Day.4『アクアリウム』
「龍神様ーっ!」
目覚ましのアラームを設定してあったのに、今朝は鳴らなかった。画面を見て、声にならない悲鳴が口から漏れる。充電が二十パーセント以下を示す赤色が点滅していた。
「龍神様っ、夜中に私のスマホ勝手に使いましたか?!」
どうやら龍神様は寝起きが悪いようで、まだ寝間着姿で枕を抱えたまま、ベッドでゴロゴロしていた。怒鳴り込んできた葵を、龍神様は寝返りを打って見上げると、んぁ~と猫みたいに伸びをした。
「あ~葵ちゃん~ 俺のデータ見てくれた? サンゴ岩、育ってたでしょう~ おかげで熱帯魚がたくさん来てくれてさぁ~」
龍神様が言っているのは、昨日教えたスマホゲームのことだろう。弟たちもやっているアクアリウムゲームで、龍神様も子どもみたいに目をキラキラさせて覗いてきたので、全員で教えたのだ。
そうしたら想像以上にハマってしまって、日付が変わるギリギリまで、スマホを返してくれなかったのだ。
「いやぁ、面目ない。しかし、最近の文明の利器は面白いものが多いからなぁ。時間を忘れてついうっかり遊んでしまったわ」
仮にも龍神様とあられるお方が、スマホゲーム……アクアリウムゲームにハマるってどういうこと? 最近都会に出てきた蒼寿郎や福之助だって、ここまでやりこまないと思うが。蒼寿郎は画面を見続けてると目が痛くなると言うし、福之助はゲームの他にも楽しい遊びをたくさん知っているし。
「ついうっかりじゃないですよ~! スマホがないと連絡取りづらいじゃないですか~」
「そんなもんなくても連絡くらい取れるだろう」
「現役女子高校生には一応必需品なんですッ」
◇
「というわけで……今日はスマホがないので連絡が取れません」
今朝会ったことを話すと、あまねは膝を叩いて笑い、夜久子はご愁傷様、と哀れんだ視線を向けてきた。
「葵ちゃんそれマジ?」
「マジです。だからなにか用があったら、申し訳ないんだけど教室までお願いします」
「あたしだったらスマホないとか絶対死ぬ」
いつのまにか妖怪ヒーローのたまり場になっていた保健室のソファーで、龍神様ものんびりくつろぎながら、愛喜や福之助とスマホ画面を覗いている。
保健室の隅に置かせてもらっているコーヒーを淹れて一息つく。
神様もゲームハマるんだな。ゲーム中毒にならないといいんだけど。
「そんなに面白いのか、あの板」
葵の頭の中を覗いたみたいに、隣に座って英語の単語帳を開いていた蒼寿郎が遠巻きに眺めた。
「人それぞれかな」
ふーん、と返事をしてから、すんすんと鼻をひくつかせる。顔をしかめて、葵の持っているブラックコーヒーに視線を移した。
「それ、また飲んでるのか」
「そーちゃんも飲む?」
「苦いからいい」
「お砂糖とミルクたっぷり入れたら?」
「それなら飲む」
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