派遣のおっさんが覇権をとる! ~くたびれ社畜男がダンジョンで無敵の人になり、現世と異世界の両方で頂点を極めてしまった件~
九坂くだる
新宿ダンジョンで覇権をとる
第1話
〖迷宮省災害対策室〗
「おい!アレをどうにかできる人間が本当に存在するのかっ!?」
慌てふためく大臣が窓の外の絶望的な状況を指さしながら、部下の女に怒鳴り散らした。
東京都池袋上空に浮かぶは、山を逆さにしたような巨大な氷塊である。
召喚陣からゆっくりと生み出されていくアレは、今まさに幾千もの人々を押し潰さんとしている。
「はい。例の男ならば造作もなく止めて見せるでしょう」
「大臣!地下シェルターへご案内します、お急ぎください!」
「うるさい!この私が市民を置いて逃げるとでも思ったか!例の男とは一体何者なのだ!?今どこにいる?」
部下は焦る大臣秘書を横目に淡々と答える。
「男は新宿ダンジョン災害の救世主として世界中から絶大な人気を得ました。初めは冗談として、、、しかし今では尊敬と畏怖の念を込めて、このように呼ばれています」
次の瞬間、部下は極めて真剣な顔で言い放った。
「無敵のおじさん、、、と!」
「無敵の?おじさん?ふざけてるぅ!?よし。シェルターに案内しろぉ!!!」
「はいぃいいいいいいいいい!」
氷塊の真下。
高層タワーの頂上。
そこに桁外れの魔力を纏う、くたびれた顔の男が一人、、、。
※ ※ ※ ※ ※
(5ヶ月前)
曰く、、、何も失うものがない無職の人間は、無敵の人などと呼ばれるらしい。
「おいノグソ!お前ダンジョンに配信しに行けぇ!!!」
俺は野草大助。38歳の派遣社員。
新卒の頃、第二次魔石ショックと呼ばれる不況が直撃。スコン!と弾かれるように社会のレールから脱落した。
色々あって今はミニモーターという中古ナビドローンの修理販売会社で働いている。
「おい聞いてんのか無能。お前が初めて役に立てる仕事だぞ?」
派遣には二種類のタイプがいる。
替えがきく派遣と、替えがきかない派遣だ。
俺は前者だが、前者なりにあがいてきた。
そう。弾かれたレールに戻ろうとあがいたのだ。
結果、無期雇用という名の飼い殺し契約の中で、普通に正社員と同じ業務をし、普通にパワハラを受け、普通にサビ残をし、普通に低賃金でこき使われている。
無敵の人になる決心は、まだつかない。
「最近ダンジョン配信てやつが流行ってるんだと。深く潜れば潜るほどイイ宣伝になるぞぉ?」
「中古ドローンを使って会社のPRをする、、、と」
「そういうことだ。馬鹿のくせによく理解できたなぁおい」
年下上司がノルマ未達に焦ったのか、ワケの分からん事を言い始めた。
ウチは不正問題が発覚して連日ニュースで取り上げられたせいで、絶賛客足が遠のき中だ。
俺は不正に手を出さない→相対的に結果が出ない→激詰め。
こんな理不尽サイクルが続いていたが、最近は幾らかマシになった。
なにせどこの支店にも客が来ないからね。
「今ニュースでやってたんだが、突然ダンジョンが過去最高に暴走し始めたらしいぞ。絵になるぜこりゃあ!」
ちなみにダンジョンが日本に出現してから33年間。
俺は一度も入ったことがない。
完全な素人を危険なモンスターの巣窟に向かわせる気か、、、?
慢性的な不眠症で頭が回らない。
が、トチ狂った話なのは分かる。
「うまくいったら今度こそ正社員にしてやるぞ!」
「、、、どこまでですか?2層。もしかして、3層ですか??」
上司はニヤつきながら一言。
「行けるとこまで逝ってこーい!!!!!」
ドツかれた勢いのまま店を出ると、商店街の煌びやかな飾りが目に飛び込んできた。夏の熱気の中に、縁日の屋台が並んでいる。
「今日、夏祭りか」
街ゆく人は浴衣姿で誰かと寄り添いながら歩いている。
手にはイカ焼き、チョコバナナ、焼きそば。
堪能してやがる、、、祭りを!
季節のイベントを一人でやり過ごすことに慣れきってしまった全ての大人達に幸あれ。つーか、俺に幸あれぇ!
などと考えていると、幸せそうな若いカップルがたらたらと横断歩道を歩く姿が。
そこに全く止まる気配のないトラックが突っ込んできて、、、
「危ない!」
俺はカップルを突き飛ばしながら思った。
これ異世界転生するパターンのヤツ。
過去の記憶が走馬灯のように流れ、、、なかった。
耳をつんざくような衝突音。
血、出てない。痛み、なし。
無傷、、、?
トラックの前面は大きく凹んでいた。
転生するのもやぶさかではなかったのに、なぜか助かったらしい。
ホッと安堵した瞬間、強風が吹き荒れた。
見上げると、マンション工事で吊り下げられた鉄筋が降ってくるではないか!
「危ない!」
俺はカップルをぶっ飛ばしながら思った。
これ異世界転生するパターンの以下略!
鉄筋は確かに俺の頭に降り注いだが、痛みがない。全くの無傷だ。
なぜに!?どうなってる???
今度はタダならぬ殺気を感じて顔を上げると、目を血走らせたスキンヘッドの男がバールのようなバールを振り回しながらこちらに向かってきた。
「祭りでイチャつくヤツは全員〇ねぇえええええええ!!!」
「危ない!」
俺はカップルをなぎ倒しながら以下略。
脳天にフルスイングされるが。
「うがぁ!えぇ?バールが曲がって、えぇ、、、?」
無傷である。
俺はどうあっても転生できないらしい。
この男を追ってきたであろう警察と入れ替わるように、俺はその場を後にした。
「あの!助けてくれてありがとう!おじさん!!!」
おじ、、、。まぁ38はおじさんか。
背後からの礼に苦笑いで答えて、俺は歩き続ける。
そもそも俺が助けたのか?
分からない。けどいつぶりだろうか、人から感謝されたのは。
悪くない気分だな、うむ。
「行くかぁ、、、ダンジョン」
祭りの夜に死んだ目をして働く警察官、もとい全ての大人達に敬意を示しつつ、俺もまた、仕事へと向かった。
【AIログ】
20XX年1月1日 チャンネル開設。
同年6月3日 収益化条件達成。
同年7月24日18:17 新宿ダンジョンにてライブ配信開始。
現在の視聴者数、、、0人。
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