第24話 千年大罪のミカ⑤

 自分の体に流れ込んできている力を外に押し出して覆うイメージ。


 そのイメージを強めている内に、体付近が光っていくのを感じた。


「さあ、実感してみて」


 千年大罪のミカは小石を拾うと僕に投げつけた。


 僕に投じられた小石は宙を舞って、僕の体寸前のところで壁にでもぶつかったように跳ね返って落ちた。


「ええっ。すごい……」


 僕は感動して思わず声に出した。


「これが防御強化魔法。国の僧侶なら大抵の人間は使ってるわ」


 ミカはことも何気に言った。


 ミカは僕が魔法の力で強化していたのはわかっていたらしく、それについては隠す意味もないので、僕もそこは素直に認めておいた。


 例の手の動きを見せたら、「はあ」とだけ言われて流されたが……。


 ミカが言うには、魔法の力で補助されてはいるものの、それが使い切れておらず、かなりの力が遊んでいる状態だったらしい。


 今はその力を防御魔法として変換するように教えられている。


「いい? 徹底的に感覚に染み込ませるのよ」


「おお……! 我ながら、いい感じです!」


「そりゃそうよ。補助で私が魔法をかけてあげてるところなんだから」


 調子に乗ってきたところで、すぐに現実は甘くないことを叩きつけられてしまった。


「防御力を上昇させつつ、魔物と肉弾戦をするんでしょ? そんなことじゃまったく使い物にならないわよ」


 そう言うと、ミカは僕に何か魔法をかけたようだった。


「う、うわ……。はいー!」


 僕は体が熱くなってきて、変な声が出てしまった。おそらく目が覚めるような魔法を僕にかけたのだろう。


 体に余った力を外部に出して自分に覆う。とにかく戦闘中に行うのをイメージしつつ繰り返した。


「そろそろここまでにしておきましょうか」


 ミカがそう告げた時、すっかり日没が近くなっていた。


「……はい」


 僕はもうすっかりクタクタだ。


「明日にはどれだけ実践できるようになってるかしらね。まあ、がんばるといいわ」


 そう言うと、ミカは空から輝き降り注ぐ光と共にどこかへ消えていった。


 僕はトボトボとホームに戻ると、乱暴に食べ物を喉に通し、いつものろくろ回しも行うと、少し早く眠りについた。


 翌日。定例通りに、デーモンラットの軍団がやって来た。


 前日と同じ場所に敵襲を待ち構えていると、僕の頭上からキラキラとした輝きが降り注ぎ、その光と共にゆっくりとミカが降りてきた。


 ゆっくりと天から降りてくるのでまくれることはないものの、あいも変わらずスカートの中が見えそうなことになって困る。僕はそれとなく視線を外しておいた。


「さあ。たっぷりと成果を私に見せてちょうだい」


 ミカは僕の後方でそう声をかけると、着地したと同時にまた何か光を発した。


 ミカを中心として広がった球体の上半分の形の光の膜は、10人ほど収まる広さがあり、バリアになっている。どれぐらいの強度があるのかよく知らないが、少なくともあれを突破したゴブリンは1匹もいないようだ。


 とてもじゃないが、僕にはあそこまでできそうにない。特に背中側が全然ダメだ。しかし、それでも手応えはある。


「うりゃあああ……!」


 迫りくるデーモンラットの群れに僕は突っ込んで行った。


「ピギイイイイ!」


 デーモンラット軍団とは既に僕でも単身でまとめて相手にできる力関係になったが、バリア効果が追加されたおかげで、更に楽に戦えるようになった。


 ちぎっては投げ、ちぎっては投げと、どんどん殴り倒していく。


「ピギャアアアアア!」


「ピシュアアアアアアアア!」


 しばらくして、あたりはすっかりと静かになった。魔物は見事に全滅し、一面には倒したデーモンラットの山となっている。


 僕はやや中腰でその光景を眺めた。今回から防御強化を加えているのだ。さすがにかなり疲れた。


 そこに、ミカが僕に手をかざしながら歩み寄った。


「ど、どうでしたか?」


 僕はヒヤリとしつつも尋ねた。


「まあ、やれるだけやってみたら?」


 合格点とは行かなかったのだろうか。ミカはいつも通りの調子でそう言うと、僕に魔法をかけつつ、通り過ぎていった。


 どうやら今回は純粋な回復魔法だったようで、ミカの魔法がかかると同時に僕の疲労も急速に抜けていった。


 僕は慌ててミカにお礼を言おうとしたが、彼女は何一つ興味がなさそうな様子で、倒れたデーモンラットでいっぱいの広原へと向かっていった。


 ミカが右手をかざしながら歩を進めていくと、彼女の近くに横たわっていたデーモンラットが次々と光に包まれて、きれいさっぱり消えていった。


 いや、光に包まれるというより、デーモンラットの体自体が光っていって、そこから微細な粒になって空へと消えていく感じだ。何とも神秘的な光景である。


 この光景を見るのは、実は初めてではなく、ミカは戦闘が終わるといつもこれを行っている。


 思えば、未だにその理由を僕は知らない。そのことに気づいた僕はミカの近くに駆け寄っていた。

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