第2話 炎命術の利点・欠点。
ミチト達は今、アラリー山脈にあるスティエット村の跡地付近に家を建てて暮らしている。
元々聖地で、コーラルの石棺を安置した時から禁足地に近い扱いになっている関係上、近くに来る者もいないので隠れ住むには丁度いい。
ミチト達は折角だから隠匿生活を楽しむと言っていて、普段は家族が揃っているが、この日のアクィとコーラルはサルバン家で訓練を積み、イブとライブはドウコの寺院に顔を出して、自身の死を偽装する為に両親達を仕事漬けにした結果、200年近く経っても事業の続いている、レス商会とロス商会の店に客として顔を出してみていた。
「ミチトさん、こんばんは!」
「来たねヴァン君」
「はい!」
軒先で肉を焼いてヴァンを待つミチトの声から、ヴァンがきた事に気付いたリナが「いらっしゃい」と家から出てくると、「あれ?ヘマタイトは?来なかったの?」と聞きながら遠視術を使って、「ラージポット?」とヴァンに聞く。
ヘマタイトはラージポットでオルドスとゴルディナと何かを話しているのがリナには見えた。
「うん。トゥモに宿題出されたのと、ここに来ると結婚しろしろ言われて困るから逃げたんだ」
「あらら、逆に残念だったね。今日来ていれば、来たけどアクィ達は居なかったって言って逃げられたのにね」
「あはは。この前ライブさんに言われた、コードと地下喫茶に行ってこいってのがキツかったみたい」
「まあ無理だよね。アクィは貴族のパーティに連れて行こうとしてたけど、イブは諸国漫遊をさせて召喚術でご先祖様と再会させてあげる事をさせて、人とのつながりを増やしてあげたいって言ってたし、ロゼの血筋として考えたらカラーガの遠縁の子とか狙ってたみたいだしね」
リナとヴァンの会話を聞いて呆れるミチトは、「そんなの天空島でエンバーとテバッサの子孫とかもお似合いなんだから、地上が嫌なら天空島に行けばいいんだよ」と笑ってから、「さあ、少し食べながら話をしよう」と言った。
ヴァンが「ミチトさんの料理とリナさんの料理を独り占めできてサイコー」と喜ぶと、リナもミチトも嬉しい気分になる。
「でも奥さん達が帰ってこないって珍しいですね」
「うん。今日の話はあまり大っぴらに出来ないしね。ヴァン君はわかるかい?」
ミチトは真剣な顔で頷いてリナを見るとリナも頷く。
「うん。大地の根にも近寄らせられない話だよね」
「まあ、3人は通気水晶を持たせてるから気付かないだろうね」
ミチトの真剣な顔に、ヴァンは「それとひとつ気になったんだ。ミチトさん、大地の根には行かないの?行かないで平気なの?ミチトさんも必要なくなったんじゃない?多分、それが炎命術の術消費が多かった理由。アゲースすら気付いてない欠点でもあり凄い点だよね」と頷きながら答えた。
「やっぱり凄いね。そう、ライブは決戦中に無限魔水晶を意識していたが、あれはアゲースの盲信術が誤認させていた。リナさんは俺の願いの具現化が変化を促した、言うなればタシアやフユィみたいな後天性の無限術人間真式。だから問題はなかった」
ミチトはリナを見て頷き、リナは頷き返す。
「ミチトさん、多分だけど、ミチトさんは本来の術量に応じて炎命術が身体を作り替えた。だから大地の根に行かなくても問題ないし、生前よりも術量がある。そして全盛期の身体のままで蓄積した悪いものもない状態。今のままならお爺さんになった時に前みたいな不調は訪れない」
「うん。イブ達もそれと一緒だ。無限術人間模式として死に、炎命術で蘇った時、術人間の能力のまま人間に戻れている。模真式のアクィもだね。それにしてもヴァン君はそれに気付いたか、本当に凄いね」
感心するミチトに、リナが「それはね。うちの娘達が全員素敵って言える男の子だもんね」と言うと、目を三角にして圧力を放つミチトが「…ヴァン君、君にはコーラルがいるよね?召喚術で呼んで何かしたりしないよね?」と聞いてくる。
ヴァンは怯える事なく「俺にはコーラルが居るから、術や技については聞きたいけど、それ以外はしませんって」と笑い飛ばすと、リナが「ほら、脱線したよ。トゥモのお願いなんだから聞いてあげなさい」とミチトに言う。
ミチトは「おっと」と言うと、真面目な顔で「ヴァン君、無限術人間には何種類あるかわかるかな?」と聞いた。
「え?大きく分けたら真式と模式、真模式と模真式、後は俺の真模真式の5種類だよね?」
「うん。それは間違っていない。俺と真式、リナさんやコーラル達の違いはわかるかい?」
「ん?ミチトさんとオルドス様?リナさんとコーラル?オルドス様の事ってあんまり知らないんですよね」
「あー…、そうなるか、じゃあアゲースの事は知らないけど、本に書いたジャスパーの事は?俺とジャスパー、リナさんとコーラル。その違いだよ」
ヴァンは清書したミチトの伝説を思い返しながら、目の前のミチトとリナ、コーラルと顔も知らないジャスパー・ワーティスの事を思案する。
少しの後で「あ…、人から無限術人間真式になった人と、コーラルみたいに生まれつき真式だった人だ」とヴァンが気付く。
「うん。大まかな概念は当たり。でもリナさんの部分が間違っている。言うなれば真式の条件を満たして、自力で無限術人間真式になった者と、俺の願いや俺の血筋で生まれながらに真式になった者の違いだよ。前提としてブレるけど、フユィやオブシダン、タシア達みたいな後天性の術人間も条件をクリアしてないから、リナさんやコーラル達と同じ扱いだよ」
「…真式の条件…、本には絶対に書かないって、ザップ様が言ってました」
ミチトは自分の出自を思い出し、自分が虐げられ、命を脅かされたあの日々を思い出しながら、クリアできればまだしも出来なければ命はない。あんな思いを人にさせていいわけがないと再度思っていた。
「そうだね。真式の条件なんて流出したら、世の中がコレでもかと乱れるからね。そして最大の違いは、条件を満たして真式になると、何かしらの特殊能力に目覚める事、リナさんやコーラル達にはそれがない。ジャスパーの奴は何だったのか知らないけど、きっと気付かない何かがあったはずなんだ」
ヴァンが「特殊能力…」と呟くと、「前も話したけど、俺の力は願いの具現化、真式はそれに近いけど、一番大きいのは世界の行く末を知りたくなった為に、永遠にも近い時を生きられる不老」とミチトは説明する。
「あれ…条件を満たして自然発生したなら、真模式のシヤ・トウテは?」
「そう、模式でありながら真式の条件を満たしてしまったシヤの能力は、死者との繋がりを得る事。シヤは殺してしまった仲間達との繋がりを持ち、生まれ変わりを願った結果、その仲間が子ども達として生まれ変わってきた。それは本にもあるよね?まあシヤの力とは書かせなかったんだ。ただ、きちんとシヤの子ではない、イイーヨとアガット、テバッサとエンバー、イイヒートとアメジストの元にもエグゼが受肉術で生み出したイズナ、イーヤ、イッツィーがきちんと生まれてきたよ」
「ミチトさん?その生まれ変わりと話した事とかあるんですか?」
「うん。話した。うちの家族は皆話したよ。だからトゥモはシヤの能力を基礎に召喚術を思いついた。まあ、シヤの力を一般化したと言ったほうがいいかもね」
ミチトは自分とは違うアプローチ方法に気付いたトゥモとシヤの顔を思い浮かべていた。
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