第13話 筋肉と出かけた。
「出かけた?」
私は悠子に無言のアツをかけられ、仲島君の家に来ていた。練習試合終わり。
仲島君と石澤さんが話してたのが、どうにも気になるらしい。ちな、私も気にならなくはない。
「汗かいたから帰る」
そう言って先に帰ってしまった仲島君の背中。
いや「今日はありがと」と、お茶とか買ってくれたりで、やっぱ仲島君だと思ったのだけど。
だけど! 信じない人がいるんです‼ 私のすぐ側に! そう、ただいまご紹介しました瀬戸悠子さんです。
「おかしい。そそくさ帰るなんてありえない。これは浮気!?」
あの、お言葉ですが、浮気の概念バグってませんか?
浮気ってのは、夫婦間とか付き合ってる相手に対してであって、あなた。別れましたよね?
しかも、自分から振りましたよね? 私の記憶が正しいのなら! サッカーばっかりしてて。
部活の連中と遊びほうけて、つまんないっていう、ホントつまんない理由で。悪いけど、小学生レベルだからね。
私なんてさぁ、まあまあ切実だよ? まあある意味、俊樹とは距離を取りたいから、悠子の無茶振りのひとつやふたつ付き合うけど。
振った相手に浮気を疑うのはちょっと、見てて聞いてて、しんどいかなぁ。
「お姉さん! 瀬戸です! 翔――君はその、女子と出かけたりしてませんでしたか? 例えるならベリーショートの!」
それって石澤さん疑ってる?
いや、あの手洗い場のは、私も見たけど3分なかったよ?
しかもアレって、私らにお茶買いに行ってくれたんだからね? 見えてますか? 恋する乙女じゃないんだから、しっかりしてくれ。
「女子と? なんで?」
普通そうなる。
いきなり訪ねてきたふたり。そういや、泊めてもらった時もいきなり。きっとお姉さん的には「お前らにはアポという文化はないのか」と思われてることだろう。
ここは空気を読んで――
「お姉さん、もしかして何か隠してませんか?」
ってコラ! 君ね、立ち位置完全、元カノだから! 通報されてもおかしくないよ? 帰ろう? ねぇ、思い出は
「隠してないけど、なんかあった?」
メンタルツヨツヨな悠子は今日の試合のこと、試合中に監督に仲島君が言われてたことや、試合後にあったこと、その石澤さんとのこと。
そしてここは、自分が
慰めて――って言葉。
なんか生々しいと感じたのは私だけだろうか。いや、悠子。慰めるって言葉にもっとも縁遠い気がしてならない。
「女の子に慰めて貰う? うちの
カッコつけなんだ。確かにスカしてるところはあるけど、アレってカッコつけてたんだ。伝わらねぇ。
「でもでもですよ、スポーツしてる『そういうのわかる~ッ! 私もある~ッ!』みたいな女子とかが、もし現れたら!?」
もう、石澤だよね? それほぼ名指しだろ。
しっかし、我が親友ながらグイグイ行くよな、つまり元カレのお姉さんだよ? まあまあ、気まずい
「バレー部」
「そう! バレー部女子です!」
「いや、違うくて、バレー部と出かけた。勇斗とさっちんとカンチとエビナ」
「えっと、それって……」
中学の時の同級生。仲島君となかよし。でも、誰一人バレー部じゃない。
「翔を加えて『筋肉ファイブ』知らない?」
「筋肉ファイブですか、初耳です。悠子知ってた?」
悠子はプルプルと首を振る。まだ納得してないようだ。それがお姉さんに伝わったみたいで「やれやれ、聞きたい? 聞きたいよね?」みたいな、ちょっとうんざりして、どこかちょっと期待してる顔した。
私らはクビが落ちちゃう勢いで
「えっとね、うちって、何となくわかると思うけどね、思ってる以上にゆるいの。家訓とか、あるとしたらそれはたぶん『前へ』なの」
「「前へ?」」
「うん、お父さんがね。振り向くなって。前だけ見てろって。小さい頃からずっ〜と言ってくれるの。失敗しても次があるって。失くしたって、それがすべてじゃないって。だから『前』だけ向いて頑張れって」
「でもですね、あんなに言われたら、女子に愚痴のひとつやふたつ……」
悠子は食らいつく。勇者だ。
「そりゃ、愚痴くらいは言うかもだけど、瀬戸さんだっけ? 翔に自分を頼ってほしいって思ってくれてるんでしょ? それは姉としてありがたいんだけど、それはちょっと違ってて」
「違う、ですか?」
思わず口を挟んでしまった。
俊樹なんて、少しうまくいかなかったくらいで、ぐちぐち言う。それもう聞いたから! ってくらい愚痴は続くから、男子ってそういうものだと。
「ちょっとね。なんていうか、こういう時って、あの子は女子に、よしよしして欲しいんじゃないんだと思う。監督からキツイこと言われてるのは聞いてる。本人からっていうより、試合観に行ったお父さんから」
「お父さんはなんて?」
「スポーツだからしょうがないって。ある程度結果だからって。そりゃ、もちろん腹立ってると思うよ。でもね、本人がまだ楽しいって言ってるから」
あの状況。
監督からの心ない言葉。フリーでもパス出ししない仲間。私の目からみても、明らかにワザとだ。仲島君が結果を出してしまったら、仲島君はBチームや、もしかしたらAチームに昇格してしまう。
そうなると、自分のチャンスが減ると思って、パスを出さないようにしか見えない。これがスポーツなの?
スポーツマンシップってこういうのか。強豪校ってこんなクソなの? 私のどこかで見ないように、言葉にしないようにしていた感情が
仲島君はこんな奴らと違う! そう叫びたかった。
それで気付いた。
悠子に連れられて来た
私は違うよ、ちゃんと見てるよ。大丈夫ひとりじゃないよって。でも、それは違う。私は単にアピりたかったんだ……恥ずかしい。
私はちゃんとわかってるからって、聞いてほしかったのは私だ。
そして
「スポーツしてたら、何かしらあるよ。筋肉ファイブもほら、バスケとか、陸上部とか、水泳とかしてるじゃない。それでね、私は思うの。誰もしてないバレーやって、バカみたいに、はしゃいで、また頑張る。それを繰り返す。男の子って感じじゃない? 私はそれでいいと思うのね」
私はまだ納得いかない悠子の服を引っ張って、仲島君の家を後にした。
きっと、仲島君は自分の力で、痛みとか苦さを
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