第15話

 花火大会自体は市の最南端に位置する砂浜で行われるが、それに伴って縁日や有志によるステージなども催されるらしく、実質的な会場は総合公園も含めた人工島の半分程になる。

 会場以外のどこに行く当てがあるわけでもなかったので、俺たちは相変わらず人の波に流されるままに歩いていた。途中、コンビニが数件あるのが目に入ったが、潮見の言ったようにどこも人で込み合っており、満足に買い物ができる状態ではなさそうだった。これがもし俺と茅ヶ崎の二人だけだったらと思うとぞっとする。あの時コンビニに寄るよう提案してくれた潮見様様だ。

「うわあ、わかってたけどやっぱり人多いね。打ち上げにはちょっと余裕持って来たのになあ」

 茅ヶ崎が会場である総合公園を見て、そう言った。俺たちの目の前にはそこそこの広さを持つであろう敷地を埋め尽くさんばかりの人の姿があった。

「花火大会はまだでも縁日自体は昼頃からやってるから、きっとそのせいだろうな」

「だね。じゃあ折角だし私たちも見て回ろうよ。打ち上げまではまだ後一時間ちょっとあるしさ。それに歩いて小腹も空いたことだし」

 茅ヶ崎はそう言って、「たこ焼き、焼きそば、りんごあめ」と口にしながら歩いていこうとする。

「あ、待って千夏。ここは人も多いから、多分はぐれちゃったら探すのに時間取られちゃう。一緒になって周ろ?」

「あ、そっか、ごめん。そういや私、今髪暗いんだった」

 茅ヶ崎はそう言って、顔の横の髪を指で掴んで見た。そろそろ暗くなってくるであろう今の時間を考えると、確かに一度逸れた茅ヶ崎を見つけるのには相当苦労しそうだった。思えば、以前の明るい髪色の時は、それが目印となって茅ヶ崎のことを見つけられたことが何回かあった。

「あの人くらい身長あれば髪色関係なく目印になるのになあ」

 茅ヶ崎はそう言って俺の後方を見る。しかし、俺が振り返った時にはちょうど肩車をした親子が目線を遮り、茅ヶ崎の言う背の高い人物を見ることはできなかった。

「私は千夏くらいの身長、羨ましいけどね」

 潮見がふと、そう零した。

「汐帆はスタイル良いから良いの。それにそれも含めて汐帆の良さなんだから自信持ちなよ」

 そう言う茅ヶ崎に潮見は少し微笑んで「うん」と返した。それはいつも茅ヶ崎が潮見に掛ける言葉だった。

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