第3話 ラナンキュラスの少女は微笑む。
「社会とは、時に道を間違い、残酷で厳しく辛い。それを変えようとするものもまた勇者である。」---300年生きる賢者の独り言
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私は今、少女を連れ街の大通りを歩いている。とりあえずこの子を温かいご飯を食べさせ、お風呂に入れベッドで寝かせてあげたい。でもその前にちゃんとした衣服を整える。
ボロキレのようなローブはあちこちに穴が空き、ほつれボロボロになっていた。次はご飯である。あそこではご飯などたまにパンのちぎりカスが与えられるだけでお腹が空いたら店先のものを盗って食べていたと話してくれた。
「でもこれからは、私が食べさせてあげるから盗んじゃいけないよ」
少女は信じていいのかわからないという顔をしていたが、その後小さくうなずいた。
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「なにか食べたいものもある?」
「、、、おにくとトマトのスープ」
「もしかしてトランチェ?」
少女が力強くうなずく。
トランチェとは牛酪でトマトを軽く炒め、鶏肉と一緒に香辛料で煮詰めたものである。香辛料が多く入っているためピリッとしており身体があたたまるため、寒い方の地域で好まれている。
ということは、この子もそういう地方出身なのだろうか。
「じゃあ。美味しいトランチェ食べに行こっか?」
「うん!」とニッコリ笑う少女。
やはり人は悲しい顔よりも笑った顔が一番可愛いのだ。だからこそ私はもうこの子にあのような顔はさせまいと心に密かに誓った。
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「美味しい?」と尋ねると
コクコクと首を何度も縦にふる少女。食べることに夢中になっており、頬にスープがついていたので拭いてあげようとすると、少女は少しびっくりした顔していた。
「大丈夫。スープが付いてたから拭いただけよ。」
びっくりしていて気がついたのか少し恥ずかしそうにする少女。
きっとあの環境でこんなことさえされたことがなかったのかと思うとまた少し心が締め付けられる。
親から与えられるはずだった愛情を少女は受けていない。受けていたのは罵声と暴力だけ。
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世の中は平等でも公平でもない。身分、生まれ、能力、様々なものから出来上がっている。古来から社会の成り立ちはそういうものだ。古の時代から、人は王を戴き、誰かが地を這う。それがこの世界の呼吸である。そういう意味では、神は嫌なところで平等だなと思う。
どれだけ劣悪なところにいようと、生まれたばかりでも、いつ何で死ぬか分からなくとも、能力や地位がなくても。
生きることだけは平等なのだ。
人は弱く脆い。だからこそ集団になり人数の鎧を着るのだ。
一人で生きるのは辛く厳しいから。
「だ、大丈夫?、、、」
少し物思いにふけりすぎたようだ。
「ん?ああ、少し考え事をしてただけだよ。あらもう食べ終わった?おかわりは?」
もじもじしながら「ほ、ほしい、、です」と答える少女。
可愛らしい。ということでおかわりを注文する。
「ところで、お名前は?」
「なまえ?なまえ、、、ない。あそこじゃ、お前とかおいって呼ばれてた。
お姉さんは?」
「わたしはねマキアっていうの。スルル・マキア。
名前がないのね...。じゃあ、私がつけていいかしら?」
「うん!」
人の本質の奥底まで見抜くような黒い目にそれと正反対の真っ白な髪。自分よりも他人を思う優しいな性格。そして彼女の周りをゆっくりとまとっているオレンジ色のオーラ。
「きめた!あなたの名前はラナンよ。いっそ私の妹ってことにしてスルル・ラナンにしよう。ね?どうかしら。」
「ラナン?」
「そうあなたの名前。温かい地方にはねラナンキュラスという花があるの。」
「その花言葉にはね、思いやりや光輝っていう意味があるの。あなたにぴったりよ!」
「そう、かな。ほんと??」
「ほんとよ!」
「へへ///ありがとう。」
何だこの可愛い子は、、、
天使だ
「さ、そろそろ夜も更けてきたし、宿に行きましょうか。一緒にお風呂入ろうねラナン。」
「ん?どしたのそんなにニコニコして。」
「らなん、ラナンかぁ、、、えへへ。」
「自分の名前を呼んでくれる声がこんなに暖かいなんて知らなかったなぁ...。」
と小さい声でにこにこしながら呟いている。
気に入ってくれてるみたいで良かった。
その小さな手を繋いで宿に向かう。絶対に離さないように。
記憶喪失なので、世界を歩くことにする 錫音零 @suzunezero0
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