは、分からない
何せ、死出の旅に、変りもなさそうである
「あそこに、入ったものは、誰もかえっては来ない」
村長は、日本酒を、飲みながら、そんな事を、言っていた
動物も、あそこには、行きたがらない
ここら辺では、霧が出ると、区別のために、絶対に、表に出てはいけない
あやまって、間違って、あの白い本当の霧なのか良く分からない中へと、はいってしまわないように
私の足元では、石や落ち葉、草が、生えている
高山に近いせいか、それは、荒地とは違い、転々と同じような情景が、つつましやかに、置かれているが
それがかえって、何かの意図のような、意志を感じないでもない
私の足元を、照らしていたライトが急に、地面以外を、写し込んだ
それは、白いかくばった
そう気が付いた時、私は、足を止めた
「朝が早いな、若いのに」
足を止めた理由のもう一つに、ロープの張られた横に、老婆が、立っていた
全く年は取りたくない
老婆は、そう言いながら、私の方を、ライトで照らした
「行っても良いが、帰りはないぞ」
暗闇の中、その声が、響く
私は、一歩また一歩
緑のプラスティックロープの前にいた
「私は、いきませんよ、自殺を、しに来たわけではありませんから」
朝日が差し込む、そのロープの向こう
ゆっくりと、霧が晴れ
断崖絶壁が見える
「ああ、そうだろうよ、霧は、向こうだからな」
私のいる場所の向こう
老婆が指さす方向
森の中に、ゆらりと、毛布のような白い切れ端が、木の中に、見える
「でも、帰りはない」
私は、そこで考える、私は、何をしに来たのか
彼を、追ってきたのだろうか
私は、何のために、ここにいるのであろう
私は
「人生は、つらいが、面白い事が無い
それが、面白いとは、思わないかね」
老婆が、ゆっくりと、歩きながら
私に言う
白い霧が、威圧感を、私に与える
あれは、霧なのだろうか
私は何か、彼の書いた幻覚を、見ているだけじゃないだろうか
「絶対など、存在しないのに、なぜ、我々は、怯えているのだろ」
目の前の切り
それは、深く
何も見えない
「バスは、あと二時間だ
また来るといい
霧は、晴れないよ」
老婆は、そう言って、引き返していく
何処までも、見えない霧
本当に、私は
帰りのバスの中
私は、足が、震えていることに気が付いた
クーラーは効いていない
それどころか、雨が降ったせいか、暖房が、効いている
霧深い中をバスは、走っている
私は、リュックサックを、強く握り抱きながら
眠りにつこうとしていた
きっと、疲れすぎた幻覚を、振り払うための睡眠が必要なのだろう
バスの中 次の行き先が、告げられようとしていた
なぜなら、行き先の変わる音が、前の方で、カタリと、音を立てていたように思うからだ
私は一人、バスの中、意識を、手放さないように、努力したつもりだが
ゆっくりと、頭に、白い靄が出始めていた
りーんりーんりーん
しろぎり イタチ @zzed9
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