仲間を失った勇者と魔王の幹部

むいむの。

第1話

王国からかなり離れた場所の山に仲間を背負って雪をかき分け道なき道を進む青年がいた。


「オティス…私のことはもう置いていって。もう、私も長くないみたいだから…」


オティスと呼ばれた青年は足を止めた。吹雪く音だけが耳を通る。数秒間の沈黙の後、少年はもう一度歩き始めた。


「私、最後ぐらいはオティスに迷惑かけたくないよ」


オティスが自分を置いていく気がないということを理解した仲間は涙を流す。


「大丈夫だよ、エルシティー。この山を越えると街がある。そこで腕利きの医者に病気の原因を調べてもらってゆっくり観光しよう。その街は温泉が有名らしいよ」


泣いているエルシティーと呼ばれた仲間を励ますためにオティスは優しい声を掛ける。


「そう…だね…」


エルシティーは涙をグッとこらえ無理矢理笑顔を作る。


「右手に洞穴があるよ。今日はそこでご飯食べて明日に備えよっか」


「うん…」


そう言って勇者とその仲間は洞穴の中に入っていった。



翌日_____


「エルシティー、朝だよ。昨日獲った雪兎を焼いて一緒に食べよう?」


洞穴の中で声が反響する。しかしエルシティーはピクリとも動かない。オティスは何度か見たことがある光景に思わず倒れそうになる。しかし何とか留まり、エルシティの肩を強引に掴んだ。


「…エルシティー?エルシティー!?お願いだ!返事してくれ!!」


エルシティーの肩はもう冷たく心臓も止まっていた。瞬時にすでに手遅れだということに気付かされる。


「ケイクリカもファンドもエルシティーも!全員、謎の病で…!…嘘だ!僕のせいだ!僕のせいだ!!あの時僕が皆を旅に誘わなかったら…!」


ついに最後の仲間であったエルシティーも死にオティスは絶望のあまりかその場に膝から崩れ落ちる。


「は、ははは。僕たちの旅もどうやらここまでみたいだね。皆、魔王を討伐するって約束守れなかったよ。ごめんね」


オティスはエルシティーの亡骸に話しかけ、震えた手で首に剣をゆっくりと近づける。


「駄目ーーーー!」


剣の刃先が首に触れた。その瞬間、洞穴の外から声が聞こえ、黒い魔力の塊に剣が弾き飛ばされた。その声の主であろう真っ黒なフードを被った少女は歩いてオティスの元に向かう。


「その子、君が後を追うなんて望んでなかったと思うよ。もう一度よく考えて」


オティスは少女の言葉にハッとするとエルシティーの死体を抱えて泣いた。


「僕は…!僕は!!エルシティー、皆、本当にゴメン!」


「わかったならいいよ。じゃあ私はこれで」


「ちょっと待ってくれ!」


そそくさと去ろうとする少女をオティスは呼び止める。


「何?」


少女はオティスの方に振り向く。しかし何故か、少しばつが悪そうな顔をしていた。


「命の恩人にお礼がしたくて。この山を越えたあたりにある街で是非何か奢らせてくれないか?丁度吹雪も止んでるしな」


「もう…ないよ…」


少女の言葉をオティスは理解することができなかった。


「何がないんだ?」


オティスは聞き直す。


「その街。私の部下が崩壊させちゃったから。そもそも、こんなところに普通の女の子がいるのおかしいでしょ」


「は?」


オティスは少女の言葉に驚き言葉が出ない。少女が嘘をついているという雰囲気もない。それどころか少し悲しそうな顔をしている。


「…」


理解が追い付いていないオティスは何も言葉が出ないようだった。しばらく沈黙が続いたが居心地が悪くなったのか先に少女が口を開いた。


「私、魔王軍幹部のレアノ。あなたの敵だから恩を返すとかそう言うのいい」


そう言ってレアノと名乗った少女は洞窟から出て行く。


「街の崩壊は君が望んだことなのか!?」


オティスは洞窟の外にも届くような大きな声でレアノに尋ねた。


「何で?」


「君が悲しい顔をしてたから」


質問に質問で返したレアノにオティスはそう答える。するとレアノは大きなため息をつき、もう一度洞窟の中に戻ってきた。


「君、次の街なくなっちゃったけどその次の街まで1人で行ける?」


腰に手を当てながらオティスに尋ねる。


「多分、無理だと思う。だけど、僕には皆と約束した魔王の討伐があるからできる限り進んでみようと考えている」


オティスの返事を聞いたレアノはもう一度大きなため息をつく。


「君、名前は?」


「えぇっと…」


何の脈絡のない質問にオティスは返答に時間をかける。


「だーから!君の名前は!!」


レアノは中々答えないオティスにしびれを切らしたのかさっきより圧をかけた。少し驚いたオティスは急いで自己紹介をする。


「ぼ、僕の名前はオティスだ。職業は勇者、始まりの街から仲間たちとここまで来た」


「もしもだよ。もしも私が君を次の安全な街まで連れて行ってあげると言ったらオティスはどうする?」


オティスの自己紹介を聞くとすぐにレアノはまた質問をした。


「いいのか!?それはとてもありがたいけど、君は魔王軍の幹部なんだろ?何故勇者である僕を助けるんだ?」


「君が行く予定だった次の街は私が崩壊させちゃったし、せめてもの詰み滅ぼしをしたいだけだから。私が悪いことをしたって思いたくないのよ。勘違いしないでよね」


オティスは罠である可能性も考えたけれど根拠はないがレアノがそういったことをするようには見えなかった。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」


オティスは笑顔でそう答えた。


「ここから次の街は…海の街マナリアね。あなたの仲間を弔ったらすぐに出発するわよ」


そう言ってレアノは物憂げな表情でエルシティーの死体を見た。オティスはエルシティーが肌身離さずつけていた指輪を取り、自分に着ける。


「じゃ、弔ったみたいだし切り替えてさっさと行くわよ」


「ちょ、ちょっと待って」


もうすでに出発しているレアノをオティスは急いで荷物をまとめ追いかける。ともに旅をするのは魔王軍の幹部のはずなのに、オティスは少し安心感を抱いていた。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仲間を失った勇者と魔王の幹部 むいむの。 @01060106

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ